オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
「妹萌え」についての問いはあり得るか?
夏は京都と実家の二重生活になっていますね。どちらに長くいることになるのやら。
重量を考えるとこちらに持って来られる資料および辞書の数は限られるのが問題ですが…
相変わらずその時の気分任せで話題が交代しますが、先日取り上げた『かまいたちの娘は毒舌がキレキレです』のヒロイン・きりかも「妹属性」の流行を問題視していましたし、その辺の話から。
「妹」は人気のあるジャンルである、なぜか、それは妹は萌えるからである、と言ったところで、「なぜ妹は萌えるのか?」という問題は残ります。
そもそもの問題は、「“妹”には何が求められているのか?」ということです。
妹との関係に求められるのは近親相姦という背徳の関係でしょうか、それとも家族として一緒に生活してきた近しい存在であるということでしょうか。
前者であれば血の繋がりのない義妹は不可ですし、後者であれば逆に生き別れの妹は不可となるはずです。
『僕の妹は漢字が読める』(のとりわけ3巻以降)は、この点について問いを立て、それを主題化した、おそらくは稀有な作品でした。
未来の文壇を舞台に展開されているという実妹義妹論争――結ばれることのできる義妹か、背徳感のある実妹か――、作中の未来文学においては妹が突然部屋に生えてくるものも(それのどの辺が妹なのか、ひいては妹の条件は何か)、こうしたテーマはいずれもまさに、「妹萌え」を称する諸氏ならば議論の種と見なす話題でしょう。
もっとも結局それは、大半の人にとっては「なんとくだらないことに血道を挙げているのか」と呆れて然るべきところですけれど。
稀有な、と言ったように、このような問いを立てることは一般的ではありません。むしろ表看板ほどに妹萌えを描いているとも限らないのではないか、というのもすでに指摘した通りです。
内容の是非はさておいてさっと思い当たる最近の例を振り返っても、これ↓などは「妹萌え」からはかけ離れていますし、
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↓これなどはむしろ結婚相手として「妹を避ける」話ですし…
![]() | この中に1人、妹がいる! (MF文庫J) (2010/08/21) 田口 一 商品詳細を見る |
これ↓も典型的なタイトル詐欺の一種。
![]() | 反抗期の妹を魔王の力で支配してみた。 (GA文庫) (2012/04/16) 日日日 商品詳細を見る |
最後の日日日(あきら)氏の作品に関して言えば、『ささみさん@がんばらない』も当初は女主人公の鎖々美が兄の神臣にべったりで、しかも本当に近親相姦のある家系というという設定でありながら、巻が進むとともに鎖々美は女友達との同性愛に走って神臣は限りなくないがしろにされていきます。ついでに『ホラーアンソロジー2 “黒”』に収録された「鶴屋さんの恩返し(を見てはいけない)」も引き篭もりの妹を世話をする兄を描きながら、残酷で悲劇的な話で……
そもそも日日日氏の作品を読んだ者が強く印象付けられるのは、欠けた家族愛に対する強い渇望であって、「兄妹」というモチーフもあくまでその枠内で描かれているのでしょう。
さて、さらに考えてみるに、こんなタイトル↓でも、ライトノベルのコーナーに置いてあれば「妹萌え作品の一種か!?」と思われるのではないでしょうか。
「かの古典『カラマーゾフの兄弟』をどう“妹萌え化”してくれるのか」と楽しみにしてしまったりして……
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もちろん、「この内容のままでライトノベルコーナーに並ぶことはないので、その想定は意味がない」という反論はまったく正当ですが、タイトルに「妹」と冠してあれば「妹萌え」と考える思考回路の異様さを考える材料にはなるかと思われます。
ここできりかが主張するように、結局「妹」の条件はまず兄より年下ということであって、その分「兄が守らなければならない弱い女の子」――すなわち、きわめて古典的なヒーローとヒロインの関係――が期待されているのだ、と言うなら、それは総論としてはある程度まで正しいのでしょう。
しかしこの場合、そうしたモチーフを描いた作品に誰もがひとしなみに「妹萌え」を見出すとは限らない、という個別事実の方は等閑に付されてしまいます。
もっとも、上述のような「妹萌え」に対する問いの不在は、そのような――「こんなのは妹萌えではない」という――こだわりがマイノリティであることを証しているのかも知れませんが(ただそうだろすると、ことさらに「妹」というカテゴリーを取り出して論じることがそもそも不適切ということになりはしないでしょうか)
結局のところ、(看板とは別に)実質上どれだけ妹萌えは求められているのでしょうか――?
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