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人工生命とラブコメ――『恋人にしようと生徒会長そっくりの女の子を錬成してみたら、オレが下僕になっていました』

『ハリー・ポッター』シリーズ第一弾の現代は Harry Potter and the Philosopher's stone ――もちろん philosopher's stone は「哲学者の石」ではなく「賢者の石」とするのが定訳です。
ちなみにフランス語では「賢者の石」をどう言うのかと調べてみると、「pierre philosophale」――しかもこの philosophale (哲学者の、賢者の)等という形容詞は他ではまず使わない模様。


そんな話が関係あるかどうかは微妙なところですが、今回取り上げるのは、最近多い「タイトルの長いライトノベル」として記録更新した作品だとか。

恋人にしようと生徒会長そっくりの女の子を錬成してみたら、オレが下僕になっていました (一迅社文庫)恋人にしようと生徒会長そっくりの女の子を錬成してみたら、オレが下僕になっていました (一迅社文庫)
(2012/08/18)
月見 草平

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世の中には「タイトル詐欺」と呼ばれる現象も存在しますが、この場合は概ね偽りなし。タイトルがあらすじになっているという便利な仕様です。
舞台は錬金術を教えるマーサ学院、主人公のアレクは憧れの生徒会長・パメラそっくりの美少女・アメリア錬金術で作り出しますが、この「人体練成」は知られれば死刑相当の禁忌、その弱みもあってアメリアにこき使われてしまい……と。

さて、気になるのはタイトルにもある「錬成」です。

【錬成・練成】
心身をきたえて作り上げること。練磨育成すること。
 (『広辞苑』)


広辞苑の記述は話半分としても、これを錬金術用語として使っている事例は『鋼の錬金術師』以外にあったでしょうか……? そもそも英訳したらどうなるのでしょうか。『鋼の錬金術師』の英訳でどうなっているかを調べるのはまたの機会としますが……
実際、すでに指摘されていることですが、作中の錬金術描写――練成陣を描いてポンと物質を組み換える、実力者なら陣なしでも地面から壁等を出現させるetc...――はほとんど『鋼の錬金術師』そのものです。「人体練成」や「練成陣」といった語はいわずもがな。
これは安易さの産物でしょうか、それともオマージュあるいはパロディであるか、はたまた既存のイメージを利用しつつそこから転換を見せるべく企図されたものでしょうか。
なるほど、あとがきには史上最長タイトルを目指し、当初はこのタイトルの後にさらに「或いは、エ○リック兄弟によろしく!」と付ける予定だったという話がありますし、冒頭部でアメリアを練成しようとしている主人公のモノローグに

 〔人体練成が重罪なのは〕重々承知だが、オレはそんなリスクを取ろうとしている。どうしてもしないといけないのだ、人体練成ってヤツを。
 こういうことを人に話すとなにか事情でもあるのだろう、と変に想像して同情されるかもしれない。幼い頃に亡くした親の顔を一目見ようとしているとか、自分の過ちで亡くした友人や恋人を復活させようとしているとか、或いは失った右腕を弟の体を取り戻そうと、ゲフンゲフン――。
 (月見草平『恋人にしようと生徒会長そっくりの女の子を錬成してみたら、オレが下僕になっていました』、一迅社、2012、pp4-5)


といったネタもありますが、しかし随所にパロディあるいはオマージュが満ちている、と言うには弱い感があります――少なくとも錬金術のイメージが極端に「そのまま」であることに比しては。

では内容的に見てみましょう。
『鋼の錬金術師』においては、金を作ることは法律で禁じられているだけで事実上は可能でしたが、人体練成は――命を「前借り」した「賢者の石」を使わない限り――そもそも成功しないものでした。錬金術で生命を新たに得ることはできない――自然界では生命の増大、すなわち生物学的な成長はもっともありふれたものであるにもかかわらず――、これが『鋼の錬金術師』の根本設定です(「等価交換と心身合一」参照)。
対して、本作の主人公・アレクはあっさりと人体練成に成功してしまい、その後でようやく作り出した彼女のこれからの人生という問題の重大さに、つまり生命を作り出すことの重大さに気付き始めます。「恋人を作るため」という動機の軽薄さと相まって、描かれているのはあまりと言えばあまりな軽率さと愚かさです。
これはどちらかと言えば『フランケンシュタイン』的な人工生命モノの系譜でしょう。

さらに以下のような箇所――

「通常の“巫女錬金術師(アルケミック・メイデン)”が練成しても、人の形をした人形のみができることが多い……」
 欄外に書かれた注意事項を読むたびに、ちょいやる気が萎える。パメラそっくりの冷たい、魂のない女の子ができたらどうするよ? 人の形をしていればまだいいが、もっと全然違う生物、それも生々しいのが生まれでもしたら? “巫女錬金(アルケミー)”の成績がイマイチなオレにできるのか?
 (同書、pp.6-7)


ここから思い起こされるのは以下のような事例です。

狂骨の夢 西行1

『選集抄』という古典にあったんだ
西行法師が高野山で骨を一揃い揃えて反魂の術を使い人を造ると云う話が
 (京極夏彦/志水アキ『狂骨の夢 3』、角川書店、2012、p.37)


