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新たな系譜を紡ぐ――『魔法少女育成計画restart(前)』

ライトノベルの刊行数が増えても書店の置き場は急に増えないせいか、かつては置いてあった(今でも既刊が少しは置いてある)レーベルの新刊が見当たらないケースが増えているような気がします。アニメ化されているものなの有力なものを平積みするスペースも足りなくなっていないかと思われるほどに…

そんなわけでこれも思うように入手できなかった今月の新刊ですが、今回は『魔法少女育成計画』の続編を取り上げます。

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(2012/11/09)
遠藤 浅蜊

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しかも前後編で、後編も来月発売です。

魔法少女育成計画 restart(後) (このライトノベルがすごい!文庫)魔法少女育成計画 restart(後) (このライトノベルがすごい!文庫)
(2012/12/10)
遠藤 浅蜊

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前巻がバトルロワイヤルで登場人物のほとんどが消えて見事に完結していただけに、ほとんど新メンバーでの「restart」となりましたが、本当に風太郎忍法帖のようにコンセプトのみ同一のシリーズとしていくらでも続けられるというのも物足りないので、前作の生き残りにも登場してほしい……等と思っていましたが、期待に違わず、前作生き残りのスノーホワイトが登場する正真正銘の続編です。

このことはテーマ的にも言えます。この『育成計画』の特徴としては、

1. 魔法少女のバトルロワイヤル物という題材を追求
2. しかも山田風太郎の忍法帖のように登場人物の次々が死んでいく殺し合いを現代的な「キャラクター小説」という枠組みで実現
3. 「魔法少女はなぜ戦うのか」という歴史的・系譜学的問いの主題化

といったものでしたが、これらはちゃんと『restart』にも受け継がれています。見ていきましょう。

まず、無印では「魔法少女育成計画」はソーシャルゲームの名前であり、そのプレイヤーの中から選ばれた人間が本物の魔法少女になれるという設定で、そうして生まれた16人の魔法少女が一つの街を舞台に戦いを繰り広げました。そしてこの戦いは魔法の国の一員たる正規の魔法少女の選抜試験でもありました。
対して今回の『restart』では、すでに選抜試験を経た正規の魔法少女が16人、同名のゲームの世界に召喚されて戦いを繰り広げます。
ゲームの世界でのバトルロワイヤルという題材は『連鎖のカルネアデス』とも共通しています(というかありがちです)が、やはり圧縮率が段違いです。
これでも前後編ということもあり、また後述のように事情も無印とは少し違うので、無印よりはずっと脱落率が低く、まだその人物について謎の残る魔法少女もいますが、コンパクトな活躍で人となりを見せて消化していく手腕は相変わらず見事です。

カラー口絵に全員のキャラ紹介(イラスト、名前、魔法)が載っている仕様も無印と同様で、16人の顔ぶれを把握するのと本文中で説明の少ない能力を確認するのに重宝します。
(しかし逆にイラスト面での問題点もあって、99ページを最後に後半にはイラストがありません。後編はもうちょっと何とかしていただきたい)

ただし今回は舞台がRPG系ゲームの中で、モンスターとの戦闘やイベントもありますし、また『連鎖のカルネアデス』のようにゲームマスターから殺し合いを強いられているわけでもありません。
そんなわけで魔法少女同士の戦いの率はだいぶ低めですし、通常プレイにはやや単調な箇所もあり。それでも、メインキャラと思われた一人が雑魚モンスター戦でまさかの死に方をしたり、「どんな攻撃でも防げるスーツ」と「何でも切れる」能力の対決があったり、なんと巨大怪獣対決になったりと、やはりキャラクターの消化が早い能力バトルとして魅せる展開が満載です。

そして、上記3の「魔法少女はなぜ戦うのか」というテーマに関わる部分ですが……今回のゲーム「魔法少女育成計画」では、表向き殺し合いが推奨されているわけではありません。4人までパーティーを組める仕様になっていますし(実は口絵の色囲いがパーティーを示しています)、「魔王を倒す」というゲームクリア条件を満たせば全員が解放されるのですから、パーティー間でも協力する意味はあります。
もちろんゲーム中でのアイテムやリアルでも支払われる報酬欲しさに、ということは考えられますが、しかしクリアに誰の能力が必要になるかも分からないのに殺すのはリスクの方が大きいだろう、という問題はありますし、作中人物もそう思います。
とは言うものの、後半では(無印にもあった)「マジカルキャンディーの最も少ない者から脱落」という冷酷なイベントが発生したりもしますが、実はこれも抜け道があり。

にもかかわらずプレイヤー殺しが発生してしまい、犯人は誰か? というミステリ風の展開もあって、多くの謎を残して後編への引きとなっています。

高慢なお嬢様であるプフレがちゃんと犠牲を出さない道を求めていたり、探偵であるディティック・ベルがログアウト期間にリアルで他の魔法少女のことを探っていたりと、この辺で活躍するメンバーもいて、そちらも楽しみなところです。

