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未完の系譜学――『魔法少女地獄』

前回の情報補足ですが、特典のフィルムコマがどの場面になるかはランダムのようです。私の場合はたまたまあれでした。
それから、前編特典のサイン色紙はすでに品切れとの告知あり。後編の特典も何日残っているか分かりませんね。

 ~~~

さて、微妙に繋がるようなそうでもないようなチョイスですが、今回取り上げるライトノベルはこれです。

魔法少女地獄 (講談社ラノベ文庫)魔法少女地獄 (講談社ラノベ文庫)
(2012/08/31)
安藤 白悧

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作中の日本では無数の魔法少女(それぞれに異なる世界観で異なる敵と戦う)が活躍しており、そんな中で主人公の三田村黒犬(みたむら くろいぬ)は普通の男子高校生ですが、どういうわけかやたらとよく敵に襲われ、魔法少女に助けられるという人生を送ってきました。
そんな彼がある日出会った先輩・長南雨衣佳(おさなみ ういか)は自分が魔女であり、「魔法少女絶滅計画」を目論んでいるので協力してほしい、と持ちかけてきます。
ヨーロッパの正当な魔女の子孫である彼女は、魔法少女こそが「魔法を使う女性の姿のスタンダード」だと世間で思われていることが我慢ならないようで……

「魔法少女」と「魔女」という対比は『まどか☆マギカ』にもあったものですが、本作の設定は完全にメタ、つまり「現実の日本におけるフィクションの魔法少女の受容姿勢」がそのまま「作中で現実に存在する魔法少女の受容姿勢」として描かれています。

 月に二、三度の割合で、厚化粧をして変な格好をしたおばさんとかが、町内で暴れまわり、そのつど、これまた変な格好をした可愛い女の子が現れて、倒す。
 そんな、よく考えたらおかしい状況がこの国では二十年続いている。
 そしてここ十年、状況はさらにおかしなことになってきていた。
 魔法少女たちが飽和状態(ネタギレ)に達した結果、もうなにがなにやら分からなくなっているのだ。
 杖から光線を飛ばす『サニー・メグ』などはまだ正統派な方だろう。
 しかし、『斬魔少女 ムラマサ』。彼女などは「なにがなにやらわからない」典型的な例だ。
 どうみても武者や忍者にしか見えない敵を、腰に差した日本刀(自己申告ではマジカル・ステッキだそうだが)でバッサバッサと斬り捨てる。
 それはそれで別にいいんだけど…………。魔法?
 他にも、銃火器をバンバン撃ったり、究極には素手で戦うような魔法少女まで現れだした。
 何か違うんじゃないか?
 彼女らを見るたびにそう突っ込みたかったが、口に出しはしなかった。
 何故か、皆、なんとも思っていないようだったので……。
 (安藤白悧『魔法少女地獄』、講談社、2012、pp.28-29)


「なぜこれが“魔法”少女なのか」という常識に立ち返れば真っ当な疑問を軸に、正統派の「魔法」の使い手たる「魔女」がそれを改めに挑むというメタ的戦いの発想は明瞭です。
しかしここには、もう少し複雑な問題があるようです。

たとえば、作中では「戦う魔法少女の存在が確認され始めた頃」に雨衣佳の大おば様が「魔法少女A」に行ったインタビューなるものが登場しますが、出身が魔法界で父親が魔王というのはサリーとかメグ辺りを念頭に置いた設定でしょう(完全に一致はしませんが)。

「そう。魔法少女は日常ありきなの。しかも魔法少女たちは悪魔と契約を交わしていないわ」
「……つまり、魔法少女はいわゆる『魔法』を、――少なくとも先輩が使っているのと同じ種類の『魔法』を使ってはいないってことですか?」
「そうよ。だから、正しくは『異能少女』とでも言った方がいいの」
 (同書、p.70)


ここには、魔法少女は能力そのものよりもむしろ世界観に依存するという――実は「魔法少女絶滅計画」の要にも関わる――話も含め、同時にこれがどこまで「魔法少女」のスタンダードを反映しているのか、という疑問も生じます。

実際、本作中でも、雨衣佳が魔法少女を倒し、「魔法少女」を名乗ることをやめさせていく中で、相手は元より「魔法少女」を名乗ってなどいなかった、という事態に直面します。
そもそも「魔法少女」なるものが実体のない括りに過ぎないとすれば、問題はむしろそうしたカテゴリーを生み出す社会の側ではないか――これははっきりと黒犬が直面する問いの一つです。

しかし、問題はおそらく、もう一つあります。
ここで主張されているのは本来の「魔法」と魔法少女が使う「魔法」の間の異質さであり、断絶です。
雨衣佳が倒した魔法少女の一人は、そのスタイルを大分アレンジしてはいるものの、やはりヨーロッパの伝統を汲む「魔女」でした。
たとえばいわゆる魔女っ子ものも、さらに『ひみつのアッコちゃん』まで遡れば主人公はやはり力を授かった普通の(この世界の)女の子ですし、人に知られてはいけないという制約はある意味では「契約」の特徴でもあります。

「正統派」「王道」が「異端」「邪道」を批判するのは、その間に断絶を認めればこそです。「異端」や「邪道」もまたしかるべき理由により、それなりの歴史を経て正統から生じたものであるとすれば、そうした批判はどこまで正当でしょうか?
