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分かれる明暗――『彼女を好きになる12の方法』

今回のライトノベルはまた入間人間氏の新作です。
これで今月は『クロクロクロック1/6』に続き2冊目、9月は予定がありませんが10月には『アラタなるセカイ』が予定中で、相変わらずの月刊ペースです。

彼女を好きになる12の方法 (メディアワークス文庫 い 1-10)彼女を好きになる12の方法 (メディアワークス文庫 い 1-10)
(2012/08/25)
入間 人間

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(建前上は)中高生向けとされるライトノベルの電撃文庫に対し、メディアワークス文庫はやや対象年齢が高めで、入間氏の作品もこちらやハードカバーでは大学生くらいの人物が主役であることが多いですね。今回も舞台は大学、モデルもいつもと同じと思われます(『ぼっちーズ』で「愛知県の塩釜口駅から五分」と場所が特定されているので、名古屋の名城大学で確定でしょう)。
今作の主要登場人物はわずか三人「彼女」といつも一緒にいる「俺」、そして「彼女」を片思いして追いかけ続けている「僕」です。
「俺」は「正直に言えば彼女のことが好きではないと思うが、なんとなく、好きでないといけないような気がした」(p.6)と語り始めます。

 彼女もまた俺のことが好きであるとは到底思えない。恋愛に伴う、情念のような粘ついたものは俺たちの間にない。旅行鞄に荷物を詰める際、効率を重視して隙間なく埋めていったら、たまたま隣り合って配置された。彼女と一緒にいるのはそんな感覚だった。
 (入間人間『彼女を好きになる12の方法』角川書店、2012、p.7)


かくしていつも通りに「彼女」と付き合いながら、彼女を好きになる方法を模索する「俺」。

他方で「僕」は「彼女を好きになるのに、理由は必要なかった。一目惚れだったからだ」(同書、p.26)と来ます。
けれども彼は街や大学の講義室で彼女を遠くから見ているだけ。声をかける機会すらありません。

 彼女が好きであるとか、そういうことを表に出すことすら許されない。
 だから僕は本当の意味で、彼女を好きになっていない。成立していないのだ。
 (同書、p.32)



三人とも大学三年生で、来年になれば就職活動もあり、そもそも大学に講義を受けに来る必要もほとんどなくなって、会う機会もなくなる、だから今年度の内に――という一年間の物語で、1年12ヶ月に対応した「12の方法」です。構成も月ごとに「俺」パートと「僕」パートが交互。

彼女を好きになる12の方法


それにしても「僕」の哀しさ――好きな子になかなか近付けず、何とか声をかけてもコミュニケーションの苦手さゆえに挙動不審になって気持ち悪がられるばかり、つまり事実上のストーカー……『クロクロクロック』の首藤祐貴といい、最近の入間氏は立て続けにこういうストーカー系(になってしまう)人物を実に生々しく描いていますね。
そもそも、氏の描く「ぼっちネタ」は「ぼっち」をアンデンティティとするような方向に誇張されない代わりに、カリカチュアライズされないえげつなさがあります。
それはカリカチュアライズの効いたライトノベルの、たとえば以下のようなネタと比べてみれば分かります。

 意を決し、俺は勇気を出して藤田へと近寄る。
 俺が近づいてきたことに気づくと、藤田はびくんと顔を引きつらせた。
 ……ちょっとショックだったが、藤田とはあんまり喋ったことないからな、仕方ない。
 俺は『ガルメモ』の、『夜空』と涼月冬馬との出逢いのシーンを思い出す。
「あ、あの……羽瀬川……くん……?」
 俺は藤田の前に立ち、フレンドリーな笑顔を作る。
「ひ……っ!?」
 あー、緊張するなあ……ええと……冬馬はたしか最初にこう言ったはずだ……。
「……俺が……教えてやろうかァ……!?」
「え……お、教えるって、な、なにを?」
 なぜか怯えている藤田の緊張を解すため俺は頑張って爽やかに微笑み、答える。