中途半端な場所ですが、以下は一応、無印とrestartを合わせてのネタバレを含むということで、追記に回します。





まず、序盤から伏線がありつつも未だ明言されてはいないことですが、どうやら今回の魔法少女達は、無印のゲームマスターであったクラムベリー(とマスコットのファヴ)の行う選抜試験(つまり殺し合い)を経て魔法少女となっており、しかもその記憶は消されているようで、その時のことを思い起こさせるものにトラウマを刺激されている描写が見られます。
とは言え、本来魔法の国は魔法少女に人格を求めており、殺し合いによる選抜などは完全にファヴとクラムベリーの暴走でした。そして無印で両者が打倒されたはずでした。しかし同時に、戦わず人助けを行う魔法少女として生き残ったスノーホワイトは、もう後悔しないよう、戦う魔法少女となることを選ぶという逆説的な形で物語が終わってもいました。
そして今回『restart』のゲームマスターはスノーホワイトのファンですが、実に奇妙な発言をします。

「やっぱかっこええ! 悪の魔法少女を許さない魔法少女狩りのスノーホワイト! 強い者こそ魔法少女になるべきだ!なんて勝手な理屈で殺し合いをさせていたフレイミィをやっつけた! 強く優しい正義の魔法少女! えいっ! とうっ!」
 ガチャンとなにかが落ちる音が聞こえた。
「だいたい魔法少女に強さが必要っておかしいと思わない? 魔法少女っていうのはさ、優しくて、愛らしくて、思いやりとか友情とかひたむきさとかそういうのがないと!」
「確かに、そうかもしれないぽん。まあ強さがあってもいいとは思うけど」
 少女に応えた声は子供のように甲高かった。甲高いが、声の調子は落ち着いている。
「やっぱりそうだよね! あたしの師匠もそういってたんよ。強いだけじゃ魔法少女の資格はない。強さを求めるだけの魔法少女なんていらない。殺し合いをさせる魔法少女なんて論外で、殺し合いで選ばれた魔法少女もいちゃいけない」
 (遠藤浅蜊『魔法少女育成計画 restart (前)』、宝島社、2012、p.50)


「強さが必要」なのはおかしいと言いつつ、強さばかりを求める「悪の魔法少女」を倒すスノーホワイトが「強く優しい」ことを称揚するという異様さ。しかし、ある意味ではこれは当然です。
「戦うべきではありません」と呼びかけているだけではどうにもならないというのも無印で描かれていたことであって、戦いを止めるためにも戦う強さが必要です。
ことバトルロワイヤルにおいて、そうして戦いを止めようとすることはやはり戦いに参加する一員となることではないか、という『仮面ライダー龍騎』の主題でもあった問題は、そう簡単には乗り越えられません。

どうやら今回のマスターはファヴとクラムベリーの選抜試験で魔法少女となった者達を「子供達」と呼んで危険視しており、それゆえにこのゲームの世界に召喚して、こんな状況下でも殺し合わず助け合うことのできる「正義の魔法少女」なのかどうか試そうとしているようです。

「あたしはふざけてないってば。ふざけてるのは『子供達』を放置する『魔法の国』さね」
「マスターの懸念はファルだって認めるぽん。『子供達』は危険かもしれない。それなのに『魔法の国』は耳を閉ざして聞こうとしない。だったら自分で確かめるしかない。それはわかるぽん。だからこそこうして」
「『子供達』は証明してみせればいいだけだよ。自分が正しい魔法少女だって」
 (同書、p.103)


しかしそもそも、ファヴとクラムベリーの暴走を許したのは、ある意味では、面倒な事務処理を嫌って電子妖精に丸投げし、虚偽の報告をチェックすることもできなかった魔法の国の体質でした。今回も、融通が利かず一度決定したことは覆さないくせに監視機能の欠けた魔法の国のお役所体質はまったく変わっていないことが窺われます。
人助けをする優しい魔法少女が求められている中でも、すでに危険の芽は孕まれていたのであって、一度暴力が持ち込まれればもはやそれを回避することは難しい――これが「戦う魔法少女」の系譜の第一段階です。

そして今回は“その先”に当たります。
魔法少女が強さを求められるのはなぜか、それはおかしいんじゃないか、と(我々のように)考える者が出てきます。
しかしそうして現状を無理矢理に動かそうとする結果、「戦わない魔法少女」を求める者こそ、魔法少女達にもっとも残酷な戦いを強いる者となる――

この歴史は次はどこに行き着き何を生み出すのか、目が離せません。

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Author:T.Y.
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2012年4月より京都大学大学院。

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