狂骨の夢 西行2

西行法師は高野山でこの人のように見様見真似でこの邪法を使った
しかし生き返ったモノはでき損ないだった
人の姿に似ようとも色も悪く声も弦管の音のよう――

そのうえ心がなかった
 (京極夏彦/志水アキ「狂骨の夢」第八夢、『コミック怪 Vol.18』、角川書店、2012、p.319〔単行本4巻収録〕)


狂骨の夢 西行3
 (同書、p.320)

そして、フランケンシュタイン博士も西行法師も人造人間の材料として死体を使っています。古典的な錬金術ではホムンクルスの材料は精液です。
それではいささかグロテスクであるし死体を入手するのはハードルが高いとしても、現代的にDNA採取のイメージで人の髪の毛を用いるとかいう発想はないだろうか、と思うところですが、本作は『鋼の~』に倣って水・炭素・鉄・硫黄といった無機的な材料から人体練成を行います。

ただ、『鋼の~』と違って身体の材料と別に魂が必要とならず、しかも成功してしまうのは、本作の唯物論的な世界観が関係しています。
本作の設定では質量(マーサ)仕事(アネルギ)が二人の異なる神に由来しているという創世神話があり、質量を保存したままその形を操るのが「巫女錬金術師」なのに対し、仕事を保存したままその形を操るのは「仕事使い(アネルギスト)です。
つまり古典物理学的な物質とエネルギーの二元論であって、それとは別に魂だの生命だのが出てくる余地はありません。だから人間を作ることも、ある意味ではロボットを作るのと同じようなものなのでしょう。
こうした設定が東京大学大学院工学研究科卒という作者の経歴と関係しているのかどうかは定かではありませんが(※)。

※ 多少とも物理学に造詣のある方なら、一般相対性理論においては質量とエネルギーは等質なのではないか、と思われるかも知れません。実はそれも終盤で明らかになる真相に関わってきます。

しかしもちろん、「理論上は」モノを作るのと同じように作れるとしても、だからと言って意思を持った人間を作り、その後の人生についてまで責任を担うことの重大さがなくなるわけではありません。
技術は決して生命に届かなかった『鋼の錬金術師』とは対照的に、原理的には問題なくできてしまうからこそ気付かない重大さ――ということなら、設定はよく考えられているとは思います。

とは言え、こうしたことを描くのに具体的な錬金術のあり方の描写を『鋼の~』と重ねることが効果的な方法だったかと言うと、疑問なしとはしません。やはり安易と言うべきでしょう。

ついでに言うと、本作における錬金術は、生まれつき“マーサの分身”と呼ばれる力がなければ使えず、速度や精度によってどれほど「腕が立つ」かを評価されるもの、要するに学問というより実技です。
このことは、アメリアが錬金術の才能を見せて学院に中途入学することになり、目立つがゆえに軋轢をも引き起こし、はたまた錬金術を使って敵と戦う……といった展開には向いています。
さらに「巫女錬金術師」とあるように、通常その才能を持つのは女だけなのですが、アレクは男でありながら一応その才能があり、しかも母親が凄腕の巫女錬金術師だったことで、特例として女子校に通っているという設定です。
これもアレクが下心をもって女子に接近してしまい、それで悪評を取り、挙句自分好みの女の子を作り出そうとする、ということの背景にはなっていますし、実はアレクのことを好きな女の子もきっちりいて、また新たに立つフラグもあって……とオーソドックスなハーレムラブコメとしての展開にも繋がっています。

気になるのは、特例として入学を許可されるくらいで、なおかつ成功しないことも多いという人体練成を成功させてしまうくらいなのだから、アレクは優秀であるという設定で良さそうなものですが、別に成績も良くないという設定(能力的な優秀さと人格的な軽率さは両立するでしょう)。
ただこれも、終盤でアレクの特別なスキルが明らかになることで筋が通ってきます(しかし、『魔法科高校の劣等生』といい『閃弾の天魔穹』といい、「普段の学業では劣等生だけれど実は並外れた能力の持ち主」というのも最近の流行りでしょうか?)。

しかしこれらのいずれも、やはり練成陣のような細かい描写までも『鋼の~』から借用する十分な理由になるとは思えませんが。

それ以外、各種の女の子を取り揃えたハーレムラブコメ+バトルや冒険あり、という点では標準的な出来です。

ところで、メアリ・シェリーの原作小説『フランケンシュタイン』でフランケンシュタイン博士が人造人間を捨てた理由は単に「醜かったから」です。
「予定とはいささか違うクオリティのものができてしまった」ことは同じでも、「キツい性格」というだけの美少女なら愚かな創造主を反省させて話を良い方向に向かわせられるとは、やはり世の中顔なのか――

フランケンシュタイン (創元推理文庫 (532‐1))フランケンシュタイン (創元推理文庫 (532‐1))
(1984/02/24)
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今回取り上げるのはこちら、現時点でタイトルがライトノベル界最長記録とされる『恋人にしようと生徒会長そっくりの女の子を錬成してみたら、オレが下僕になっていました』(略:『...
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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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