2017年2月の読書メーター

2月の末と言えば国公立大学の入試。大学の先生方が入試業務で忙しいことは学内の猫だって知っています。
しかし事務はこの年度末に始まった仕事であっても構わず規定の日付までに書類を出せとかなんとか……書式が送られてきたかと思うとすぐ出さねばならない四次元締め切りを体験しました。
この場合、まったく必要性を感じない書類というわけではないので、まだ許せますが。

 ~~~

さて、先月の読書メーターまとめです。
14冊2000ページでした。

読書メーター2017年2月

ページ数のキリがいいのはたまたま、数え方にちょっと問題があるケースもあります。
明らかに途中からペースダウン。他のことに色々かかずらわってたせいでしょう。学会シーズンはおそらくあまり関係ありません。
以下、読んだ本の抜粋です。


【小説】



死んで異世界に転生するにあたり「強くて可愛い身体になりたい」と願った少女はシャチの魔物に転生していた…その巨体とパワーで敵を叩き潰し、人化して美少女になり彼氏ゲットを目指してオル子の旅が始まる。仲間も魔物だけど人型(しかも美少女揃い)だというのに主人公は徹頭徹尾シャチ、しかもシャチなのに陸生。ネタとしては人外に転生する系も増えてきたのでこの位では驚かない。まあおバカなオル子の軽妙で妄想全開の一人称により軽く楽しく読めたのは事実。オチも言わずもがなの感あり。ミュラの正体とかは今後回収のネタ?


作者のにゃお氏にとって、角川スニーカー文庫からは『じっと見つめる君は堕天使』に次ぐ2冊目の刊行作品です。
そしてこれも「小説家になろう」掲載作品。新人賞応募作品もその後の作品も「なろう」で、というのは一貫した方針か何かでしょうか。

ちょっと話題を呼んだ『蜘蛛ですが、なにか?』のような例もあり、モンスターをはじめとする人外に転成する異世界転生ものもずいぶん増えてきました。はては自販機までありました。だからそれだけではさほど驚きません。(↓)
シャチなのに陸上専門とかふざけた要素は多々ありますが、やはり真の問題は、そういう一見すると出オチっぽいネタを出オチに終わらせずそこまで突き詰めるかです。





ところで、すっかりゲーム的にステータスを表示するシステムは便利なものとして定着した感があります。
世の中にはたとえば冒険者ギルドに行くと自動でステータスを読み取って登録証を作ってくれたりする設定の作品もあるんですが、モンスターの世界にはそういうシステムもなかろう……ということなのかどうなのか、謎の「天の声(?)」が主人公の頭の中に聞こえて「レベルアップしました」とか「スキル習得しました」「ポイント振りますか?」みたいになってるのが目立ちますね。『蜘蛛ですが』も本作もそうです。




青空文庫にて。哲学者の金井湛は世間が文学における性欲描写を真に迫っていると称えるのを見て、自分が性に関して冷淡ではないかと疑念を抱き、自分の性遍歴を書いてみようと思い立つ。幼少時の経験や性への好奇心、学校の寄宿舎での経験、吉原体験…虚実の境は必ずしも定かでないが、自伝的空気を漂わせた一遍。一部を除いて外国語の用語や人名が原語表記で色々出てくるので、理解には相応の知識を要する。当時の風俗を伝えるものとしては描写も優れており一級品。主人公の性に対して冷めた視線がまた客観性を感じさせるのもあるか。


多分、外来語のカタカナ表記は「シェルフ」「ノオトブック」「ペン」「インキ」くらいだったように思います。
好奇心を Neugierde と書くとか。当時まだ訳語が定着していなかった可能性もあるので、要調査です。


【漫画】



雑誌で見覚えのあるエピソードが一部。『コミックビーム』不定期掲載の連作に『ファミ通』の「読もう!コミックビーム」4コマを合わせたもの。いずれも日記漫画で、漫画喫茶暮らしから伊豆の別荘へと移動する生活を描く。独特の人との出会いや別荘での野生動物との戦いの日々だが、しばしば妄想や動物ばかりの夢エピソードが入るシュールなテイスト。それも枯淡の味わいで上手く統一されているかと。時期的には『日々我人間』と同時期だが、頁数の分そうやってネタに広がりがあるのがこっちの特色になっている。しかし漫画の中の姉は変わらないな。





