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「魔法少女」の光と影を巡る戦い――『魔法少女育成計画』

またライトノベルになります。
このライトノベルがすごい!文庫から取り上げるのは初めてでしょうか。ちなみにこのレーベル名は『このライトノベルがすごい!』を出している宝島社が創設したレーベルだからです。

魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)
(2012/06/08)
遠藤 浅蜊

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N市は魔法少女の目撃情報が相次ぐ街。しかしある日、この街で活躍する魔法少女達にある通告が届きます。「魔法少女が16人になり、増えすぎたので半分の8人に減らす」と。
最初は人を助けることで得られる「マジカルキャンディー」の数を競い、キャンディー獲得数の少ない者から順次脱落していくはずが事態はマジカルキャンディーの奪い合いに移り、やがて相手を力尽くで脱落させる殺し合いに……

というわけで、魔法少女バトルロワイヤル物です。
現在において魔法少女達が次々と死んでいく陰惨な魔法少女物となれば、1年余り前の『魔法少女まどか☆マギカ』を連想せざるを得ないところですが、本作は二番煎じに留まらない傑作として成功を収めています。
そもそも、『まどか☆マギカ』も杏子の登場する第4話辺りから一時期は魔性少女同士の戦うバトルロワイヤル物の雰囲気を呈していましたし、その分野の代表作の一つたる『仮面ライダー龍騎』との関連性は私も詳しく論じたことですが、しかし「魔法少女同士の戦い」は決して全面的に展開されることはありませんでしたし、またそれはゲームマスター側たるキュウべえの本意でもありませんでした。
対して本作ははっきりと「魔法少女のバトルロワイヤル」を物語の中軸とし、またゲームの進行役たるマスコットのファヴも感情を持たなかったキュウべえと違い、はっきりと悪意を持った存在として描かれています(その分、ファヴはある意味で平凡なキャラクターでもありますが)。
それだけでも特徴としては小さくありませんが、さらに本作の特色を見ていきましょう。

まず、あらすじからして目につくのは、16人という魔法少女の数の多さです。
この人数を単行本1冊の内で一気に減らすのですから、登場人物の消化はきわめて早く、魔法を使う場面なしに退場していった魔法少女さえいます。
カラー口絵に全員の(デフォルメされた)イラストと魔法の説明が一通り載っていますが、この説明が興を削ぐことはなく、この情報があった上でそれをどう使っていかなる戦いが繰り広げられるのかは十分興味を惹きますし(不意打ち、騙まし討ち等の知略戦も見事)、むしろ上記の通り説明も描写も少ないキャラが存在するという事情から、この情報は本文と補完的ですらあります。

魔法少女育成計画 キャラ一覧
 (カラー口絵)

また魔法少女の身体能力等は人間よりも遥かに高い(その上で、魔法少女の中にもピンキリあり)のですが、使える魔法は各自一つだけ、というのはいわゆる能力バトル物の原型に近い設定です。
そうしたそれぞれ固有能力を持つ者達が殺し合い、ほとんどが脱落していくという構成は、『少年ジャンプ』等のバトル漫画の源流でもある山田風太郎の忍法帖を思わせるものです。
しかしもちろん、本作と風太郎忍法帖との間にも重要な違いがあります。それを検討するため、『忍法八犬伝』についての京極夏彦氏の解説を見てみましょう。

 例えば主役たる八犬士の末裔達は大望を果たさんと果敢に死んで行く――訳ではない。岡惚れした奥方の健気な姿に当てられて、まあ、半ば大した志もなく戦場へまっしぐら、実にあっけなく死んでしまう。それは本当にあっけなく、八人揃う場面すらない。丁々発止の悲劇の末、打ち揃って勇猛果敢に城に向かう先祖の八犬士の面影はそこにはない。軽妙なモノローグの陰に隠れて見逃しがちだが、これは悲壮な話なのである。
 (京極夏彦「読者、術中に陥る」山田風太郎『忍法八犬伝』、講談社、1996、pp.322-323)


基本的には風太郎忍法帖は二つの勢力の戦いであり(三つ巴といった状況のこともありますが)、各自の戦う理由は相手側への敵愾心や味方への忠義、あるいは恋心といった単純なものであることが大半です。むしろ、個人の内面的な動機などを描き込まなくても、京極氏の言うように登場人物を「小説のために死」なせることができる筆力こそが山田風太郎の真骨頂です。

対して、バトルロワイヤル物においては、原則的には各個人がそれぞれ独立した勢力であって、それぞれの理由を持って戦いに臨みます。
本作『魔法少女育成計画』においても事情は同じです。上記の通り、もっとそれぞれのドラマを描こうと思えばできるところを最大限圧縮しており、変身前の本名・素性等不明のままの者もいますが、それでも、魔法少女という存在とこの事態に対しいかなる思いで臨み、どう動いたか――ほとんど何もせずに脱落していく者も、いかなる思いゆえにそうしたか――その人となりは一通り描かれています。その意味で、「キャラ描写の不足」という印象はありません。

