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固有名の不在と距離感

前々回、入間人間氏の作品では登場人物の「名前などない時の方が真骨頂」と書きました。
名前の不在が持つ意味をもう少し考えてみますと、2点が挙げられるかと思われます。

1. (前々回にも触れた通り)叙述トリック

入間氏は実にこれが好きで、ついでに言うと小説技巧にかなり凝っていることがあります。短編等では技巧優先の実験的な作品も少なからずありますね。
そしてまた、氏はやはりSFよりはミステリの人と言えます。
たとえば「時間移動が可能になったら何が起こるか」という――それこそ作家の想像力次第で物理法則レベルの基本設定が百人百様になる――ことについては、氏の描くイメージはそれほど目新しいものではありません。その代わり時間移動のようなSF設定を踏まえたミステリでは、しばしば実に見事な作品を書きます。
再三言っているように、SF/ファンタジー設定で「その設定でそんなことも可能だったなんて、言われなきゃ分からないよ」というアンフェアの感を与えないことは実に難しいのですが、氏は――『昨日は彼女も恋してた』『明日も彼女は恋をする』の『バック・トゥー・ザ・フューチャー』ネタ等に顕著ですが――SF設定についてはむしろ既存のイメージに上手く定位することでこの困難を回避しています。
これはもちろん、『昨日は彼女も~』の設定が『バック・トゥー・ザ・フューチャー』と同じであるということではありません(むしろ『バック・トゥー・ザ・フューチャー』シリーズの設定はブレが大きく、正確になぞるのは難しい)が、既存のイメージへの言及が余計なSF的考察を抑えるのに役立っているのは確かです。

また、氏は作品間のクロスオーバー(他作品キャラの出演など)を好むことについて上遠野浩平氏の影響を公言しており、また作中にジョジョネタが多いにもかかわらず、一応にも「能力バトル物」として始まった『トカゲの王』を見ると、『ジョジョ』『ブギーポップ』的な能力バトルの影響はあまりないことが分かります。
要するに、ハッタリ優先の演出を書く(その結果、当初の演出と後の説明が食い違ったりする)ということが比較的少ないのです。その意味でも良くも悪くも理詰めであって、おそらく『トカゲの王』に登場する超能力の「しょっぱさ」もこのことと無縁ではないでしょう。

他方で、「キャラクター小説」という枠組みで考えると、登場人物の同一性について錯覚させる叙述トリックは、「これだけキャラの立っている人物を見誤ることはよもやあるまい」と思うのが存外当てにならないことを見せ付けてくれます。この点でも、キャラを固有名で囲い込むところから語り始めないというのは、小説技法の重要な点です。

2. 距離感の表現

往々にして相手を名前で呼ばない、ともすると相手の正確な名前を知らない、という人間関係の微妙な距離感がここにはあります。
氏の描く、孤独とディスコミュニケーションを巡る様々な描写を見るとこの機微がよく分かります。

と同時に、上記のこととも関わりますが、三人称視点である人物のことを考える場合、固有名が与えられているとそこに一人の人物を同定しやすく感じられます。
しかし現実には、『ルドルフとイッパイアッテナ』ではありませんが、相手によって違うあだ名で呼ばれていても、それぞれの付き合いが成立しているならば問題ないのです。
相手があだ名で覚えているなら、そこで意味があるのはそのあだ名の方です。
あだ名はなくても、相手によって姓で呼ばれたり名前で呼ばれたり、敬称が付いたり付かなかったりで、実はたいていの人は呼び名をたくさん持っています。

もちろん、キャラに名前があっても物語はそうした関係を描きますが、名前の不在がそれをいっそう浮き彫りにするのです。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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