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二人の善良ならざる生き方――『トカゲの王IV ―インビジブル・ライト―』

今回はふたたびライトノベル、『トカゲの王』の4巻です。

トカゲの王IV ―インビジブル・ライト― (電撃文庫)トカゲの王IV ―インビジブル・ライト― (電撃文庫)
(2012/11/09)
入間人間

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(既刊レビュー 
漫画版レビュー

本作の基本設定はある意味オーソドックスで、瞳の色を変えられるだけという微妙な超能力を持った中学生・五十川石竜子(いかがわ とかげ)と超能力は持たない女殺し屋・ナメクジ(本名:米原麻衣)のダブル主人公ですが、1巻でヒロインの巣鴨により、石竜子は右目を、ナメクジは右腕を奪われます。
石竜子の両親はシラサギという白い翼を生やす能力を持った少女(この4巻の表紙)の率いる教団に嵌まって家にも不在がちであり、石竜子は復讐として教祖としてのシラサギを打倒することを目指している一方、ナメクジは巣鴨への復讐のみを目標に生きるようになります。
ナメクジは「巣鴨のようにならない」、すなわち他人を利用しないことを誓うあまり、特にならなくとも人を助けてしまうことすらある一方で、石竜子は復讐のために他人を利用する悪党となり、(借りを作ると後が怖いのも承知で)巣鴨の力をも利用することを決心します。

 ナメクジは、その答えを噛みしめる。
「そう、私が巣鴨が大嫌いなんだ」
 悩んだ末に辿り着く原点はそこだった。
「巣鴨の全てが憎憎しい。バラッバラに引き裂いて、内蔵すべてを引きずり出して繋がっている間にすり潰したい。殺すまでに百回は死なせてくださいと言わせたい。そんな私がだよ、巣鴨になってどうするんだ。自分まで『許せない』ものになったら、自分にも復讐しないといけなくなる。自分を殺したら誰が巣鴨を殺す? 無理でしょ? じゃあ、答えは簡単だ」
 (入間人間『トカゲの王III ―復讐のパーソナリティ〈下〉―』、角川書店、2012、p.118)


「前の人みたいに、石竜子くんがまた大人を騙すの?」
 騙すという部分を強調して巣鴨が訪ねてくる。それは楽しげに、だ。
「……いい歳して、エセ宗教に救済なんか求める方が悪い」
 両親みたいに。
 俺の目は、一番騙してはいけない人たちになによりの効果があった。あってしまった。
 だから今度は、真逆の結果をその目に映してみろ。
「でもそういう人たちにも石竜子くんみたいな子供がいるんだよね」
「………………………………………」
「石竜子くんは、そういう子たちを不幸にする側に立つの?」
 勿論、こいつは善良だからそんなことを聞くわけじゃない。
 むしろ逆だ。
「俺を適確にいじめないでくれ」
「あはは」
 巣鴨の言ったことは正しく、俺の躊躇をえぐる。
 だが勇気を持って、他人を踏みにじる。困難だろうと、心が裂けようと。
 (同書、p.300)


殺し屋という他人を踏みにじる立場にあったナメクジが復讐の他人を利用しないことを誓い、一般人であった石竜子は逆に復讐のために他人を利用することを誓う、そんな対比が根底にあって、ある意味でありきたりながらそこが面白い。また、両者は様々な場面で顔を合わせるものの直接の確執はなく、様々な人物の思惑が入り乱れる群像劇となっています。
さらに、対照的ではあっても両者とも善良とは言い難い道を歩んでおり、しかも巣鴨という最大の悪人がヒロインで、彼女に目を付けられた石竜子の不幸には殺し屋も同情するほどというのが、狂気と残酷さを描くのを得意とする作者ならではでしょう。


さて、2巻で金持ちの集う会場で大暴れした結果、狙われる側に回ってしまったナメクジは3巻でなんとか追っ手のトンボを返り討ちにしましたが、同巻の最後では、やはり3巻で登場した業界最強と言われる殺し屋の一人・ミミズにナメクジ殺しの依頼が入っていました。
順当に追っ手の格が上がっていくナメクジ、この4巻ではいよいよミミズの襲撃を受けます。

このミミズという殺し屋、「人間の人差し指を自由に操る」能力の持ち主です。
能力が地味なのは本作の基本ですが、しかしこれが実際に見ると恐ろしい。何しろ指をへし折るのも捻るのも自由自在ですから。
とは言え、この能力相手なら対策はあるんじゃないか、という疑問への回答も含め、今回はミミズがその本領を発揮します。ミミズの能力の恐怖と、そこから逃げつつ戦うナメクジというサスペンス・アクション風の展開は、「この能力でこんなこともできて、それに対してこんな対策が考えられるのか」という(今までで一番)能力バトル物らしい驚きを与えてくれるものでもあり、また実に生々しい苦痛の描写もあって迫力十分でした。

他にも、新たに登場した「一号」と呼ばれる超能力者についても、能力が不明のままなにやら謎めいた事態が生じるという、それなりに能力バトル物らしいハッタリの効いた描写がありましたが、こちらについてはこの巻では詳細が判明しないままでした。

そんなわけで戦闘面を担ってカッコいいナメクジに対し、石竜子は地味です。「痛い目に遭う」役割も今回はもっぱらナメクジがやっているだけになおさら。
しかも、ラストではナメクジが新たな能力に覚醒したらしき様なのに対して、石竜子にもう新能力は覚醒しないと前巻あとがきで断言されていますし……

