オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
続・『なるたる』、背徳の神話
それでは追記にて↓
ある時、以前に鶴丸がやった荒仕事が原因で、鶴丸とのり夫が棲家としている廃工場にヤクザがお礼参りに訪れます。
その時はシイナが事件に巻き込まれ、鶴丸もそれを追っていて、工場にいたのはのり夫一人。
彼らがリンクしている「竜の子(竜骸)」は不死身で怪力、使用者次第では重火器等も使えるわけで、戦闘機でも撃墜できますが、のり夫の竜骸・ヴァギナデンタータは鶴丸の支援のため遠隔地に。
結果、のり夫は明らかにヤバい変態により、生きながら解体されることに――

(鬼頭莫宏『なるたる 10』、講談社、2003、p.182)
竜骸を戻せばヤクザ達を始末して自分が助かることはできる――しかしのり夫は鶴丸を助けるためヴァギナデンタータを遠隔地で戦わせ、命を削られていきます。


鶴丸にとって 僕は女の子じゃないもんな
でもそれで よかったのかも
だからどの女の子よりいつもキミのそばにいられた
(同書、pp.193-194)
そして、無惨に死んでいきます。


言いたいこと
言えなかった……
な あ
(同書、p.199, 201)
しかも、その後に帰還した鶴丸によって彼の死体が発見される場面では、生首が自ら作った人形の胴体の上に乗せられ、キリストの磔刑を思わせる姿にされていました。

(『なるたる 11』、講談社、2003、p.16)
ヤクザに生きながら解体されるのはまさしく「受難(パッション)」でした。
しかも――ローマ兵ならぬヤクザ達を呼び込む原因となった「ユダ」は、他ならぬ鶴丸です。
イエスはユダを愛していたがゆえに甘んじて刑に服した――背徳の神話がここに極まる所以です。
子供を産むという絆が持てないがゆえに、決して振り向いてもらえないのを承知で、好きな人の知覚にいるより他なかった少年の、その後で復活することはなく、命と引き換えに何を得られたかも微妙なままの受難と死――
この話にはもう一つ続きがあります。
主人公のシイナも、掌に聖痕のような傷を受けており、しかものり夫の死の直後に蜂の巣になりますが、復活します。
その上、――この辺はとりわけ説明が少ないものの――彼女は本来新たな世界を生む「母」となるはずだったと思われるのです。
にもかかわらず、彼女は最後でそれを拒否します。
他の登場人物達が欲して得られなかったものを――たとえば貝塚ひろ子や小沢さとみの求めた名門・万朶(ばんだ)学園中等部への入学も、のり夫の求めた子供も――全て得て、最終的にはキリストと同時に聖母になるはずで、それでも大切なものを失ってそれを拒否してしまう――
これより悪辣な背徳はないな、と唖然とするばかりで、今でもどう評価したものか悩ましい次第です。
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コメント
No title
No title
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なるたる考察(論?)とても面白く、興味深く読ませていただきました。
作中には神話をモチーフにしたものが随所に見られるなあ、と思ってはいましたが、のり夫からキリスト教的なものを読み取れるのは考えたことがなかったので納得しました。
また、シイナがみんなの手にできなかったものを手にしながら、母になることを拒否するくだりも、たしかにと頷けました。
なるたる論は少ないので、またなにか論じていただけたらな、と勝手ながら思いました。
素敵な論を書いていただき、ありがとうございました。
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