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ワンダーランドの女装男子(×3)――『男子高校生のハレルヤ!』

今回取り上げるライトノベルは新人作品――GA文庫大賞の奨励賞受賞作『男子高校生のハレルヤ!』です。
イラストが『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』によく似ていることで発売前に話題を呼んでしまったりしましたが、もはや旧聞なので後にしておきます。

男子高校生のハレルヤ!  (GA文庫)男子高校生のハレルヤ! (GA文庫)
(2012/10/17)
一之瀬 六樹

商品詳細を見る

ひとまず、

「そう、そこがポイントよ。あなた方は美少女であり男子でもある! 」
「理事長、日本語がおかしいです! 」
 壮大な勘違いから、男であるにもかかわらず女子校に通うことになってしまった僕――山田真理(やまだ しんり)(15)♂。しかもそんな間違いは僕だけかと思いきや、剣道バカの祐紀、男性恐怖症の桜という二人の男子もなぜか一緒に女子高生として通学中!? そこへ前代未聞の極秘任務が発令。「男女共学化の為、美少女にもてあそばれてきなさい」――って、どゆこと!?


というあらすじから見るのが早いでしょうが、何とまあ女装男子3人が主役です。
そんなわけでこの表紙の「美少女」も男です。

主人公の真理は150cm足らずと、女の子としても小さいと言われる小柄で、美少女顔と長髪は地。そしてまず彼らが「美少女」として登場し、「全員、男だァ――――――ッ!!」と叫んで正体を明かすことで占めるプロローグの後に時間を遡ってこうなった経緯が語られる――といった展開まで同レーベルの『おと×まほ』と共通していまして、そこだけ取り上げると『おと×まほ』が完結するので後釜なのかと思いますが、内容的にはあまり共通しません。

そもそも、女装少年なり「男の娘」なりという萌えのジャンル(それが実のところどれほどの人気なのかは別にして)として考えた場合、「女装させられる男」が主人公でありその視点から描かれるのであれば、「こいつは男なのに何でこんなに可愛いんだ」と思って愛でる対象にはなりにくくなります。
そこを『おと×まほ』は男の魔法少女・彼方を主人公にしつつ、嫌がり恥ずかしがる彼方に様々な衣装を着せ、様々なシチュエーションに追い込んで辱めることに徹しました。
対して本作の主人公・真理も無論、女装を嫌がってはいますし、にもかかわらずその可愛さを周りから繰り返し言われもしますが、彼の越境的なセクシュアリティがそれほど強調されているとは言えません。コスプレさせられ弄ばれるエピソードもありますが、その扱いは存外あっさりしたもので、特に女装男子3人の中でも真理の弄られ方は控え目、むしろ弄る側である有栖川マロンの無茶ばかりが目立ちます。

この物語において、「女装して女子校に潜入する男子」以上に「それを推奨してしまう女子校」の方が異常な「不思議の国」であり、それを舞台にしたドタバタコメディがメインで、破天荒な事態の連続を前にして真理の役割は第一にツッコミ役です。
そのコメディの内訳を見ると、全6章構成ですが、

第一話 まずは真理が女子高に通うことになってしまうエピソード。ここでまずは腹黒い理事長が不思議の国への水先案内人です。
第二話 女子に混じって身体測定という、ラッキースケベありの定番エピソード(のはず)。
第三話 外道な先輩にコスプレさせられたりして弄られる。
第四話~第五話 体育大会。借り物競争のお題に「徳川埋蔵金」があったりする辺りから、世界観すら揺るがすこの学校の滅茶苦茶さにはさらに拍車がかかり、闘気で竜を放ったりする異能バトルにまで発展します。
第六話 一応、この巻の締めとなるエピソード。ここでは真理がある程度身体を張って活躍します。

とまあ、ほとんど章ごとに別の作品の案ではないかと思うようなネタが片っ端から詰め込まれている感が強く、もう少し整理した方が良かったのではないかという印象は当然あるでしょう。特に「世界観的にそんなものがありだったのか!?」と(作中でも)ツッコまずにはいられないバトル展開『犬とハサミは使いよう』といった例もありますが、あの作品の場合もバトルは特に賛否両論な部分でした(しかも、馬鹿なことというのは一度やり出すと引き返せず、異常事態と変態のインフレになりがち)。
とは言え、キャラクターと文章のトーンを通奏低音とすることでそれを一応にも一つの作品としてまとあげているのは、ある意味では手腕として評価すべきなのかも知れません。

