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才能ゆえのあまりに過酷な生き方――『ケモノガリ』

新刊も色々出ていますが、今回は結構古いシリーズとなるライトノベルを紹介させていただきます。
すでに6巻まで刊行されている『ケモノガリ』です。

ケモノガリ (ガガガ文庫)ケモノガリ (ガガガ文庫)
(2009/07/17)
東出 祐一郎

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作者の東出祐一郎氏はゲームのシナリオライター出身の作家(ガガガ文庫の初期メンバーには多い)で、自作ゲーム『Bullet Butlers』のノベライズで小説家デビュー、そしてこの『ケモノガリ』が小説オリジナル作品第1作となります。

主人公・赤神楼樹(あかがみ ろうき)は高校の修学旅行で東欧の小国・レントブロア共和国を訪れます。
しかしその旅行先で修学旅行生一同は突然誘拐され、武装した連中によって監禁されてしまいます。
彼らは、人狩りを娯楽とする“クラブ”によって、狩りの獲物に選ばれてしまったのでした。

しかし、同級生達が残虐に殺されていく中で楼樹の「殺人の才能」が開花、武装した兵士や殺人のプロフェッショナル達を次々と返り討ちにしていきます。
人物造形、雰囲気ともにハリウッド映画的な印象が強い作品ですが、それも殺伐としたストーリーによくマッチしています。

冒頭で楼樹が「自分はまったく平凡で才能がないと感じていた」旨を強調し、それが実は「無意識に殺人の才能を封印していた」のだと発覚する辺りがいかにも明瞭に「冴えない自分も実は特別」という願望(世に言う「中二病」的)を感じさせます。
常識的に考えれば、あれだけ超人的な戦いのできる人間の身体能力が普通のはずはなく、その片鱗くらい見せていても良さそうなものを、あえて「平凡」を強調するのは、「平凡な自分」の突然の「覚醒」を強調せんがためでしょう。

また敵――「娯楽提供者(エンターテイナー)」と呼ばれる“クラブ”子飼いの殺人の専門家たち――も、いかにも怪しいガスマスクの婦人だったり、

ケモノガリ ウィドウ
 (東出祐一郎『ケモノガリ』、小学館、2009、p.79)

ハリウッド映画の殺人鬼を合成したような姿だったりと、

ケモノガリ ハリウッドスター
 (同書、p.187)

非常に分かりやすいB級テイストです。
もっとまともでカッコいい戦士タイプの敵もいますが、他方で続刊では生物兵器といった、いっそうB級映画風のモチーフも登場します。
(ちなみに、本作はイラストの使い方や本文との連携も見事で、見開きを使ったり、「豹変前」のイラストからページをめくると「豹変後」が来ていたり、漫画の台詞風に本文の一部がイラストに組み込まれていたり、イラストで強そうなのが出落ちだったりと、実に効果的です)

ただ、そんな願望充足型のストーリーにおいて読者の自己愛を満たすためのファッションの域を超えて、楼樹の生き方は凄絶です。
1巻のラストで敵を退け、“クラブ”の会員リストを手に入れた楼樹は、生き残ったクラスメイトを無事に送り届けた後、一人“クラブ”のメンバーを一人残らず殺すための旅に出ます。人を娯楽のために狩る人でなしの「ケモノ」を殺す「ケモノガリ」として――

彼は確かに超人的な強さですが、いつも心身を極限まで磨り減らして戦っています。
何より、そうして戦い人を殺し続けることは、それだけ敵と近い存在になることでもあります。
彼は“クラブ”の会員や協力者は容赦なく殺しますし、そうして人を殺すことを覚悟の上で受け入れていますけれど、殺しを楽しみはしないし無辜の人間を殺しもしない、それをやれば“クラブ”の連中と同じになってしまう、と肝に銘じています。けれども“クラブ”を壊滅させた後にその「殺人の才能」はどこに向かうのか――それは彼の抱える根本的な危うさです。
旅の中で仲間もでき、権力の側にも協力者ができて、近巻ではいよいよ“クラブ”を追い詰めにかかってもいますが、楼樹がどうなってしまうのかという危うさも高まっています。

そんな中、重要なのが楼樹の幼馴染で1巻のヒロインであった貴島(きしま)あやなですね。
1巻の最後で一人“クラブ”壊滅の旅に出た楼樹は彼女とはもう会わないと決めているので、その代わりに各巻でサブヒロインが登場したりもしますが、やはり楼樹にとって重要なのはあやなであり続けています。
しかも、4巻辺りでふたたび巻き込まれたあやなは、直接戦う力こそないものの、殺し合いの世界をも恐れないタフさを見せます。

これだけ殺し合いの世界に浸ってしまった以上、もう二度と日常には帰れないと思っている楼樹に対し、あやなはいつでも彼を受け入れる覚悟です。
日常は殺戮に勝利するか――そこを描ききってくれるのか楽しみな作品です。


ケモノガリ 2 (ガガガ文庫)ケモノガリ 2 (ガガガ文庫)
(2010/07/17)
東出 祐一郎

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テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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