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規制されたがる人達――『下ネタという概念が存在しない退屈な世界 2』

今月のガガガ文庫の新刊は3タイトル揃って新人作品の2巻が出るという、なかなかに目出度い事態となりました。
そんなわけでまずは『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』を取り上げさせていただきます。

下ネタという概念が存在しない退屈な世界 2 (ガガガ文庫)下ネタという概念が存在しない退屈な世界 2 (ガガガ文庫)
(2012/11/20)
赤城 大空

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1巻レビュー

まだまだマイナーレーベルであるガガガ文庫に若いライト読者がどのくらいいるのか分かりませんが、本作は管理社会とそれに戦う人間を描いたディストピア文学の入門編としては十二分にお奨めできるものとなっています(入門編というのは、管理社会というものに関する考察がオーソドックスなレベルに留まっている、という意味でもありますが)。

もちろん、設定上細かいことを追及し始めれば疑問点は少なくありませんが、それを「主人公がもっぱら変な女によって未知の世界に招き入れられ、共に活動することになる」という物語のフォーマットに落とし込むことで押し通す推進力を与えているのは、評価してよい一種の妙技です。
現実から離れた世界を描く場合、その世界に疎遠な主人公が「水先案内人」によってその世界に導きいれられることで読者を誘うのは基本的な形態で、『涼宮ハルヒ』の例を挙げるまでもなく、その「水先案内人」がヒロインであるというのもライトノベルではよくあるものです。

しかし、これはつまり「美少女」による「萌え」の力で読者を引き込んでいるのかというと、そうとばかりも言えない面もあります。「キャラは萌えるが、話はいまいち」と評されるのもよくあることだからです。
本作の美少女達も、一般的な「萌えキャラ」の路線からは大きく外れています。特に、下ネタテロという世界への案内人である華城綾女のどぎつい下ネタ連呼はなかなかに人を選ぶところかも知れませんし、性を異様な冷静さで追及するマッドサイエンティストの不破氷菓も、暴走するお嬢様・アンナ・錦ノ宮(この2巻表紙)もとんでもないキャラクター達です。
しかし、そんな彼女たちだからこそ、優れたナビゲーターたり得ています。
(もっとも、萌えとは発明され、発見されるものです。当初は「ここに萌えはない」と言われていたものが3年後には「ありがちな萌えキャラ」と見なされるようになっているという程度のことでは、驚いてはいられません。本作の場合もこの清々しいくらいにぶっ飛んだキャラ造型に魅力を感じることは十分に可能であり、それは「萌え」と見なされるようになっていくのかも知れません。すでにして「これがギャップ萌えか」といった意見もありますし)

そして、やはり本作の最大の見所は、性知識そのものが規制された世界で、無知ゆえに性が暴走し、「清純」な育ちの極みが最高の変態かつ淫乱に転ずる、清純とノーマルと変態が交錯する場面です。変態とまともが簡単に区分できない有り様は作品の基調音としてこの2巻でも健在です。

また、主人公たちが繰り広げる「下ネタテロ」活動は圧政への抵抗ですが、それはつまり現状を改革し気持ちの良い世界を作ろうと生きる青春でもあります。
1巻の最初は無理矢理テロ活動に参加させられていた主人公・狸吉も、今や下ネタテロの意義と爽快感を知り、綾女に憧れるまでになっています。そんな狸吉の「華城先輩のようにはなれない」、活躍できていないんじゃないか、という悩みも2巻のストーリーの軸となっていますね。

と、ある意味で内容は濃厚、そのため展開を詰めて端折りすぎている感のあるところもありますが……特に、他校に侵入して昆虫の交尾実況をする箇所や交渉の箇所などはほとんど一言で済まされており、もう少し具体的に描けるのではないかと感じる箇所は少なからずありました。

しかし、ハイテンションに連呼される下ネタの勢いはますます健在。小学生レベルのものからえげつないものまで様々ですが、言葉やイメージを縦横無尽に読み替えて何でも下ネタに繋げるセンスはさすが、それに狸吉がツッコミを入れる掛け合い漫才もいっそうテンポ良くなっています。
何しろ冒頭から「ハートマークって、亀頭にそっくりよね」(p.17)から始まりますから…

「漫画とかで、登場人物の目がハートになるわ。あれはきっとチンコが欲しいのよ。ほら、お金に目が眩んだときの表現で目が$になるのと一緒よ。メールの語尾についけるハートも『あなたのチンコが欲しいです』って隠喩ね」
「暴論もいいとこですね! 男の目がハートになることもあるじゃないですか」
 (赤城大空『下ネタという概念が存在しない退屈な世界 2』、小学館、2012、p.18)


