スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『なるたる』、背徳の神話

鬼頭莫宏氏の漫画『なるたる』が連載されてからもう10年になろうとしているのですねえ…連載中のこの作品に出会った時、私は高校生でした。

なるたる(1) (アフタヌーンKC (186))なるたる(1) (アフタヌーンKC (186))
(1998/08/19)
鬼頭 莫宏

商品詳細を見る


なるたる 全12巻 完結コミックセット(アフタヌーンKC )なるたる 全12巻 完結コミックセット(アフタヌーンKC )
(2010/01)
鬼頭 莫宏

商品詳細を見る

連載時のキャッチコピーは「未来に贈るメルヘン」でしたが、実際この作品はどこまでも残酷なメルヘンです。
美しくも邪悪で、緻密な伏線を巡らしながらも卓袱台を引っ繰り返すようなことをやってのけ、「いい話」のエピソードを入れながらも後味の悪い本作の内容を要約する暇は今の私にはありません。
それゆえ今回の主題はメインストーリーではありません。
ただ、基本設定として、本作の主要登場人物の多くは「竜の子」あるいは「竜骸」と呼ばれる使い魔のような存在(「子」と「骸」に互換性があるというのは奇妙な話ですが、このことがすでにして本作の不吉さを物語っています)とリンクしている、という点のみを押さえておきます。

最初は敵か味方かも不明の胡散臭い二人だったのが、徐々に主人公・玉依(たまい)シイナ(物語開始時点で小学6年生女子)の味方と判明してくるこの二人↓も。

なるたる3巻
 (鬼頭莫宏『なるたる 3』、講談社、1999、p.95)

右の鶴丸丈夫は「子供を100人作る」のを目指して何人もの女の子に子供を産ませ、18歳にしてすでに子供が5人いるという(最低の)「男の中の男」。荒事をやって稼いで養育費は出しているようですが…
左の古賀のり夫、外見は美少女と見紛うばかりですが少年です。

なるたる4巻-1
なるたる4巻-2
 (鬼頭莫宏『なるたる 4』、講談社、2000、p.200)

鶴丸の興味は「孕ませる」=子供を産ませることにあり(シイナに関しては事情が違いますが)。

けれども、こんなやり取りをしつつ鶴丸と一緒にいるのり夫の気持ちは、鶴丸の愛人との会話の中で示されます。
鶴丸と一緒にしても「辛いだけでしょう」と言う相手にのり夫は――

なるたる7巻
 (『なるたる 7』、講談社、2001、p.48)

そんなのり夫は、自らの分身たる竜骸を「ヴァギナデンタータ」と呼びます。

なるたる4巻-3
 (『なるたる 4』、p.202)

本当は別の名前があらしいこの描写からして当てつけを示唆していますが……それはそうと、「歯のある女陰」を意味するこの名称、調べるといくつかの神話の話は出てくるのですが、比較的包括的な記述は最近になって発見しました。

 飢えた顎。貪欲な口。がつがつと貪り食う歯の生えた深い割れ目。ヴァギナ・デンタータ(歯の生えた女陰)は、民話や神話、美術、夢の世界に昔から氾濫する恐怖のイメージである。ヴァギナの出てくる神話や迷信のなかでも、歯の生えたヴァギナのイメージは最も強烈で最もよく知られてもいる。このイメージが世界中にどれほど広がっているかは驚くほどだ。歯をむきだして噛みつき、男を切断し去勢する歯の生えたヴァギナは、南北アメリカ、アフリカ全体、インドとヨーロッパにも存在する。(……)
 (キャサリン・ブラックリッジ『ヴァギナ 女性器の文化史』、河出書房、2011、p.281)


その後挙げられる神話は「南米チャコ地方のインディオ」「南米のヤマノミ人」「ポリネシア」「ブラジルの熱帯雨林に住むメヒナク」、ナヴァホやアパッチ等の「北米のインディアン」それに「インド」等々の神話です(本書の参考文献はいささか分かりにくいので、より詳しい文献に当たることはまだできていません)。

 勇敢な男の英雄によってヴァギナの歯が取り除かれることは、歯のあるヴァギナ物語の中心的な要素となっている。歯のあるヴァギナを服従させ、すなおな女を作り出すのに使われるのは、ペンチ、石、紐、木の実の薬、鉄のヤットコ、そして岩、棒など、ペニスのように太くて長い道具である。いくつかの物語では、女が歯を抜かれてから、つまり、飽くなき性と精神を破壊され従順になってからやっと、男が女と結婚する。その意味で、ヴァギナの歯を抜くことは、女を弱く従順にして自分たちの考える形に作りなおそうという男の願望を表している。こうした物語では、女のセクシュアリティを飼いならすのに、恥じさせるのではなく、物理的な手段が使われている。(……)
 (同書、pp.284-285)


ここにおいて、歯を抜かれることで男を受け入れ生産力を発揮する「ヴァギナデンタータ」のイメージを、のり夫は(男であるがゆえに)「決して男を受け入れることができない、産まない性」たる自分に読み替えていたことが分かります。
「女の歯を抜いて飼いならす」本来の神話がいかに男性中心主義的なものであろうと、――そして同性愛者に罪はなく、権利が認められるべきであろうと――そうした善悪の問題とは別に、この豊穣の神話の不毛への読み替えは、やはりきわめて衝撃的です。

実際、のり夫は作中でも最も衝撃的かつグロテスクな最期を遂げますが、その時も最後まで鶴丸のために献身し、そして報われず、何も生み出さずに終わりました。
のり夫の死体が磔刑のキリストに擬えた姿にされていた場面こそ背徳の神話の一つの頂点であって、こうしたイメージに満ちていることも『なるたる』という作品のおぞましい魅力の一つです。

ヴァギナ 女性器の文化史 (河出文庫)ヴァギナ 女性器の文化史 (河出文庫)
(2011/02/04)
キャサリン・ブラックリッジ

商品詳細を見る

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。