オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
メタ設定のメタ解決に向けて――『俺がヒロインを助けすぎて世界がリトル黙示録!? 6』
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今回のライトノベルは早6巻目となる『俺がヒロインを助けすぎて世界がリトル黙示録!?』です(記事:1巻 2,3巻 4,5巻)。
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なぜ今回に限りAMAZONの画像に帯まで入っているのかという疑問はもちろん内容には関係ありませんが、この帯のフレーズは確かに今巻の内容に関わります。というのは、今回は日夜ヒロインに囲まれている烈火のことを周りが問題視しかり嫉妬したりという場面が目立ちますから。
今までそれがあまり見られなかったのは、学校生活どころではないという事情もありますが……そんなわけで今回は大冒険にはならない短編集です。内容はリア(2巻登場)がこの人間社会で生活すべくアルバイトを始める話や響(3巻――正確には2巻末――登場)と烈火のデート編など。
ライトノベルの短編集は、書き下ろしとは別に雑誌掲載されたものをまとめたもの、またそうでなくても各キャラのエピソードを補完するものなどがあります(巻数がコンマ5巻という形で区別してくることも)。
この『リトル黙示録』6巻は書き下ろしですが、本作の場合は毎巻新しいヒロインが登場する仕様だけに、過去に登場したヒロインを掘り下げ、適宜出番を与えるという意味でも待望されていたもので、4,5巻では前半日常エピソードを中心にしつつ中盤で事件に、という構成にして、ここで短編集とは実によくニーズに応えています。
やはり新ヒロインも登場しますが、今まで1巻につき3人(3巻のみ「(烈火にとっての)ヒロイン」は響一人で、響経由で「ヒロイン」が登場しない「物語」3つに巻き込まれるという格好でした)のヒロインが登場していたのに対し、今回は表紙に見られる通り2人だけです。
また短編集なので、基本的には今までのように「複数の物語を組み合わせて解決する」という仕様にはなっていません(四つ目のエピソードには少しだけ「組み合わせ解決」色もありますが)。
しかし何より、「そのままだとバッドエンドを迎える」物語に巻き込まれ「ヒロインを助ける」という今までの話と違い、今回のヒロイン2人はそれほど決定的に困っているようには見えませんし、フラグの立ち方も微妙です(少なくとも、烈火を巡って激しく争う中に入りそうには見えません。軽文部の常盤緑里(ときわ みどり)先輩の方など、――自分も絡みを楽しみつつも――烈火と響のデートをお膳立てしていますし)。
が、それも最後で、他のヒロインとは違う彼女らの役割が説明されることで理由が分かります。同時に、将来ヒロイン達が争うことで戦争になることを告げに来ながらそれ以上手を講ずる様子がなく、ほとんど役に立たなかった未来人・アールの存在意義もある程度説明されます。
「物語」に巻き込まれるというメタ的な設定が作中で明言されているある種の能力である以上、それに働きかけて利用し、事態を動かすことも可能なのではないか――そんなわけで、この作品全体がまた「烈火がヒロインの誰か一人を選ぶまでの(メタ)物語」であり、同時に作中で描かれる様々な物語と並んで烈火の巻き込まれてしまった物語の一つでもある、というメタ的設定を改めて思い出させてくれます。要するに、烈火が未来人アールと出会うことで巻き込まれた「このメタ物語」そのものが、かなり計算された形で用意されたもの――のようなのです。
未来人の干渉も力づくではなく、メタ設定を利用する、というのはなかなか面白い。
ついでに小ネタにもメタ的な言及があったりしますが…
「烈火さんのラッキースケベって胸とかハグとかに偏ってますよね。これだけの数の『ヒロイン』に囲まれて未だにパンチライベントがひとつもないとは……本人の嗜好が『波乱の血筋』に何らかの影響を……」
(なめこ印『俺がヒロインを助けすぎて世界がリトル黙示録!? 6』、ホビージャパン、2012、p.80)
なお、ラブコメが多くしかも基本設定が修羅場であるため、烈火がヒロイン達に痛い目に遭わされるエピソードが目立ちましたが、そこまでイメージが悪くないのは当の暴力シーンの描写はほとんどカットされているのと、そもそも烈火が普段から結構身体を張っているせいでしょうか。
なお、コミカライズも2巻まで発売中です。
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絡み合う「物語」とその根底――『俺がヒロインを助けすぎて世界がリトル黙示録!? 7』
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