問題はむしろ、逸脱を根拠付けることではないでしょうか。
それは、雨衣佳の本音がそうした大義名分とは別のところにあろうが何だろうが、そもそも対立の可能性の条件であり、本作がメタ作品であればこそなおさら重要なことになります。

 トーストを苦いコーヒーで流し込むと、何の気なしにTVを点けた。
 画面内では「魔法少女研究家」という胡散臭さ超新星爆発の肩書きの太ったおじさんがまくしたてていた。
「つまりこれは魔法少女時代の黄昏がやってきたということなんですね! 魔法少女というジャンルの脱構築、ですよ、脱構築」
 偉そうな顔でジャック・デリダが聞いていたらぶん殴られそうな解説をしている。
 (同書、p.115)


といったネタもありましたが(わざわざデリダの名前まで説明的に出すところが、パロディネタについても当てはまる本作の語りの特徴でもあり、いささかくどくてネタとしてこなれないところでもあります)、必要なのは脱構築よりもむしろ系譜学だったのではないでしょうか。

ですが、この問題は最後まで追究されません。むしろ、「魔法少女」にこだわらない魔法少女は例外と見なされて片付けられてしまいます。
物語の後半は、さんざん巻き込まれて助けられる立場に甘んじ続けた黒犬の魔法少女への屈折した思いやら、彼自身の正体やらに関わる事柄が中心になっていきます。それはそれで――「主役」の条件というやはりメタ的な主題も絡み――ネタ的にはそれなりのものですが、一度姿を見せた問いが逸らされている感も否めません。

終盤で「なぜ魔法少女は戦闘能力を求められるのか」という問いが「禁忌中の禁忌に触れる」ものとして提示されますが、これも本当にこの文脈でラディカルな問いでしょうか。
たとえば、この「魔法少女はなぜ戦うのか」という問題をまさしく歴史的・系譜的に扱った傑作に『魔法少女育成計画』がありましたが、そこで問題になるのは日本の「魔法少女もの」が登場して以来40年余りの歴史の内で起こったことです。「魔法少女が戦うようになった」のは、その短い歴史の中でのことです。
その歴史を、西洋中世以来の魔法と魔法少女が使う魔法との関係と混同するのは、争点を見えなくするおそれがあります。
「魔法」の変質そのものは、『奥様は魔女』のような海外作品においてすでに生じていたのを見て取ることもできます。

これは随所のパロディネタについても言えることですが、この作者、リファレンスの幅は広く、西洋本来の魔法についてもある程度の知識は踏まえているのが窺える半面、それをネタとして昇華することの練度は低い印象があります。
問題意識を絞りきれていないのではないでしょうか。

とかく、「魔法」の系譜学は未だ問題系の端緒を提示されたのみのようです。

 ―――

ところで、これと僅かに掠るかも知れない話として、つい最近『魔女っ子クラシカル(仮)』なる新作アニメ映画の公開が告知されましたが、そのCMを観た瞬間、これ↓か? と思いました。

のろい屋しまい (リュウコミックススペシャル)のろい屋しまい (リュウコミックススペシャル)
(2008/06/20)
ひらりん

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CM画面を観る限り世界観も再現されていそうですが、どこまでこの漫画に忠実なのかはまだ不明です。
今のところ、原作原案も含めて詳しい情報は出ていませんし……

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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