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『ホラーアンソロジー2 “黒”』より「平家さんって幽霊じゃね?」

今回のライトノベルは先月に引き続き2冊目となるファミ通文庫のホラーアンソロジーです。

ホラーアンソロジー2 “黒ホラーアンソロジー2 “黒" (ファミ通文庫)
(2012/08/30)
日日日、ほか 他

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この巻は明らかに前の“赤”よりも幽霊ネタ比率が高いですね。
その分、幽霊のような題材を取り上げているだけでおよそホラーでない作品も目立ちます(表紙がおどろおどろしいのとは対象的。ちなみに表紙絵担当のBUNBUN氏は収録作品個別のイラストは手がけていません)。怪談からサイコホラー、SFまでジャンルの幅を見せた前巻とは別の方向での多様性を見せてきた感じですね。なお、綾里けいし氏は“赤”に引き続きの参加です。

で、今回は中でも一作品を取り上げさせていただきます。
『耳刈ネルリ』『カマタリさん』の石川博品氏による「平家さんって幽霊じゃね?」です。

いきなり「平家さん幽霊説を言い出したのは俺じゃない」(p.178)という一人称語りで始まる本作ですが、その平家さんこと平家式子(へいけ のりこ)とは何者かと言うと、中学の時から主人公たちと同じ高校に普通に通っている女生徒です。
文部科学省の「除霊技官」を名乗る転校生・曾禰みるく(あだ名もそのままソネミルク)が彼女を幽霊だと主張するのですが、主人公たちは信じません。

「くっだらねー。あんな幽霊いるわけねーだろ」
 先輩がイラッとした声を出した。「どこの世界にド金髪の幽霊がいるんだよ。あいつ、いつかの曲のレディー・ガガみてーな髪してんじゃん」
 確かに平家さんはド金髪で、スカート超短くて、カバンいっつも空っぽで、いっつも飴かガムの甘いにおいさせてて、遅刻・早退・脱走の常習犯で、校則違反のバイク通学してて――要するにDQNだ。
 (石川博品「平家さんって幽霊じゃね?」『ホラーアンソロジー2 “黒”』、エンターブレイン、2012、pp.185-186)



平家さん
 (同書、カラー口絵より)

ところがこの平家さんの人物造型はさらに想像を超えます。

「ちょっといい?」
 俺が言うと、平家さんは、
 諾(むべ)、とうなずき、近くに置いてあった大きなカバンをガサゴソさぐった。
「ねえ、ちょっと――」
 ソネミルクがひじで俺をつついた。「いまの声、人間の声じゃなかったわよ」
「そう? いつもどおりだけど?」
「それに、ことばづかいもむかしの人みたいじゃなかった?」
「そう? いつもどおりだけど?」
 俺は、ソネミルクってマジでちょっとアレなんじゃないかと思いはじめていた。
 (同書、pp.194-195)


「実はさ、この人、C組に来た転校生で曾禰みるくさんっていうんだけど、ダンス部に興味があるんだって」
 俺のことばに平家さんは、
 あなや、と目を丸くした。
 音にぞ聞ける転校生を、いまは目にも見つ。曾禰弥勒、ダンス部に入(い)らんとするその心ざし神妙なり。
 (同書、p.195)


なんと台詞が全てカギカッコなしの古文調です。
古文まで取り込んだ多様な文体によるネタは『ネルリ』の頃から相変わらずですが、古文が苦手な読者がついて来られるのか心配になってしまう程の凝り様というか飛ばし様です。
これでヒップホップをBGMにダンスを踊り、古文調でヒップホップ談義に興じているのだからたまりません。

実際、本作の人物イメージはあまりにも独特で、容易には把握しがたいほどです。
たとえば主人公の彼女である及川ラ行の発音がナ行になってしまうという独特の発声の持ち主です。しかも一人称が「お」(=おれ)ですが、これは多分方言なのでしょう(※)。

※しかしこの作品の舞台の「S県あこね市」とは……源平合戦の舞台である屋島の近くうどんが常食という設定から見て、「讃岐」(=香川県)を念頭に置いているのでしょう。

この及川の喋りや、ましてや外見や挙動・表情はあくまで現代の女子高生で話し方のみが古文調である平家さんの具体的なイメージを素直に持つのはなかなかに大変なことです。少なくとも私にはなかなか摑めません。
これは取っ付き難さでもありますが、しかしそんな「想像を超えた」二人の女子の存在こそ、本作の要でもあります。

その点は最後に回すとしまして――平家さんの台詞に限らず、相変わらず全編に渡って作者のユーモアは冴えていますが、他方でうどん屋の描写やそのシステムを初めて見て戸惑うみるくの様子、あるいは主人公と及川の夜釣りの場面(餌として川の石の裏にいる虫を捕まえるところから)等、生活に関わる描写は大変丁寧で臨場感を感じさせるものです。
そんな中で平家さんが何者であれ暮らしに馴染んでいる様がよく分かって、何とも爽やかです。

さて、平家さんの台詞辺りで疑問に思わない主人公の方がおかしいと読者も気づき始めますが、さりとてそこから幽霊と断言すべきなのか、こんな普通に生活している幽霊がいるのかというのはまた別問題です。
そして結局、主人公は「どうでもいい」と感じます。彼女が自分たちの友達である――「それだけでいい」と(同書、p.229)。

さて、珍しくも主人公が最初から彼女持ちという設定でありながら、平家さんが登場するメイン部分にはその彼女・及川はほとんど登場しませんが、物語の締めは彼女との関係です。

 彼女たちは俺の知らない何かだ。その秘密は俺の前にもうすぐ明かされるような気がする。夏の内にでも。
 夏がすぎればそれは、「そんなもんか」って思っちゃうほどふつうなことになっている気がする。でもいまは、その秘密がどうしようもなく俺の心を浮き立たせている。
 (同書、p.235)


『謎の彼女X』でも触れたテーマですが、恋人とは一つの神秘である――
ただ、秘密が「明かされる」とは及川との関係の決定的な進展を示唆していると思われますが、この文章の冒頭は「彼女たち」です。平家さんに関しても何か起こる予感があるのか、と考えることもできる含蓄に富んだ箇所です。

一人は彼女という、自分にとって特別な神秘を秘めた存在。
もう一人は普通の友達と思っていたが、端から見れば特異な存在。

言葉に独特の特徴を持った二人のヒロインは、「恋人」と「幽霊」という二つの謎を対比させます。
箇条書きで「幽霊」と「おっぱい」が何度か等置されたあとがきも大変秀逸です。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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