今回は標高の低い千葉県で石切場のあった鋸山、地元の朝日山と低山を経て、箱根の大涌谷、群馬の浅間山、そして箱根リベンジで金時山から箱根湯本まで縦走。受験生のかえでは来なくなったが川に行き(水着回)大岩でボルタリングする場面も。グッズでは時計のエピソードあり。個人的には明るいと液晶が見え辛いんでデジタルは苦手だが…。カメラに凝りすぎて本末転倒のほのかとか、本格的な高山への挑戦は控えて山の色んな楽しみ方を描いてるのがポイントかな。火山情報への注意に触れつつ、火山の恩恵たる温泉をセットで描いてるのも良かった。





植物に虫こぶ(ゴール)を作る昆虫達。その分布、生活史、生態学的な働き…著者の研究人生を語るこのシリーズの中でも本書は特にその面が強く、高校の生物部に始まる生物研究の半生を追った形になっていて、一連の研究を体系的に解説したものではない。と言うか虫こぶ形成に関わるホルモンの詳しい働きは結局未解明とか、まだまだ謎が多い模様。他方で海外生活を含む体験談や教育についての経験も面白く読めた。口絵を見て、自分がいつぞや見た葉の膨らみもやはり虫こぶだったのか? と思い返す。今度見たら確かめてみたい。





持続、生の跳躍といったベルクソン哲学の主要な議論は科学とのいかなる対決に基づいているのか。内在としての持続や生を捉える哲学にとって、外的認識たる科学はどう寄与するのか。ベルクソン哲学を単なる「内在の哲学」としての読むことを退け、超越においてこそ内在の平面が構築される哲学として理解する。科学との協働というベルクソン哲学の方法論に関する研究としては同意するところ大。ただベルクソンの同時代だけでなく現代科学への言及もあるものの、タイトルの割には科学への言及は断片的な印象も。




読んだ本の詳細は追記にて。

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2017年1月の読書メーター

ついに今年の3月限りで私も京都大学大学院文学研究科を満期退学することになります(手続きに問題がなければ)。
と言っても、これからOD(オーバードクター)の期間で博士論文を仕上げねばなりませんし、退学後の当て(就職)が決まっているわけでもないんですが。

本ブログは読書メーターまとめ以外にも更新したいのですが、他のことに手を取られている状態です。
ちょっとどうなるかか分かりません。

ひとまず先月の読書メーターまとめです。
24冊5649ページでした。

読書メーター2017年1月

冊数は稼ぎましたが100ページ未満の薄い本や漫画が多いので実質多くはありません。
洋書は3冊読了してますが、内2冊は100ページ未満ですし。
以下は抜粋です。

【ライトノベル】



黒ギャルの東条あにすは異世界に転生した。ダークエルフと勘違いされて敵視されることもあるものの、モンスターや魔法の力たるマナとも仲良くなれるスキルで活躍する。彼女が出会った冒険者の少年ケンゴは「女難」のスキルを持つ故に女を避けようとしており…この設定なら転生より転移で良かったんじゃないかとか、ちょっと耳が尖りすぎてませんか(これはイラストの問題か)とか気になることはあるが、まあタフな主人公のお陰で軽く読めた。ラッキースケベをスキル扱いにして、それによる本人の苦悩に焦点を当てるという発想も悪くはないか。


正直なところ、

・生前の年齢、姿のままで異世界に突如送られる
・しかも本人は(元の世界で自分は死んだのだということを把握しつつ)「元の世界に戻る」ことを考えている。

この設定だと「死んで転生」だという意味を感じない、異世界転移(あるいは召喚)の方が相応しい気がします。そういう部分が一番気になる読者の方もアレですが。
「異世界転移」と「異世界召喚」は「小説家になろう」では独自ジャンルとして別枠になり、その区別にうるさかったりするので、そこに無頓着な作者はこの分野のプロパーじゃないな、と感じたり。それはどうでもいいんですが。


【漫画】



23世紀ものかと思ったら魔法ものの方の未来、火星植民地で日常的に魔法を使ってる世界だった。風林火山ネグリッシュ(眼鏡っ娘)は幼少時こそ祖父のステッキで魔法を使いこなし天才と呼ばれたものの、今は上手く行かない日々。そこに巨大魚や人魚が現れ、魔法を巡る異変が火星では貴重な入道雲に繋いで1巻で締め、ネタは割と良かった。人魚姫の件で百合要素ありかと思いきや、メインキャラ4人の誰と誰がくっつくという方には進まず、男女ベタベタする垣根が低いのは作者の描く未来もの共通かな。コマ外の描き込みネタは懐かしくて良かった。