異能バトルもある種の布石はあったんですよね。怒りで「凍気」を放って「室温計がマイナス方向へ傾き、空気中の水分が凍結してキラキラと光り輝き始める」(p.132)等という表現がまさか比喩でないとは思わなかっただけで。

それから、プロローグでナンパ男を撃退するところと、第六章とで真理が男気のある活躍を見せます。この主人公、「男の娘」的な捩れたセクシュアリティからは遠く、そしてその意味でやはり「男らしい」と言うべきです。
ただ、中間部分ではツッコミが真理の主な役割になっています。
身体を張り腕力を振るうのが男の特権ではないものの、やはりそうした場面こそいわゆる「男気」を見せやすいところである中、女装男子三人組の一人である武里祐紀(たけさと ゆうき)が武力担当になっていて、そちらでの活躍はあまりないという事情もあります。
しかし本作の持ち味はと考えると、やはりこの――外見は「小さくて可愛い美少女」の――主人公が「男として」活躍するところは重要ではないか、とも思うわけです。そこに女装少年ならではのセクシュアリティとか、――作者のあとがきで“普通ならその方向に進むはずなのにそうならなかった”と書いている通り――その結果としてクラスメイトの女子たちに惚れられる展開は無くても良いので。

友情に厚く友達のためなら迷わない(ただし、あまりの異常事態に対しては友達にも冷静にツッコミを入れられる)という少年漫画的な人格はしっかり芯が通っていて悪くない主人公であり、実際それで話を引っ張っている面は決して小さくないのです。裏を返せば、中盤では彼が活躍するというより振り回されてばかりというのが弱みにもなり得るかも知れませんが…

そして、この第六章で同時に、女子たちとのフラグが立たなかった(まったくないとも言えませんが)もう一つの理由も分かります。本作のヒロインは女装三人組の一人・桜吾郎(さくら ごろう)でした。
あらすじにもこう書いてあるので言ってしまっていいと思いますが、彼は……

それに、桜……君は僕と同じ男子を名乗ってるけど、本当は――!?


男性恐怖症の男とかおかしいと思った(あり得ないとは言わないものの)。

もっとも、祐紀の方も――真理の幼馴染でもあって確かに男だったはずなのに――胸があることを不思議がられていますが。

男子高校生のハレルヤ!
 (一之瀬六樹『男子高校生のハレルヤ!』、ソフトバンククリエイティブ、2012、p.67)

「祐紀……いつ、女になったの?」
「ば――っ! 失敬な! オレは昔から男だ!」
「小さいころは僕との友情のために、あえて男のフリをしてたわけじゃなくて?」
「違うっ!」
「自分のことを男だと信じて育ったけど、やっぱり勘違いだったとかじゃなくて?」
「違うと言っているだろう! どんなウッカリさんだオレは!?」
「だって祐紀なら、そういうことを普通にありそうだし」
 (同書、p.68)


両方とも『僕は友達が少ない』ネタである点はさておいて――いやホルモン異常の類らしいと説明はありますが……

ちなみに、この箇所を見ても分かる通りパロディネタも結構ありますが、その使い方はごく常識的で、パロディ以外のネタの方がずっと強烈ですね。「ただの少女には興味ねぇぜ」云々というハルヒの台詞をネタ元同様に皆の前での宣言で使うようなやり方は『ニャル子さん』の作者ならおそらくはやらないところです。

最近のライトノベルではよく見るようになったフォントいじりも、大声で叫ぶところを片っ端から大文字にするのは過剰に思われますが、印刷物の文字を切り張りした脅迫状など、作中に登場する文書の表現に使っているところはなかなかに馴染んでいます。

そんなわけで、先例がないと言えばないが九分九厘無謀であることをとにかくも形にしてしまうという意味でのある種の筆力と、キャラクターの味はそれなりにあったかと思います。
特に主役三人はこれでなかなか良いので、ネタの暴走と話の方向性との調停はこれからまた検討していってほしいところです。


そう言えば、真理の憧れの先輩であった雨宮ソラが只者でないとか評されつつ、登場すらしないで実態不明だったのは多少気にはなりますが……

 ―――

このイラストレーター・ありえこ氏も新人らしく、イラストを担当する作品は今月末に2作目が発売のようです。

こんにちワーク!こんにちワーク!
(2012/10/31)
植岡 キク

商品詳細を見る

これを見ても絵柄がかんざきひろ氏に似ているのは素のようですが、ただ絵面が『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の1巻に似ていると言えばそうでもあります。ついでに、章間にキャラクターデザイン及び設定が挟まれているという仕様も。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)
(2008/08/10)
伏見 つかさ

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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