FC2ブログ

忘れられた終末――『アラタなるセカイ』

以前から前情報には一部触れてきましたが、今回取り上げるのは小説・漫画・アニメを同時展開した作品『アラタなるセカイ』です。
小説・漫画原作・アニメ脚本・主題化作詞は入間人間氏。

「アラタなるセカイ」コンプリートBOX(Blu-ray Disc)「アラタなるセカイ」コンプリートBOX(Blu-ray Disc)
(2012/10/20)
不明

商品詳細を見る

内容的にも一組であり分売不可なので、普通のメディアミックスのように「異なる媒体から読者が入ってくる」ことによる宣伝効果は望めませんし、しかも高価。成功するのかどうかよく分かりませんが……

ひとまず、外装が豪華です。箱を開けてみるとまず特製ブックレット。この内容はキャラクターデザイン画や制作関係者インタビューなどです。
ただし、設定画や入間氏のインタビューに多少のネタバレを含むので、これは後に読んだ方が良さそうです。映画のパンフレットのようなものです。

続いて上から順に小説、漫画、アニメ(DVD、Blu-ray 両方あり)と納められています。
小説が文庫一冊、漫画も一冊、アニメが30分弱となれば、ボリューム的には小説が圧倒的です(小説一冊は普通、アニメで数回分、コミカライズでも数冊になります)。
こういうものはどれから目を通したものか迷いますが、箱に納められていた順に小説からが良いでしょう。小説には結構謎解きの要素がありますし、ボリューム及び媒体の性質から設定解説も一番丁寧なので、まずネタバレ無しでこれを読むのをお奨めします。
漫画とアニメは物語の「解決編」に当たる部分を含み、特にアニメのラストはまさしくカタルシスを与えるクライマックスとして設定されているので、やはりこちらが最後が良いですね。逆にアニメから観ても、設定の説明がほとんどないので何だか分からないのではないでしょうか。

ただし、小説のラストに漫画とアニメの脚本が収録されているので注意。まあそれにはそれなりの理由がありますが……「ネタバレ注意」と警告されたら素直に引き返して、次に移ることをお奨めします。

 ―――

で、そろそろ内容の話です。
まず小説「現代編」の舞台は明日人類が滅亡するという世界です。そのため、一つの町だけを隔離して、「明日が来ない」ように、すなわち同じ一日を繰り返すようにしています。
もっとも、日々の記憶も物質的な変化も積み重ねられているわけで、変化しないものと言えば(作中で判読できる限りでは)季節が移り変わらないことくらいであって、いったい「明日になる」とかならないとかいうのはどういうことだろう、という疑問は生じますが、そういうことも含めてかなり奇妙な世界観です(なぜ明日に人類が滅びるのか、つまり「明日」に訪れるものとは何だったのかは一応説明されますが、腑に落ちるかどうかは難しいところです)。
そして、何人かの少年少女が過去と未来にタイムトラベルすることになります。この作品世界では適性のある人間しかタイムトラベルできず、しかも過去行きの適性がある人間と未来行きの適性がある人間は別なので、タイムトラベルした連中は行きっぱなし、戻れません。

そんなわけで、漫画の「過去編」は人類滅亡の原因を探るべく過去に行った連中の物語ですが……どういうわけかタイムスリップした先の映画館から一歩も出ることができない、という人類滅亡以前に手詰まりな状況に陥ります。

そしてアニメの「未来編」は6000年後の未来に行った連中の話ですが、やはりと言うべきか眼前に広がるのは滅亡後の荒廃した世界のみ……

そして現代編の主人公・中村新(なかむら あらた)は、適性がなかったために現代に残ってニワトリを育てたり芋を作ったりして生活していますが、未来に行った友人に何かを残して伝えるべく、映画を作ることを思い立ちます。

――と、過去・現在・未来ともに手詰まり×3の状況ですが、しかし本作の設定にはそれだけではない奇妙なものがあります。
たとえば、現代編の舞台は現実と同じ2012年です。にもかかわらず、家はどこも地下シェルターになり、紙はほとんど使われていないという未来都市っぷり。
さらに、土が汚染されているので地面を隈なく舗装したはずが、今では新な土を掘り返して芋を作り食べているけれど平気ですし、汚染対策として防護服を着て外出するという習慣も今では忘れられています。