 (前巻は2016年1月の読書メーターにて。ただし抜粋には入れていません)

今回は何と言ってもかつてハクメイがいたキャラバンの回。会うこともできず遠目に見て無事を伝えるだけ、しかもそれだけで道中は波乱万丈。でも過去の掘り下げも進むし良かった。釣りをして祭「樹鎮の夕べ」では悪魔役を演じ、仕事で廃屋を解体し…コンジュの隣人とかナライ会長の夫婦エピソードとか、サブキャラのエピソードも広がってる感じ。後、虫も隣人としていたけど虫メインの話は初めてのような。寸法の違いによる家具の扱いとか難しい。図書館ではハクメイの本を見出す意外な能力が。どれが一番と選べないくらい素晴らしかった。


ちょうど1年ぶりの新巻です。冒頭のエピソードは4巻最後のエピソードの続きでした。


【スポーツ】



2016年のシーズン、クライマックスシリーズ、日本シリーズの回顧。自分の過去の著書での言葉を振り返って考えの変わらないこと、進展したこと。そして選手かコーチ達への評価。なぜ大逆転優勝できたかではなく、なぜ11.5ゲーム差も離されてしまったかから考えること、短期決戦で打つべき手…著者の監督としての考え方が明晰に語られている。特にポストシーズンは全試合を裏舞台も含めて解説しており、リアル二刀流、1番ピッチャー大谷、中田翔への代打等の采配についても明瞭な説明あり。栗山野球の理解と'16年のまとめに相応しい。



【生物】



孤島の固有種である鳥を研究してきた鳥類学者、島について語る。島とは何かから始まり、特に大陸と繋がったことのない海洋島に着目する。海を越えて島に到着できるのはどんな生物が、どのようにしてなのか。その制約により生じる生物相の偏りと、その結果生じる固有種、そしてその脆さ。生物の移動と進化、その様々な具体例に生物多様性の維持と、かなり幅広いトピックに関わる一冊。最後の方まで読むと、この問題に公衆の感心を掻き立てるという本書の実践的意味も見えてくる。妖怪を例に挙げたり、毎頁冗談を飛ばすユーモアも健在で楽しかった。


以前に取り上げた『鳥類学者、無謀にも恐竜を語る』の著者による第二著。今回の話題はではなくです。まあ著者の専門が小笠原諸島の固有種であるメグロということで、著者の背ノンに深く関わる話題のようですが。
相変わらずジョークに溢れていて、しかし面白く分かりやすい科学書です。


【科学史・哲学】



19世紀の心理学・天文学における測定の誤差の問題から「十分の一秒」が重要なトピックとなった顛末、それを巡る議論の数々。それは、測定技術の進歩は何を捉え、何を逃すのかという深い認識論的問題にまで通じる。歴史のスタンダードな説明に挑み、過去のものと思われている問題が今にも通じていることを示す著者の手腕と知識の浩瀚さは見事の一言。登場人物の多くはマイナーな科学者だが、終盤にはベルクソンとアインシュタインの論争をもこの問題の中に位置付けており、同じ論争を主題とした次著に繋がるものも見て取れる。興味深い一冊。


2016年6月の読書メーターで取り上げた『The Physicist & the Philosopher』の著者 Jimena Canales の最初の著作(『The Physicist & the Philosopher』)が第二著に当たります)。まず「10分の1秒」という目の付け所にすでに独自性を感じます。両書でした。




現代は物質資源の消費量が減少し、情報技術やナノテクノロジーに移行している「脱物質化」の時代というのは本当か。事実、持続可能な発展のための命令、技術発展の動員という各面から「脱物質化」論を検討、その一面性を指摘する。さらには現代の新技術において一般的な「物質」ではなくそれぞれの特性の持った「素材」が重要になっているとの論を展開。技術による考え方の根本的な変化、その意義と危険性というオーソドックスな主題を扱った小著だが、さすがは優れた科学史家の手によるもの、切り口鋭く明晰。最後には質疑応答も収録。


