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超光速粒子とタイムマシン

ニュートリノの速度が光速を超えているのが測定された、というニュースがありました。
確かに重大なニュースですが…

「アインシュタインの相対性理論によれば物体は光速を超えられないので、これは相対性理論を覆す重大な発見であるかも知れない。
超光速粒子が存在すれば、タイムマシンも可能になる」


報道でしばしば見られたこのような表現には、大きく分けて三つくらいおかしな点があります。
挙げてみましょう。

1. 相対性理論によって不可能とされているのは「光速未満の物体を光速以上に加速すること」です。
我々が通常「物質」tして知っているものも、すべて光速未満でしか動けない素粒子から出来ています。
これに対し、光は常に光速です。それより速くも遅くもなれません。
そして、常に光速を超えている粒子、これは理論的には相対性理論に矛盾しません。
これをタキオンと呼びます。
もちろん、タキオンはまだ実際に発見されてはいませんでした。

2. タイムマシンと言いますが、理論的に可能とされているのは「超光速粒子を過去に送ること」です。
我々の身体を作る物質を超光速粒子に変換できなければ、我々が過去に行くことはできません。
そして、ニュートリノがタキオンであろうがなかろうが、いずれにせよ我々の身体を作る物質をニュートリノに変換はできません――超光速粒子とは別の(それ以上の)大発見がない限り。
できるとすれば、超光速粒子を信号に使って過去にメールを送るくらいでしょう。それも受信機が設置された時点以降に限りますが。

(なお、アニメ『シュタインズ・ゲート』に言及できる予定は当分ありません)

3. 上二つは物理学的な問題ですが、三つ目は論理的な問題です。
2の「超光速粒子を過去に送ることはできる」と言うのも、相対性理論によって考えられている「時空」のあり方を前提として、そこに超光速粒子を嵌め込めばそうなる、という話です(そうでなければ、まだ発見されてもいない超光速粒子でそんなことができると理論的に「予測」することもできないはずです)。
つまり、あくまで相対性理論の理論的枠組みは前提されています。
ところが、他方で「相対性理論が覆る」と言っています。
どっちなのでしょうか。


それぞれ、少し解説しておきましょう。
まず1ですが、ニュートリノが相対性理論で予測されるタキオンなのか、それとも、タキオンだと考えても矛盾するのかは、今の私の物理学知識では解答しかねます。ニュートリノに質量があるということが検出された実験結果との整合性などを考えると、すんなり今までの理論に枠組みに収まってくれない可能性は高そうですが、それも詳しいことは分かりません。
ただ、そもそも今回の測定結果が本当に正しいのかどうかさえ議論中であって、これから追試を行おうという状況なわけですから、はっきりしたことはまだ誰にも言えないでしょう。

2についてはこれ以上の説明は特に必要ないと思いますが、言い添えておくなら、以下のような説明も大間違いです。

 アインシュタインの相対性理論では、物体が光の速度に近づくにつれて時間の流れは緩くなり、光速だと時間は止まってしまう。さらに光速を超えれば、時間が戻る可能性がある。
 (『中日新聞』2011年9月30日朝刊、p.3)


「物体が光の速度に近づくにつれて時間の流れは緩くなり」は事実ですが、「緩く」なるのはあくまで光速に近い速度で動いている物体の時間です。つまり、たとえば光速に近い速度のロケットで宇宙に出て帰って来た場合、地上では1000年経っていてもロケットの乗組員にとっては1年(この数値はいくらでも調整できますが)しか経っていない、という風になるわけです(これを浦島太郎になぞらえて「ウラシマ効果」とも)。
光速で動くもの“の”時間は止まります。光の時間は止まっていると言えます。だから、光の寿命は他の何かに当たらない限り無限で、宇宙の彼方にも届くのです。
しかしこの延長上だと、我々から見て超光速粒子が若返るだけです。
過去への通信を実現するには、もう少し操作が必要です。

3ですが、(今回の実験結果を信用するとしても)可能性としてはニュートリノが相対性理論に矛盾しないこともあり得ますし、相対性理論を覆しつつも、やはり「超光速粒子を過去に送る」ことは可能かも知れません。これは本当に、これからの探求課題であって、今のところ誰にも分かりません。
が、時空というものに関する考え方が大きく変更を強いられた場合、「超光速粒子は過去に送れる」という相対性理論に基づく予測も見直される可能性も、当然あります。異なる水準の問題を混同しないよう分けておこう、という話です。

さらに言い添えておくなら、相対性理論が完璧な理論だと考えている物理学者はほとんどいないでしょう。
ニュートン力学は、物体の速度が光速に比べて十分に遅い場合の相対性理論の近似でした(現在でも、光速に比べて十分に遅い場合には、極めて正確な理論です)。相対性理論の新たな理論の近似となる時が来るだろう、と考えられます。
相対性理論と並ぶ20世紀物理学の大発見は量子力学ですが、これと相対性理論を調停するはまだまだ遠い道のりであること、そして量子力学においては時間も空間も根源的ではない、ということも、注記しておいて良いでしょうね。


参考文献は以下。
プロローグはSF小説仕立てになっていて、そこだけで超光速粒子を過去に送ることが可能になるメカニズムはだいたい分かります。

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                           (芸術学4年T.Y.)
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テーマ : 芸大・美大・その他美術系学校 - ジャンル : 学校・教育

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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