あたかも、「文明が発達し、汚染されて人間の生きられなくなった未来」が前倒しで訪れ、そしてさらに「滅び」そのものがもう半ば忘れられてしまったかのように――

そんなわけで、「ディストピア」や「終末」がその危機としての鋭さを失ってしまったような世界観にあって、バカだと言われる新ののほほんとしたキャラも相まって、物語はむしろゆったりと進みます。
そもそも、タイムマシンが実現されて友人たちが過去や未来に行ってしまった後で「……改めて考えると、SFだなぁ」(小説p.36)と言ったりしているわけで、ここでさらなるSF的真相が明かされたりしても劇的に驚くかというとそうでも……という雰囲気です。

しかしこうなると、「過去に行って人類滅亡の原因を探り、回避する」という、ストレートに「危機と戦う」物語が成立するのかどうか――答えはであり、それが真相に関わることでもあります。
未来行きの方は元よりもっと妙であって、

 私たちが未来へ飛ばされる理由は、『素晴らしい未来』へ行くこと。
 過去と現在で事態に働きかけることで人類滅亡を回避することができれば、未来派必然、人間社会が一層の繁栄を迎えているはず。だったら、それに期待して未来へ行こうと。
 過去へ飛ぶ者、今を生きる者の功労を、その身で味わう人がいてもいいじゃないか。
 というのが建前らしい。それに現在にタイムマシン技術が開発されたのなら、未来にも当然伝わっているわけで、帰ってくることはできる、というのが、前向きな言い訳らしい。
 実際、そんなに上手くいくはずがないと、大半の人間が思っていた。
 私たちが未来へ飛ばされるのは、そんな楽観的なものじゃない。
 遙か遠い、それこど八十万年後の地球にもで行って、その時代から新しい未来を作れ、というのが本当の目的なのだと教えられた。つまり、過去や現在の連中にはなにも期待するな。教師、いや科学者はそう言いたいらしい。モーロックとしても喧嘩してこいってこと? ははは。
 (小説pp.26-27)


でも、――作中でも指摘される通り――未来へ飛ぶのは女子のみ4人。これでは子孫繁栄は無理です。つまりここには裏があるのです。

そんな事態の真相を聞かされたりしつつ、現代編はあくまで新が映画を作る話です。

過去編は映画館から脱出できないという切羽詰った状況でのサスペンスで、打って変わって殺伐として血腥い話になりますが、しかしどうもインパクトが弱いというかカタルシスを欠く印象もあります。
未来編は滅びた世界を舞台にしながら、サバイバルからは縁遠い制服姿の女子4人が会話しながらあちこち散策する、何だか気だるくゆったりした雰囲気です。しかしこちらは音楽も良く、なかなか見事でした。クライマックスもそれなりに決まっていますし。

漫画とアニメはともに尺不足の感があり、脇役は実に影が薄くなってしまっている印象ですが、まあ上述のボリュームの都合上仕方ないところでしょうか。


しかし、この作品について終末というテーマの問題も含めて語ろうと思うと、もう少し補助線が必要な気がしています。
そんなわけで、ネタバレに関わる話はまた次回以降とさせていただきます。

 ―――

ところで、入間氏はシェアドワールドが好きですが、本作はさすがに世界観の特殊さゆえか、他作品との共通キャラクターはほとんど登場しません。
ただ、登場人物の大多数の名前が名古屋市地下鉄東山線の駅名であり(名前を駅名から付けるのは以前からのことで、単に適当に付けているだけとも思われますが、さすがに東山線縛りは意図的なものを感じるのに十分です)、しかも他作品と被らないというにしているのが窺われる中で、「伏見柑」だけは『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の伏見柚々(ふしみ ゆゆ)と同姓なんですね。名前も対応している感じですし(ブックレットの設定資料では「紺」になっていましたが…)。
その他、「東山名月」も同じく『みーまー』の女刑事・上社奈月と名前は近いですし……パラレルワールドのイメージなのでしょうか。

そしてそんな中で、科学者「ホンサン」(本山)だけはわざわざ本名ではないという言及もあり、『昨日は彼女も恋してた』『明日も彼女は恋をする』タイムマシン研究者・松平本人で間違いなさそうです(あまり言うと『昨日~』『明日~』のネタバレにもなりますが、それらしい台詞も複数あり)。
そして『昨日~』『明日~』にはなかった彼のイラストも。アニメでは台詞も少しあります(CV:浜田賢二)。

アラタなるセカイ ホンサン
 (小説p.55)

こんなオッサンのイラストを2枚も入れてくれたのは実にいい仕事でした。

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

「アイで空が落ちてくる」と終末のニヒリズム

前回の続きですが、『アラタなるセカイ』の内容に深入りする前に、表現の話からもう少し(ネタバレ話を求めて検索してきた方が結構いらっしゃるようですが、すいません)。 アニメ
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
03 | 2021/04 | 05
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告