上記の Canales が第二著『The Physicist & the Philosopher』で教えを受けた人として名を挙げていた一人がこちらの著者、Bernadette Bensaude-Vincent でした。
とりあえず薄くて手軽なものから読んでみましたが、なるほど「技術の革新による思想の変化」(遡れば)という着眼点からして通じるものがあります。そして間違いなく優れた考察を展開しています。


読んだの本の詳細は追記にて。

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2016年12月の読書メーター

だいぶ遅くなりましたが、先月の読書メーターまとめです。

読書メーター2016年12月

29冊6343ページでした。
数は増えたように見えますが、実際には再読を含む漫画で頁数を稼いだだけです。
洋書を2冊読了してますが、これも薄いですしね……

以下は抜粋です。

【小説】



女子大生・早乙女翠のもとに、異世界から「聖女」を求めてきたという王子アルフォンスが現れる。彼に家事を任せつつ、同居させることになる翠。そんな中、新作ゲームがアルフォンスのことを描いていると知り、魔王の攻略法を求めてプレイを始めるが…ゲームの世界への召喚のその後にして逆パターン。奇跡の理由や異世界人がこの世界で生きる方法には説明が必要でも、ゲームの世界の存在は説明不要なのが今の文脈か。姉を亡くした上長い失恋の内にあった翠と孤独な王子アルフォンスの結構重い恋愛物でありつつ、単巻で綺麗に完結してて良かった。


アリアンローズの新刊、つまり「小説家になろう」発作品です。
ただし本作は元々WEB版だと、中編「聖女の、その後」の続編という形で発表された作品で、「その後」の主人公である異世界召喚された女性の、残された妹が主人公の物語です。もちろん、ほぼ物語としては独立しており単発でも読めるのですが、姉の聖女の方の辿った運命を知っているかどうかで(死体になって帰ってきたという事情により、本作の主人公は姉が悲劇的な最期を遂げたと信じています)印象の違ってくる部分はあるでしょう。まあこの単行本も最後まで読めば番外編で、姉のその後の真相を描いてはいますが。

なお、

・ゲームの世界への召喚
・異世界召喚の後日譚

はもう珍しくもないネタですが、本作はその合わせ技として「異世界召喚の後日譚として今度は召喚先の世界の人間がこちらにやって来て、さらにこの世界で自分たちのことを描いたゲームに出会う(こちらの世界の人間である主人公から見ると、やって来た相手の世界がゲームの世界だったと判明)」というかなり凝ったパターンです。そして「ゲームの世界」が現実に存在していて行き来までできることはすでにこの分野の定番なので、なぜかの説明は必要ない、ということなのでしょうか。
ただ、本筋にはあまり関係ないことですが、このゲームの設定で「脱出不可能なラストダンジョン内でセーブできる」というシステムは、準備不足で突入したまま内部でセーブしてしまうと詰みかねないので、拙いんじゃないでしょうか。ラスダン内には戦闘不能になった仲間の蘇生手段もない辺り、悪名高いPS版DQ7のハーメリア編より凶悪です。

なろう系作品では比較的珍しく単巻完結の本作ですが、同作者には他にも「聖女シリーズ」があり。それも単行本化される可能性はあるのでしょうか。


【社会・心理】



「やさしい人」が人気だが、その実相手に嫌われたくない、面倒を避けたいといった理由からくる表面的なやさしさが氾濫している。だが、相手のためを思ってあえて厳しいことを言うというやさしさもあるはずだ…教師、上司、恋人や友達、親といった様々な場面での、表面的なやさしさの実例が大半。こうした社会の変容の背景に「タテマエの崩壊」があることと、個中心の西洋文化とは異なる日本固有の「間柄の文化」に関する分析が少々。まあ分かりやすいのは確か。


まあ内容的にはごくまとも、言い換えれば普通。でもこういうことを思い出させるのも定期的に必要な仕事なのでしょう。


【文化財学】