とりあえず、前巻ラストで教団「ニュートラル友の会」を手に入れたので、いよいよ教祖としての活動の始まりですが、しかし肝心なことをはぐらかしてもっともらしく見せる演説と応答のテクニックはさすが。仇敵であるシラサギのやり方を見て学んだようですが、それができる辺り、なかなか頭が良くて計算高くはあるんですね。本心は小心者でも、堂々としたハッタリがかませる人間でもありますし。
信者の心理に対する洞察も鋭くて、たとえば今後徐々に路線を変更することまで念頭に置いて、

 信心を得ておけばどれだけ主義主張がコロコロ変わっても大丈夫。
 こんな宗教にはまるやつは、献身的に神を信じる、『自分』がなにより好きなのだから。
 (入間人間『トカゲの王IV ―インビジブル・ライト―』、角川書店、2012、p.70)


とか、さしあたって残った信者がオバチャンばかりであることを見て、

 というかここに集まった十二人に男性はいない。庶民派目線を装って信者を獲得するには、主婦層が狙い目ということなのだろう。専業主婦の仕事の内容を馬鹿にしている旦那は多い。俺の両親がマトモだった頃、同じが母親にお前は楽でいいなぁと何度も言っていたのを覚えている。
 そうした認められない部分に鬱屈を感じている主婦は確実にいる。そう、目の前に。
 (同書、p.73)


とか。
石竜子自身が小学生時代に両親に連れられて参加したシラサギの教団の修行で、最後に「おめでとう、おめでとう」と「祝福」される場面(同書、p.36)なども自己啓発セミナーの定番で、洗脳の仕方とされる側の心理の基本はきっちり押さえられています。

まあ、教団の仕事が話のメインではありませんが、やたらと強くなりアクションで活躍しつつも今まで以上に振り回されているナメクジに対し、石竜子は地味に基盤を作りつつあるというのは面白いところです。


そんな中、今巻の中核部では仇敵シラサギが現れて石竜子をデートに誘い、そして「私を憎めないように」して「復讐を終わらせて」あげると言ってきます。
実際、巣鴨を見れば暴走するナメクジの憎しみとはこの点でも対照的で、石竜子のシラサギ個人に対する憎しみというのがどれだけのものかは微妙なものです(そもそも彼は、酷い目に遭わされた相手に対しても脅えることこそあれ、基本的に憎んでいる様子はありません)。
そんなわけで、今巻は石竜子が自らの「復讐心」と向き合う機会でもありました。

 (……)シラサギが嫌い。それに嘘はない。
 だけどそれよりもずっと、自分が嫌いなのかもしれない。過去の軽率な自分を否定するために、なかったことにするために。過去の清算こそが本命の動機なのだろう、多分。
 どうやってでも過去をなかったことにしたい女と話すとき、俺は鏡を覗くようだったから。
 (同書、p.216)


しかし、教祖として成り上がりシラサギを失墜させるという今の目標は、「自分は特別なはず」という「中二病」的全能感から「王になる」と言っていたことからどう変化しているというのでしょうか。
結局、「特別」を夢見ていても何も変わりません。今の石竜子は自分の無力を認め、向いて戦いなどはしないと決めています。「自分の特別さ」は自分で信じるのではなく、冷静に取り扱って、他人に信じさせるものになりました(この点で彼は、自己全能感に囚われたまま図らずも道を踏み外して行った『クロクロクロック』の首藤祐貴とも好対照をなしています)。それは夢を見ていた過去との決別になり得るのか……


また本作は登場人物の回転率が高い。結構な新たな人物が登場して関わり、死んでいくのは、組織的に関わっている人間が割と多いことと相まって、作品世界に一定の広がりを感じさせるものでもあるでしょう。
そんな中で、3巻ラストで登場したミミズの上司のマッドサイエンティスト・辰野浅香(たつの あさか)がシラサギを超えたラスボスになりそうな気配もありますが…

それから、石竜子の幼馴染の鹿川成実(しかがわ なるみ)。『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の伏見柚々もそうでしたが、皆が壊れていたり狂っていたりするのが当然の作品世界ではまともな一般人の子がいい味を出している……と思いきや、事情が変わってきました。
そもそも、彼女の姉・鹿川遊里(ゆうり)元AV女優の猪狩友梨乃にして心を読む超能力者であり、彼女の裏社会との関わりが原因で成実も3巻では人質として狙われていました。しかもかつて成実にも「声が聞こえる」超能力があったらしい描写もあり…。
この4巻ではまたも別の(しかし3巻でのことから繋がってはいる)理由から狙われた上、姉と同様の能力が覚醒します。その結果は陰惨です。
成実を待ち受ける結末と、ナメクジと共同生活をしていたが裏切った疑惑もある姉・遊里の意図については完全に次巻に持ち越しですね。


最後に、本作の舞台は「アイで空が落ちてくる」世界が一度滅亡してから2700年後らしく、どうやらその辺も物語に関わってきそうです(これがナメクジの血筋にも関係あるらしきことは、実は時系列を超えてシロとナメクジが特別共演した『ハイパーイルマ対戦 File.03』で一足先に示唆されていましたが……)。
とにかく、バトルとサスペンス、2人の主人公の行き方と心情、そして大きな物語と全てにおいて今まで以上に魅せる要素が揃ってきて良い内容でした。続きも楽しみです。

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今回取り上げる小説は『トカゲの王』の新刊です。 昨年11月以来、実に8ヶ月ぶりの新刊です。この間に『僕は友達が少ない』の新刊等が発売延期されていることからある程度予想されて
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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