ネタのキツさは綾女の機嫌によっても変わっているようで――

「大量の白濁液を無理やり胃袋に注ぎこまれたみたいに胸糞悪い! 胃袋が妊娠を超えて出産しちゃいそう! けど《群れた布地》の危険性を早い段階で実感できたのは不幸中の幸いね」
 (同所、p.45)


ちなみに、表紙の背景に描かれているのは全て作中に登場する文言です。

ストーリーはというと、2巻では大規模な下着泥棒組織《群れた布地》が登場。綾女たちの下ネタテロ組織《SOX》に触発されて社会への抗議行動を行っている、と主張しますが、どう考えても己の欲望を満たしているだけ。こういう連中と一緒にされると《SOX》も啓蒙する対象である少年少女に反感を抱かれ、啓蒙が効果を失うということで(今までのところ、大人たちの抑圧に対抗して性情報を流布する《SOX》は生徒たちから指示されていました。一般生徒ながら生徒たちを巧みに指揮して《SOX》に協力する不破の活躍なども見事です)、《SOX》もまた下着泥棒を取り締まる側に回ります。
自らも取り締まりから逃げながら敵を追う、構成としては熱い展開ですね。

そうそう、さらっと存在を触れられただけですが、どうやら狸吉の母親らしき人物が善導課――体制側――にいるらしいことも触れられ、こちらも今後ストーリーのポイントとなっていきそうです。

ちなみにこの《群れた布地》の頭目《頂の白》は極め付きの変態で、しかもその姿が折り込みカラー口絵で描かれていますが……変態を超えて恐ろしい。恐ろしいので画像はお見せしません。

 真っ白だったのは、僕の頭だけではなかった。映像の中で優雅に椅子に腰かけ、ワイングラスを傾ける男の全身、頭のてっぺんからつま先まで、あますところなく真っ白だった。なぜなら――男はつなぎ合わせた純白のパンティーで、全身をコーティングしていたのだ。
 (同所、p.43)



また微妙な位置ですが、以下は内容に踏み込んでネタバレにも関わりますので追記にて。




上でも触れた清純と淫乱の反転する境地として1巻のもっとも注目すべき点だったのは、規制推進の中心人物であるソフィアの娘であり、もっとも清純に育てられたはずのアンナが、性知識がないがゆえに淫乱の極みたる暴走を見せるところでした。それは今回も相変わらず、表紙で男物のトランクスの匂いを嗅いでいるのも本文の内容に忠実です。
しかも彼女は、「正しければ人に愛される」と信じ、自分の教えられた正しさ――卑猥の取り締まり――のために戦うことに微塵も疑いを抱いていません。

そして2巻では、1巻でも名前の出ていた全国の下ネタテロ組織の支援者である鬼頭慶介(おにがしら けいすけ)の一人娘である中学生・鬼頭鼓修理(こすり)が登場します(名前がすでにアウト)。
「情けない」父親に反抗し、《SOX》に憧れて協力するために飛び出してきたという彼女もまた、自らの理想とするテロ活動に参加することの素晴らしさを信じて疑いません。
しかし現実は憧れの通りとは限りません。

なぜ綾女たちが《群れた布地》と対立するのか、それは啓蒙すべき民衆に反感を抱かれては拙いからです。そのためには引っ込まねばならない時もあります。
暴挙によって人々の性に対する反感が強まれば、結局は規制する側の思う壺です。
実際、時岡学園内にも下着泥棒対策のため、新組織として風紀委員を設置するという動きが出てきます。生徒たちが自ら取り締まりに参加する形で。

さらに、ソフィア・錦ノ宮の夫で性表現規制派の元締めである錦ノ宮祠影(まつかげ)もついに登場、読者には彼の真意も明かされます。

 私たちのような、本当に国を思う優秀な人間にこそ判断の材料となる情報が集積され、それをもとに下された規定や計画に国民が従うよう言論統制がなされなければならない。政治家一族である祠影の生家では、その思想が当たり前のように受け継がれていた。
 そしてそのためにまず、絶対的な正義と称される表現の自由を破壊する必要があった。
 その最良の手段こそが、性表現規制なのだ。人々が無条件で悪とみなし、倫理や理論を超えた場所で規制すべきと叫ぶ性表現こそ、表現の自由を突き崩す鍵となりえた。
 (同書、p.265)