かつては金融アナリストとして働き、現在は文化財修復会社の社長を務めているイギリス人による提言。日本の医療・年金制度を維持するには観光立国が不可欠だが、それには日本の文化財はあまりにも不親切であり、行政の指定にも偏りが大きく、また現場関係者にもその気がない。だがこのまま営業努力を怠れば日本の伝統文化は消滅する…大変に明晰で、伝統文化も経済の問題を避けて通れないという論点はよく分かるし、文化財と職人の世界の非常識と悪しき習慣に関する指摘も興味深い。だが改革への壁は高そうだ…。


「料金が安いということは、その分サービスしなくていい」という旨の指摘は卓見です。


【自然科学】



量子力学が明らかにする素粒子の常識に反した振る舞いについて、スピンの基本的性格、EPR論文の唱えたパラドックス、ベルの定理(局所性もしくは実在性への問い質し)、コッヘン-スペンカーの定理(状況依存性)、自由意志定理(非決定論)を順次解説。あまり数式を使わず、場合によっては科学部記者あかりとヒロシの架空の対話を使っての説明の分かりやすさもさることながら、「自由意志定理」という近年の研究の紹介というだけでも価値あり。コンパクトで手頃な入門書。




 (私が読んだのは↑ですが、別の版↓もありました)


神を介入させず自然現象を法則により説明すること、説明のための概念的存在の導入、師タレスへの批判…といった古代ギリシアの哲学者アナクシマンドロスの思想に科学的思考の原点を見る。不確実さの自覚と転覆の力を科学の特徴とするのと合わせて、物理学者ロヴェッリの科学論と言える一冊。そんな「革命」を可能にしたミレトスの歴史・社会・文化の解説もあり、世界中のあらゆる言語による古典の引用も豊富。最後は神なしの世界像という問題から宗教と社会という話題にも及ぶ。著者の教養、そしてイタリア人の古典への造詣には圧倒される。


哲学書でもイタリア人の書いたものはギリシア語を引用する率が高い気がします。古代ギリシア哲学研究でも今やイタリアではかなり優れた研究がなされているようですし。
著者のロヴェッリは物理学者で(同著者の本は1冊、先月に取り上げました)、本書もロヴェッリ独自の科学論という面が強いのですが、その教養のカバー範囲の広さには驚くばかりです。もちろんアナクシマンドロスのギリシア語も引用していますし、その他にも各国語の引用が豊富です。


【哲学】



セネガルの詩人にして初代大統領にもなったレオポール・セダール・サンゴールと、インドの詩人にしてパキスタン独立を唱えたムハンマド・イクバール。植民地支配から独立を勝ち取った2つの国の「建国の父」のネグリチュード(黒人性)やイスラムを掲げた思想に、ベルクソンの生命論や時間の哲学はどう影響していたのか。当の2人を知らない人にはやや取っ付きにくい本かも。ただ最終章はイスラム思想の紹介もあり、『二源泉』と同時期に親近性のある思想を展開した人物がいたという点も含めて、結構興味深かった。



読んだ本の詳細は追記にて。

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2016年11月の読書メーター

先月の読書メーターまとめです。
10冊2480ページでした。

読書メーター2016年11月

明らかに、読書メーターを始めて以来最低の数値です。
その理由は一つには、550ページくらいある英語の大著『The Simgular Univers』(+いくつかの未読了の学術書)を読んでいたことでしょうか。2ヶ月続けて300~500ページの洋書を登録しているというのは、そう多くないはずです。
逆に言うと、学術書に集中してこの程度のペースではとうてい満足はできませんが。
今後はもっと研究に本腰を入れ、洋書をもっとハイペースで登録できる……といいのですが。その一方でブログの更新がなければ、そういうものだと思ってください。

それと、最近読書メーターがリニューアルされました。
書き込みの反映が遅かったりと不便も多いのですが、まとめも少し変化したようで、月間読書冊数のグラフはまとめに入らなくなりました。今はまだ旧読書メーターも使えるので、そちらからグラフをダウンロードしましたが、それもやがて消えるかも知れません。

以下は抜粋です。


【小説】



