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食と復讐――『たったひとつの、ねがい。』

さてライトノベル(?)、入間人間氏の今年最後の作品となります。

たったひとつの、ねがい。 (メディアワークス文庫)たったひとつの、ねがい。 (メディアワークス文庫)
(2012/11/22)
入間 人間

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さらにこの作品、作者の公式サイトにてプロローグ(文庫にして約40ページ)を先行公開していました(こちら → たったひとつの、ねがい。)。

社宅に暮らす「俺」は、大学時代に付き合い始めて4~5年になる彼女・東雲陽子(しののめ ようこ)とそろそろ結婚を考える頃。
そんな平和なある日、二人を恐るべき惨劇が襲い……というところまでがプロローグなので、Webでご覧になってみればそのえげつなさはお分かりかと思います。

まあ何しろ、食人です。
この題材は『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(「みーまー」)にもありましたが(言うまでもなく映像化を困難にする壁)、今回は生きた人間をバリバリと食うのですから、もはやファンタジーの域ですが、おぞましさも格別です。

そして第1章からは、何とか生き延びるも右手以外の手足が不自由になった「俺」ことダンタクヤの復讐が始まります。
謎の老婆・赤佐クリスティ(明らかに偽名)に特製の車椅子を作ってもらい、一人一人襲撃して……
4人の内2人目を殺せば相手も狙われているのに気付きますから、そこで守りを固めてくる相手に接近するため意外な協力者を得たりとサスペンス展開。そして、主人公はどんどん超人的になっていきます。
同時に、赤佐の孫でやはり車椅子の少女・羽澄(はずみ)との交流も始まりますが、彼女も実の祖父に右足を食べられたとのことで怯えてほとんど口を聞かなくなっている、というよりもやはりどこか壊れているようです。

同時に複数の作品を書いているとその間にどれだけの相互影響があるものでしょうか。確かに作品間で呼応していると思われることもありますし、それと見てとれないこともありますが、「復讐」という主題は現在刊行中の『トカゲの王』で扱われているものの一つでもあります。そこでは、復讐対象である巣鴨を見れば我を忘れて暴走するナメクジと、シラサギに対する敵意が先行しているわけでは必ずしもない石竜子とが対照をなしていました。
この『たったひとつの、ねがい。』の主人公はもちろん、凄まじい復讐心に駆り立てられ、それによって不可能を可能にしていきます。

「どこまでやる気なんだい」
「どこまで?」
「復讐する相手を殺して終わりか、それとも」
「全部に決まっているだろう」
 質問の意図を読み取って、話している途中だが返答する。
 赤佐のババアの目がきろりと俺に向いた。
「皆殺しだ。そいつの家族も、一人残らず」
 意識すると自然、握り拳を作ってしまう。爪が手のひらに巻いた包帯を突き破る。
 半年間鍛え続けた右腕の腕力と握力は、以前の比ではない。
 ババアが姿勢を正す。歳に似合わず背筋がしっかりと伸びて、
「復讐する相手にも家族がいる、って言ってみようとしたんだけどね」
「……? だからいいんじゃないか」
 (入間人間『たったひとつの、ねがい。』、アスキー・メディワワークス、2012、p.61)


「たとえあなたの嘘が真実でも、それでもあなたは、間違ってる。罪のない人を殺してまわって、最低よ。クズだわ、なんであなた生きているの。死ねよ、死になさいよ」
 水川の長女が歯茎まで剥き出しにした形相で俺を否定する。
 いるんだよなぁ、こういうやつ。復讐には正義がないと主張するやつ。
 俺から言わせれば、あらゆる行いには正しさなんて存在しない。
「じゃあ尋ねるが、お前、その拘束を解いてこのナイフを渡したらどうする?」
 長女は睨み上げたままだが、すぐには返事をしない。返答に窮しているようだ。
「俺を殺すだろ?」
 (同書、p.134)


復讐者の気持ちとしてはなるほどと思えます。
「あらゆる行いには正しさなんて存在しない」というきわめて分かりやすいニヒリズムも、正当化できないと知りつつ復讐に身を投ずるしかない者の態度としては自然に思われます。

しかし、そんな復讐劇の果てにはどんでん返しが――
ニヒリズムの根はもっと深いということです。
やはり入間氏、何か仕掛けてくるとは思いましたが案の定……違和感はやはり伏線でした。

陰惨な事件が頻発していた『みーまー』も、8巻では恋人や家族を殺された人が登場します。けれども、恋人を殺された山名美里は復讐など「しません」と言い切るのでした。それは多分に彼女の無気力によるものでしたが――ここでも人を動かすものは、究極的には内から来ます。

その上で、彼女との思い出がもっぱら何が食べていることに関わっていることと、この食人という問題、そして内容のイメージからはかけ離れた表紙にも見える通り、本作の主題は「食」に関わります。
冒頭で動物を食べることを不気味に感じるとか、罪になるのかといった会話があったのが繋がってきます。
「みーまー」でも、自分が生きるために人を犠牲にすることがしばしば問われてきました。
しかし今回はもっと遠い話です。

人食いの気持ちが分かるか――


良い意味で胸糞悪いテーマを見事に扱い、きっちり驚かせてもくれた作品でした。

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怪物の遠さと近さ――続・『たったひとつの、ねがい。』

少し別の話を挟んでしまいましたが、『たったひとつの、ねがい。』の話をもう少し続けさせていただきます。 ただし、大まかな紹介は前々回の記事で書いたので、今回はいきなり謎解
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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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