「ビュヒヒッ(あれ、なんか変な声出た)、決まってんだろォ? 社会の勉強だよォ……!」

「ひいいいいいいいい!? ご、ごめん羽瀬川くん! 僕いまお金持ってないから!」
「は? お金?」
「ひいいいいいいいいいいいい!!」
 なにを勘違いしたのか、藤田は意味不明なことを言って教科書やノートを引っつかんで席を立ち、図書室から走り去ってしまった。
「あ、おい藤田!?」
 なんで逃げるんだよ……?

 ……その日、羽瀬川小鷹が図書室で同じクラスの藤山をカツアゲしたという噂がクラス中を駆けめぐった。
 俺が乙女ゲーのイケメンの真似をするとこうなるらしい。
 手痛い社会勉強になりました……
 (平坂読『僕は友達が少ない5』、メディアファクトリー、2010、pp.240-241)


ここでは、小鷹は男友達こそいないけれど隣人部で美少女に囲まれてハーレム状態であるとか、女子に気味悪がられるのに比べればヤンキーと思われて怯えられるのはそこまで痛くないといった事情も事態を緩和するのに働いていますが、かてて加えて、そもそも小鷹はエキセントリックなヒロイン達にツッコミを入れる分には問題なくコミュニケーションできることを読者はよく知っている、という前提があります。
ことさらに「友達になろう」と思って話しかけるとなぜこう挙動不審になるのか不思議なほどに。
逆に、このカリカチュアライズされたコミュニケーションを抜いてしまうと、本当にまともに喋れない人間の痛さばかりが残ることがよく分かります。


さて『彼女を好きになる12の方法』に戻ると、「俺」は彼女のことを好きではないと言いつつ、実質的には毎月のように「彼女」とイチャついています。
彼は「好き」ということに何か妙な期待をしすぎているのでしょう。

そしてこの1年を通じて、「俺」と「僕」が接触したりといった動きはあるものの、結局、二人とも驚くほど変わりません。
「俺」は彼女との関係を維持し(大学に来なくなっても関係を維持できるのならば、それは進歩なのかも知れませんが)、「僕」はいずれ彼女を諦められるのか…分かりません。
それは元より成長の余地がないから……ではおそらくなくて、現状を変えようとする努力がどこか明後日の方向を向いているからでしょう。

意図して自分と現状を変えようと思えば思うほど変わらない、それでいて明暗ははっきり分かれるという悲喜劇。

ここには劇的なことは起こらない、物語というほどのものがあるのかどうかも疑問です(「大学三年生の一年間」を描いていることが、そもそも完結した物語などない人生の一幕を切り取っただけ、という印象を強めます)。そこに存在するのは変わり映えのない日々の反復でもあります。
そんな中で「僕」が一時、

 現実に存在する彼女のことを好きになったわけではない、と気づいたのは自身の運命を悟った際の産物と言えた。僕は確かに、現実の彼女に一目惚れした。それがすべてのきっかけである。だけどその後、僕はどれだけ彼女を追いかけ回しても、彼女のことなどなにも知ることはできなかった。その間に僕は彼女のありもしない生活、癖、休日の過ごし方を四六時中想像し続けて、分かっていないのに理解した感覚に浸っていた。僕は、僕の理想とする空想の彼女にずっと恋してきたのだ。
 (『彼女を好きになる12の方法』、p.238)


と二次元――すなわち反復の恋――に逃げ込みつつ、結局すぐに「できるか」と否定したりする辺りはまことにアイロニー(皮肉)が効いています。

氏の作品としては大人しめであるものの、やはり見事でした。

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テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

No title

人間さん!!
これ、気になってたんですよねーw
「ぼっちーズ」しかまだ入間人間さんの作品は読んだ事無いのですが。。。
うわー読みたいーーー。

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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