失恋した女子高生・児嶋アリサのもとに哲学者ニーチェを名乗る男が現れる。以来、ニーチェをはじめキルケゴール、ショーペンハウアー、サルトル、ハイデガー、ヤスパースが現代の京都に現れ、哲学を教授してくれる日々が始まる…ニーチェの時には大胆に噛み砕きつつも外れてはいないという感覚だが、キルケゴールに至っては宗教的な部分を抜きにすると中身も失われた感が否めない。背景の異なる思考を伝える難しさよ。ただ、著者が自らの実存から、表面的な慰めでなく真の導きとして哲学を受け止めているのが伝わるのは好印象。読後感も良かった。


こういう「現代日本人に分かりやすい例で噛み砕いて説明された哲学解説」を見ると逆に、やっぱり西洋哲学には西洋的文脈が重要なのだなあ、と実感しますね。それはやはり一つには、キリスト教です。
キリスト教を厳しく批判して「神の死」を唱えたニーチェにせよ、独自の信仰の立場を確立しようとしたキルケゴールにせよ、どちらの方向についてもそれは言えます。が、やはりとりわけキルケゴールについては……という気がします。

……が、他方で、これが哲学解説書のコーナーに置かれているのではなく、(専門家ではない)「哲学ファン」を自称する著者の手によって書かれた小説である限り、これもいいのかな、とも思います。
著者が自分の人生の導きとして哲学を求め、自分の問題として受け止めていることがよく伝わる、それでいいではないでしょうか。
学問の題材として哲学書を読んでいるとかえって疎かにしがちなことだけに、なおさらです。

そもそも死者の魂が残って現世に帰ってくるという設定が彼らの哲学と相容れるのか、等という野暮なことも言いますまい(等と書いた時点で言ってしまっていますけれど)。




 (前巻のレビューを含む記事はこちら

現役中高生の相談に答える『読売中高生新聞』連載版の単行本化、これをもって今度こそ最終巻らしい。相談員は初期メンバーの3人のみ。ただ、書き下ろしの最終回を除いて1話4ページしかないため、あらぬ方向に話が転がって行くいつもの持ち味は弱め。毎回回答ページには別個のキャラ絵があり、あとがきにもイラストを使ってのネタありでイラストはやけに凝っている。随所にキャラのらしさも見られたので良しとするか。



【漫画】



 (前巻の記事

総大将ジシュカの裏切り、多くの女達も捕虜になり苦境のターボル軍。だが、娘を攫いにクマン人が街に潜入し、攫われたクローニャを助けるべくシャールカが動いたことから真冬の奇襲が始まる…多重の裏切り工作も成功し、最後は十字軍を国から追い出す勝利も戦争終結には至らず、さらに新たな内紛の影も。毎回不穏な影をちかつかせながら、それを振り払っての勝利を描いてきたが、どこで終局を迎えるのか…怖いながらも楽しみだ。女の戦いという点では、今回はクマン人の姫エドゥアとフランチェスカも、それに皇后バルバラの存在感も印象的だった。


今回、シャールカはついに親友を殺した犯人を知るのですが、それでもその相手を「憎む」方には向かいません。そもそも、敵に対しても憎しみで戦っている風ではありませんでした。けれども戦う力を欲し、優しくか弱い少女でありながらいくら傷付いても立ち上がる――そんな主人公シャールカの不思議な強さが魅力なのは、言うに及ばず。




『週刊文春』の連載、気になっていたがちゃんと単行本化されたか。前半は東京の漫画喫茶に泊まり込み、後半は伊豆の別荘での計3年間の生活を綴る日記漫画。行き逢った不快な人、変な人をしばしば怒りを交えて描くのはもはや芸風だが、後半は環境の変化により人が減って虫や齧歯類との戦いが増えていく。虫の擬人化が多かったのは人間の女性が足りないせいか。その中でも珍しく日記漫画でなかったナウシカネタには大笑い。場面に応じた絵の味の出し方も外さず、老練の味である。久々の単行本を読めて良かった。


ちなみにケース入りの装丁で判型は横長(短編綴じ)、表紙と裏表紙も漫画になっている――というか、普通に連載第1回が表紙に、最後の収録分である第150回が裏表紙に掲載されています。週刊連載150回でちょうど3年分。

前半はこんな感じでしばしば人と世間に怒りをぶつけ、

日々我人間7回

伊豆の別荘暮らしになった後半では、たとえば屋内に侵入するタイワンリスと戦ったりする日々(他にもムカデとの戦いが何話にも渡って続いたり)。

日々我人間87回
 (いずれもクリックで画像拡大されます)


【美術】