結局のところ特定の為政者が全てを掌握しているという構図はシンプルに過ぎるとは言え、「悪を排除するため」という大義名分が掲げられれば自ら進んで規制されたがる人々、という指摘は見事です。
そこにおいて盲目的に動かされてしまいやすいのが実は「自分の正しさを信じて疑わない人」なのです。
しかし……

「アンナ・錦ノ宮は、正しければなにをやってもよいと考えているようなのです」
「……なんだよ、それ」
 けれどその一見して意味不明な言葉は、アンナ先輩の言動にぴたりと一致した。
「きっと彼女は、正義のためなら人さえ殺しますよ。なんの疑問も抱かず、笑顔で、彼女の優秀な頭脳が見逃すはずのない理論的矛盾をすべて無視して。そんな人に、勝利などというものが訪れるはずがありません。いつか必ず破綻します」
 (同書、p.288)


かつて私は、「小さな正義」は自足したものとして他の「小さな正義」に対立し、共同の「大きな正義」を確立するのは難しい、という考えに疑義を呈しました(「君の正義と俺の正義は違うか」参照)。
たしかに「大きな正義」は困難です。しかし、誠実であろうとする時、「小さな正義」だからといってそう簡単に成立するものでしょうか。

結局、この世で一番「“自分の正しさ”に関して揺るぎない人」とは、自分の矛盾を忘れる人です。負けたことを忘れる人が(本人としては)無敗であるのと同じように。
自分は昨日も正しい、今日も正しい、その間の矛盾など知らない――

下ネタテロはそうした「正しさの暴走」に立ち向かうべく、「間違い」を引き受けます。

“そう、私たち下ネタテロ組織は、あくまで間違った存在でなければならないわ。自分たちを正しいと思い込んだまま突き進んだんじゃあ、下ネタという概念の存在しない退屈な世界こそが“理想”の……正しい世界だと妄信して作り上げてきた人たちと、同じになってしまうもの。自分たちが正しいと盲信して突き進んだ《群れた布地》は、そしてこれから現れるかもしれないそういう輩はつまり、善導課やこの国と同じ、私たちの敵。反体制組織だろうが下ネタ好きな集団だろうが、全力で排除させてもらうわ!”
 (……)
“そもそも下ネタもエロも、間違っていなければ意味がないもの。間違っているから魅力的で、隠さなければならないものだから興奮が増して、悪であるからこそ輝いて、歪んでいるからこそ引きつけられる! 間違いを際立たせるために正しさは必要だけれど、だからといって私たちが正しくあってはならないわ! だから私は下ネタという概念が存在しない退屈な世界を壊すために、絶対悪として闘うことをここに表明する!”
 (同書、p.303)



なお、もう一人の新キャラとして、錦ノ宮祠影の手駒たる風紀委員として時岡高校に送り込まれてきた月見草朧(つきみぐさ おぼろ)が登場。祠影の息のかかった養護施設で「正義のために」エリート教育を受けつつも、取り締まるため卑猥についての知識を与えられているという人物なのですが、予想通りにそれゆえの壮大な歪みを抱えており、どうも自らの嗜好も性欲も命令のままというロボットのような存在になっているよう。
バスケットボールのゴールでさえ卑猥として取り締まろうとする一方、「これは卑猥ではない」と教えられるとボーイズラブ同人誌でも「分かりました」と言って取り締まりをやめてしまう彼女(?)の姿は、ギャグである一方でまさしく行動の動機となる情動を持たないまま知識だけを機械的に当て嵌めている人間を描き出していますが、彼女のことは物語の主題にはならず。今後またスポットを浴びる機会があるのでしょうか。

 ―――

最後におまけ。

「華城先輩、珍しくヒワイな冗談が控えめですね? どうかしたんですか?」
「そ、そんなことないわよ! ホ●ォ……ホ●ォ……ほらね!」
 (同書、p.34)


 真の姿を現したナチャ橋、それはビッグサイズの蜘蛛そのものだった。頭部だけでも目算で十数メートルほどに見えるから、足の先までを含めた全長はどれほどか想像も付かない。
「クモォ……クモォ……!」
 分かりやすい鳴き声だった。
 少しは工夫しろとか思う。
 (逢空万太『這いよれ!ニャル子さん 10』、ソフトバンククリエイティブ、2012、p.228)


表紙にもあるシャバドゥビタッチは最近流行りのネタだから分かるとして、何でしょうこのネタの被りは。

※ 元ネタ → ┌(┌^o^)┐ホモォ…

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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