他方で、風太郎忍法帖にあって本作にないものもあります。それは身体性です。
風太郎忍法帖の忍者の多くは美男美女と異形にはっきりと分かれ、数で言えば異形の方が多数派です。しばしば、彼らの異形の身体は血を濃くするため近親婚を繰り返した結果として説明され、また彼らは伸びる手や特殊な体液と言った身体を武器にして戦います。
これに対し、『魔法少女育成計画』の魔法少女達は、ソーシャルゲーム「魔法少女育成計画」のプレイヤーの中から選ばれるという設定で、魔法少女としての姿はゲーム中でのアバターです。それゆえ、その身体は「皮膚に傷や痣や産毛はおろかホクロやアカギレさえない」(遠藤浅蜊『魔法少女育成計画』、宝島社、2012、p.22)という理想化された美少女の姿です。
確かに彼女達は血を流して戦い、死にますが、死ねば変身前の姿に戻ります。変身前にいかなる人間であったかは子供から中年まで様々で、一人男までいます。魔法少女の身体は、傷つき死ぬ「生身の身体」からは遠い存在です(一人だけ、片腕と片目を失いながら生き残る魔法少女がいるのは意味深です。おそらく彼女はこの戦いの生き証人にならねばならなかったのでしょう。)。

各登場人物を特徴付けるものとして、「キャラ」が生々しい身体に取って代わる――「キャラクター小説」としてのライトノベルにおける能力者バトルロワイヤルに相応しい事態ではないでしょうか。


もう一つの特徴「魔法少女」についてはどうでしょうか。
『まどか☆マギカ』にしてもそうですが、陰惨で悲劇的な物語であるからといって、単純に明るく楽しい魔法少女物に対立するとは限りません。魔法少女の系譜はどのような形で受け継がれているのでしょうか。他のモチーフではなく「魔法少女」を描く単なる便乗ではない意義は、そこに求められねばなりません。

まず基本的なこととして、魔法少女は人に正体を知られてはならないといった制約が本作にもあります。
前近代のおとぎ噺の時代から、魔法の契約には代償が付き物です。それは魔法の与える希望が絶望に転ずる契機ともなり得るわけです(この点はもちろん『まどか☆マギカ』に通じるわけですが、私がたまたま最近目にした例として、恋愛よりも「契約」に焦点を当てた「歪な人魚姫」というモチーフが綾里けいし『B.A.D.』にあったことを挙げておきましょう)。

注目すべきは、作中の魔法少女は当初、人助けをしてマジカルキャンディーを集めるものであった、ということです。主要登場人物の一人であるスノーホワイトは、「困っている人の心の声が聞こえる」魔法の使い手で、それゆえに圧倒的に多くのキャンディーを集めていました。
もちろん、この能力は戦闘向きではありません。他方で、魔法少女の中には極めて戦闘的な魔法を持ち、暴力で君臨している者もいます。
そして、人助けで得られるマジカルキャンディーの数を競うはずが、武力がモノを言う戦いに移行していく――ここには日常的な事態に取り組む旧来の魔法少女から戦うヒロインへと変遷を遂げた、魔法少女の歴史があります。
そもそも、このバトルロワイヤルは「魔法の国」の主催する選抜試験なのですが、試験が元よりこのような陰惨なものであったわけではないようです。

 本来の選抜試験には見世物としての面白みなどない。勇気、知恵、人格などという魔法に関係のない要素に重きをおき、選ばれた一人だけが本物の魔法使いになる。選ばれなかった候補も記憶を書き換えられて元の生活に戻るだけだ。
 (『魔法少女育成計画』、p.258)


しかし、そもそも本作で描かれる陰惨な試験を許してしまったのは、魔法の国の体質に由来することを示唆するような記述も見られます。

そして、戦って他の魔法少女を手にかけたりすることなく生き残って正規の魔法使いとなったスノーホワイトは最後に、魔法の国も良い顔をしないような、武力行使を辞さない魔法使いになることを選びます。
これらの逆説的な事態はことごとく、明るく楽しい魔法少女と血を流し戦う魔法少女が表裏一体であることを物語ります。

光と闇の両面を併せ持つ魔法少女の錯綜した歴史が、一度にバトルロワイヤルに放り込まれて炸裂する――この点において本作はまさしく、魔法少女の歴史を先鋭的に受け継いだ傑作と呼ばれるに値するでしょう。


忍法八犬伝―山田風太郎傑作忍法帖 (KODANSHA NOVELS SPECIAL)忍法八犬伝―山田風太郎傑作忍法帖 (KODANSHA NOVELS SPECIAL)
(1996/02)
山田 風太郎

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(補)いかなる偶然か、本ブログ1000番目の記事がこれですよ……

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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