個人的にダリは昔から馴染み深い画家なので、こういうコンパクトな本に書かれることならばかなりのことは既知。ポイントは画家の著作も豊富に引用し、ダブル・イメージの指摘も親切な作品解説、それに様々な作風を模倣した初期から、夫婦仲も冷え切って不遇になった晩年までの包括的な記述だろうか。最盛期の細密描写を示すいくつかの拡大写真や、例外的に抽象的な遺作《ツバメの尾》の読み解きがあるのも良かった。



【科学】



相対性理論、量子力学、宇宙観の歴史、素粒子論、相対論と量子論の統一理論、熱力学、そして宇宙における人間の地位を題材とした7つの物理講義。「とくに中心的な」統一理論として超弦理論でなく自分の専門であるループ量子重力を挙げる辺りはこだわりか。ループ入門には手頃かも。反面、熱力学と時間については古典的な印象も。古典や歴史にも通暁した学識と簡素ながらも鋭さのある解説は流石。ただ、各項の説明は本当に初歩の初歩。ベストセラーとは裏を返せば、これだけ易しくないと売れないのか、と思わないでもない。


イタリアではジャンル別ではなく、全書籍でトップのベストセラーになり、「奇跡」と言われた一冊とのこと。それは凄いことです。
しかし、「売れる本とはこれくらい初歩的なもの」だというのを見せられた後だと、興味深い本を見るたび「でもこれじゃ売れるには専門的すぎるか……」と、自分と世間との落差を思い知らされそうです。
ちなみに、著者のロヴェッリは物理学者ですが、人文学にも豊富な教養を持つ人だとあとがきでも言われています。それは事実。しかしその面でも、本書に表れているのはほんの一端でしかないように思われます。何しろ、古代ギリシアの哲学者アナクシマンドロスに科学的思考の起源を見るという本を書いて、紀元前のミレトスの歴史を述べ、古典ギリシア語でアナクシマンドロスの断章を飲用したりしているのと見比べれば、分かります。




「単独の宇宙」「時間の包括的実在性」「数学の選択的実在論(反プラトニズム・反規約主義)」という三つのテーゼに基づき、部分を理解するための理論を全体へと延長する宇宙論的誤謬を乗り越え、宇宙全体を理解するための自然哲学を目指す、哲学者と物理学者の共著。哲学的時間論ではなく現代の物理学が直面する問題から時間の実在性を唱えるのが味噌。スモーリンの部がTime Rebornより専門的なのはともかく、アンガーの部は繰り返しが多くやや辛い。ただ数学の選択的実在論だけでも価値はあったか。とにかく重要な一冊なのは確か。



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2016年10月の読書メーター

先月の読書メーターまとめです。
22冊5156ページでした。

読書メーター2016年10月

大部分は漫画ですが、洋書を3冊読了できたのが成果でしょうか。
それがこのくらいのペースに留まっている原因とも言えます。

以下は抜粋。他の本は改めて取り上げるつもりがあるものもありますが、結局記事を書く余裕がないまま終わるかも知れません……


【ライトノベル】



 (前巻の記事

耳長族(いわゆるエルフ)の村に招待されたエルネアとミストラル。そこで登場する第三の嫁候補? は耳長族の幼女プリシア。そこに猫モドキのニーミアも加わり、前半は賑やかながら平和。後半、戦巫女ルイネイネのお使いの旅にエルネアが同行することになってから、ようやくバトル展開も。竜人族との揉め事は当然想定されたが、直接ミストラル絡みではなく背後にもっと大きな騒動がありそうな展開。そして、ここでも女性陣が協力してハーレムへの道を敷くことがハーレムの条件なのか。エルネアの着実な成長は描かれているが、多分道は遠い。


ハーレムについての論は他作品で展開したので割愛。
今巻の前半は新ヒロインとして耳長族の幼女プリシアを加えての割と平和な日々、後半は1巻から主人公に好意を寄せている様子の描かれていた戦巫女ルイセイネの意外な能力が判明、一気に重要な味方メンバーに浮上、と同時にミストラルと手を取り合ってハーレムルートという内容でした。
なお、勇者リステアの出番は一気に巻末付録エピソードのみに後退。




