スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

二人の逃避行とオタクの会話と――『かまいたちの娘は毒舌がキレキレです 反ラノベ狂騒曲』

ふたたびライトノベルです。

かまいたちの娘は毒舌がキレキレです (スマッシュ文庫)かまいたちの娘は毒舌がキレキレです (スマッシュ文庫)
(2012/08/18)
木戸 実験

商品詳細を見る

本作には「反ラノベ狂騒曲」と副題が付いており、さらに帯には大きく「ラノベってつまんないよね」とあります。実際、本文はまさにこの台詞から始まります。
しかし、こうしたことは本筋にはほぼ関係ありません。

本作のストーリーはというと……「憑き人」という妖怪にまつわる超能力をもった人々が出現するようになった世界で、日本における憑き人の隔離地である北左義(きたさぎ)が舞台です。
ヒロインの風海きりかはかまいたちの能力を持つ美少女で、麻薬を流通させるマフィア組織・鬼郷幇ききょうほう その実態は中国の工作機関)を追っています。主人公の神前静也(こうまえ しずや)は高校できりかのクラスメートですが、実は鬼郷幇の殺し屋
組織のやり方と自分の仕事に違和感を抱いていた静也があるきっかけできりかを庇って鬼郷幇に反旗を翻し、組織の追っ手から逃亡することになる……というサスペンスムービー風のストーリー(+能力バトル)ですね。このモチーフ自体、ライトノベルにおいてはそう多くないかと思われますが、うまくライトノベル化しているのではないでしょうか。
プロローグで二人のクラスメイトであった佐東理奈(さとう りな)がサトリの能力で事件の記憶を読み取り、「そして悟った。/この物語が、ある意味ではここで終わっていたということを……」(p.36)と語ることで、悲劇があったことを最初に示唆しており、本編はその結末に至るまでの経緯を物語るものとなります。ある仕掛けを仕込みつつもほぼ期待に違わぬラストに繋いでおり、なかなかの出来映えです。
ただ叙述トリックについては……たしかに判明すると冒頭部の意味も変化してくるのですが、物語の容貌を決定的に変える類のものではないという意味で、中程度の出来と評価させていただきますが。


主題はライトノベル批判ではなくそんな話です。
そもそも、静也ときりかが関わるきっかけとなったのは、きりかが「妹属性反対」という鉢巻きを巻いた表紙の姿で妹コスプレを売りにする風俗店の前で演説していたことです。問題はライトノベルですらありません。
風俗など対象にしても仕方ないことは作中でも指摘されますし、実際、彼女の本当の目的は風俗店の経営に関わる鬼郷幇に接触することでした。

そもそも、きりかのライトノベル批判が存外安直であることは冒頭で早速示されています。

「なんかねー、ラノベって、内容は漫画を文章で書いてるだけって感じだし、文章も状況描写ばっかりで美しい情景描写もしゃれた心理の隠喩(メタファー)もないじゃない? なんか、小説読んでるって感じがしないんだよね。ラノベってのは、つまり文庫本サイズのアニメの企画書ってことなのかしらね?」
 ん?
 なんか聞いたことのある批判内容だけど……。
「立派な批判だとは思うけど、現国の先生がそんなこと言ってなかったっけ?」
 そういうことだった。
「あ……う……でもその通りでしょ!」
 顔を赤らめて、明らかに動揺するきりか。なんだか今日のラノベ批判は底が浅そうだ。
 (木戸実験『かまいたちの娘は毒舌がキレキレです 反ラノベ狂騒曲』、PHP研究所、2012、p.11)


内容の妥当性は脇に置くとしても、これが極めて大づかみな一般論でしかも至る所で繰り返されている紋切り型であることは明らかです。要するに、読まなくても言えます。
きりかは「読みこんでもいない人間に、批判する資格はないでしょ? ボロクソ言うためには百や二百は読まないとね」(同書、p.12)と言いますが、「読み込めば読まなくてもできる批判をする資格が得られる」という発想は斬新さのないものではありません。
しかし、これはオタクの言説においては珍しくないことも、おそらく事実でしょう。
というわけである種、オタクの生態をよく反映していますが、本筋には関係ありません(繰り返し)。

問題の「妹属性」に関しても、なるほど最近のライトノベルのタイトル(特に長いもの)に「妹」を冠したものが多いのは確かですが(やはり『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』が端緒でしょうか)、実はタイトルで妹を掲げていることと「妹萌え」を描いていることは別問題であって、だから一部で「タイトルに妹と付くラノベに当たりなし」と言われたりするのです。
作家は必ずしも妹萌えなど書く気がなくて、タイトルだけ(おそらくは編集部主導で)流行りの路線のものが付けられているというのが実情ではないでしょうか。

そう考えた時、本作の「本筋と関係ない“ラノベ批判”を売りにする」という構造は、「タイトルでのみ“妹”を売りにする」――すなわち「最近の妹の氾濫」の――構造をそのまま反復していることに気付きます。
もっとも、これが意図的なものかどうか知りませんし、仮に図的であったとしても、妙なところに凝りすぎていると思うばかりですが……


さて、本作は作中作を使ったメタ的な構造により、きりかの言う「まったく新しいラノベのアイデア」(同書、p.221)がこの作品全体に反映される形になっています。
そこから、本作そのものが「ライトノベルを批判し、それに対して先例のない作品を掲げた」ものを解釈することもできますが、作中においてもそれが本当に「“まったく新しい”かどうかは、少し議論の余地がある」と言われている中で(※)、それはいささか大言壮語が過ぎるでしょう。

※ その後、ここで使われている要素が「有機的に組み合わされている既存の作品はないように思」うと言われていますが、私としてはそれも異議なしとはしません。

むしろ、話の内容などは紋切り型の反復でも何でも構わない、ただ語ることを交わすことを求めるオタク的生態が、孤独な少年と少女の交流に、そして理奈を含めた「三人の物語」に重なっていると見た方が良いでしょう(そもそも静也はライトノベル読者ではないので、きりかの語りをただ呆然と聞いているだけです)。その方が美しい。


文体については、いささか説明的な台詞の多さが気になるところでしょうか。登場人物は危機的状況で動転していても順を追って事態を説明していますし…。
小説の場合、台詞でなく地の文で読者に説明するという手もありますが、いずれが良いかは状況によります。
ただ本作の場合、もう少し説明口調を抑えてほのめかしに留めても大体分かることがやけに丁寧に説明されている分、気になるのでしょうか。
イラストできちんと怪物が描かれているのは好印象です。

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。