森川瑠璃は幼い頃から篠宮あさひに付きまとわれて迷惑していたが、ある時あさひと同級生4名と共に異世界に召喚される。そこでも疎まれて森に追放と不遇な目に遭う瑠璃だが、実は精霊達に好かれる「愛し子」であることが判明。そして何の因果か猫に変身する腕輪を嵌めて竜王の城で暮らすことに…。国をも滅ぼせるチート能力ゆえにかえってその制御に苦心し、考えなしに戦争を目論む弱小国を止められずに苦労する様が深刻だが楽しい。そして瑠璃と竜王の、互いに惹かれ合いながら猫になっていて正体に気付かないすれ違いの恋愛が本筋かな。


アリアンローズの新作です。
竜王ジェイドは女性としての瑠璃に惹かれながら、目の前の白猫の正体が彼女とはつゆ知らず、瑠璃も自分を探しているという男がジェイドとは知らず。
お互いに惹かれ合いながらすれ違う男女……はラブコメの基本でしょう。


【学術書(洋書)】



「言語に対してもっとも批判的な哲学者こそ、もっとも上手く書く哲学者である」―言語は持続を表現できないと批判するベルクソンは、それでも持続を表現すべくいかに言語を用いたのか。ソシュールとの比較からベルクソンの批判はランガージュよりむしろ「ラング」に該当すると論じ、後半はベルクソンの文体分析を通してその哲学者としての言語使用を解明。最初のカントやフッサールの時間論との比較はやや形式的で、そこがソシュールとの比較にも不安を感じさせるが、ベルクソンの言語論研究としては興味深いものの一つ。


まあ「誰それにおける○○」という、専門家以外は読まない「研究書」の典型ではありますが。




物理学はつねに永遠不変の法則を求め、時間を排除してきた。とりわけ時間を第四の空間軸として記述するニュートン以降は。だがその考え方を全宇宙に適用することはできないし、「なぜこの法則なのか」の問いにも答えられないと見なす著者は時間の実在性の復権と、その中で法則も進化してきたという「宇宙論的自然選択」を提唱。哲学的には共同研究者アンガーの影響らしいが、ベルクソンとも多くが呼応する。その上で物理学者として反証可能な仮説を立てており、実に興味深い。最後は時間の実在性から社会論にも結びつく辺り、やはりベルクソン的。


著者のリー・スモーリンは理論物理学者ですが、哲学の学識もあり、『迷走する物理学』では「科学とは何か」を考察して学界のあり方についても提言するなど、優れた教養の持ち主です。
本書はブラジル出身の哲学者ロベルト・マンガベイラ・アンガーとの共著である『The Singular Universe and the Reality of Time(単独の宇宙と時間の実在)』への導入編のような扱いとのこと。
「時間の哲学」と現代哲学の対話可能性という、私自身の関心事にも深く関わる内容で、非常に興味深い一冊でした。



H.G.ウェルズの『タイムマシン』で始まった「タイムトラベル」という新しい想像力の形、その原型から現在に至る展開まで。タイムトラベルSFの主要作品を取り上げつつ、哲学者による議論や物理学の関連トピックも絡めて話を展開。科学史ライターの著者が現実には不可能な話題で書くとは? と思ったが、この不可能事を人々がいかに(時に真面目に)論じてきたか分かって面白い。最新の作品や議論(最近読んだものも)への言及もあって良かった。ただ一般向け読み物故か、引用の正確な出典を示していないのが残念。


なぜか日本のAmazonだとハードカバーのISBNでKindle版のページに飛ぶ上、ハードカバーは来年発売予定になっているのですが……
なおカバーの右下には「A HIstory」とあり、アメリカのAmazon.comでは『Time Travel: A History』までがタイトルでした。『タイムトラベルの歴史』という感じでしょうか。
タイムトラベルという現実には実現されていないものの歴史とはこれいかに……と思いますが、もちろんタイムトラベルを巡る思考と言説の歴史です。日本語でこのタイトルの本が店頭にあったら……悩むところです。
普段から学術書ばかり読んでいると、小説表現の引用が多い本書のようなものはやや読みづらくはありますが、しかし面白いものでした。


読んだ本の詳細は追記にて。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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