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ハードボイルドと若僧と――『猫にはなれないご職業 2』

今月のガガガ文庫の新人作品3作揃って第2巻、その第3弾となります(確か、1巻の発売は一番最初でした)。

猫にはなれないご職業 2 (ガガガ文庫)猫にはなれないご職業 2 (ガガガ文庫)
(2012/11/20)
竹林 七草

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とは言え、この『猫にはなれないご職業』については1巻のときにあまり好意的とは言えない評価を書いていたこともあり、マイナス方向の評価であまりしつこいのもよそうかと思ったのですが、他の作品と並ぶことでいっそうその性格が際立った気もするので、やはり感想を書くことにしてしまいました。

本作の主人公は妖怪・猫又であり陰陽師タマです。
女子高生のヒロインの祖母が若い頃から飼われているという年配者でもあります。
煙草を吸いつつ、

 そうして霞んだ天上をしみじみと眺めていると――そんなヤニの臭いがするハードボイルドな情緒など一切許さんとばかりに、ブォーンと唸りを上げた空気清浄機が瞬く間に煙を回収し始めた。
 (竹林七草『猫にはなれないご職業 2』、小学館、2012、p.274)


といったモノローグのある描写を見ても、「ハードボイルドなおっさん」を念頭に置いているのは間違いないでしょう。
ハードボイルドなら煙草を吸わねばならないということもないでしょうが、妖異ならば条例も嫌煙ムードも関係ないのは確かでしょう。
ただし、孫娘のようなものである桜子にはかなり過保護だったりしますが、そこにもおっさんらしさが出ています。

そして、このタマの物語として見ると、藤里家の飼い猫として餌は貰っているものの、自分の正体を知り助手として使っていた先代・春子が死んだ今となっては仕事がなく、煙草代もない日々。そんな中、陰陽師の藤里家を頼って依頼人がやってくる、というパターンで、ちゃんと報酬の契約を結んで妖異と戦う……と王道展開。報酬に絡んだオチまで付いています。

ただし、藤里家の当主はあくまで女子高生の桜子であり、タマは表向きただの猫であって、依頼人を迎える立場にはありません。そして桜子は未だにタマの正体を知りません。
1巻の最後で桜子も藤里家の家業には気付いて、陰陽師を目指すと言い出しており、タマも桜子が自分の正体に気付いた時には彼女に手ほどきを与える気になっているのですが……

タマが直接以来を受ける立場になく、また猫であるがゆえに及ばぬこともあって人間と協力しつつ、陰陽道の知見を披露して、あまり超常になりすぎない範囲で妖怪と戦いを繰り広げる、この基本構成は良いですし、二転三転するストーリー運びも上手く、特に緊迫感の増した状況となってくる後半は面白いものです。
問題は、やはり若い連中のキャラでしょうか。

この2巻で新しく登場する主なキャラクターは2人、やたら大人びた小学生の依頼人・国東沫莉(くにさき まつり)と、同業者たる「憑き物落とし」の荒津緋乃香(あらつ ひのか)です。
中でも、緋乃香の方はそろそろ婚期を逃すことを焦っているアラサー女、しかも、スポーツカーに痛い内装を施し神波命のボーイズラブ同人誌に嵌まってしまうオタクと来ています。
ボケの桜子といい、腐女子の命といい、何かと「残念」なキャラ付けを取り揃えた女性キャラ達ですが、しかし1巻の時にも述べた通り、――まあ、これは私の個人的見解ではありますが――そうした諸属性があまりストーリー上の役割と有機的に噛み合っているわけでもなく、上乗せされたおまけのような印象は否めません。
これは、変態が自分の好きな下ネタを言える世界のため、変態を駆使して戦う『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』や、やはりフェチこそが戦いの理由となっている『俺、ツインテールになります。』と並ぶと、いっそう明瞭に感じられます。『下ネタ~』や『ツインテール』の場合、登場人物の変態は必然であり欠くべからざるものです。
もっとも、緋乃香はオタクとしての普段の姿から仕事モードへの「切り替え」ができるのがプロたるところだ、という記述はありますが、これも説明されるとそうか、と思う程度で、あまりピンと来ません。この作者は変人や豹変を描くのはあまり得意でないな、と感じられました。…にもかからわず妙なオプションを付けるから。

これは「狂気」についても言えることで、後半、娘を愛するがゆえに憎んで殺そうとする母親の歪んだ心理が描かれますが、矛盾してはいても、それを論理的な順番通りに語って「わかってるわ、自分でも自分の言ってることが矛盾していることくらいね」(同書、p.216)という辺りはいささか迫力を欠く感がありました。これが――ちょうど妖怪繋がりということもありますが――京極夏彦氏の作品ならまともに説明にならないことをまくし立てた挙句、地の文もしくは京極堂の口から解説を要するところです。

それから、1巻では桁違いの強さだった犬神をあっさり祓ってしまうという圧倒的な力を見せた桜子ですが、この2巻では、確かに霊力はかつてない規模ながら陰陽師の才能はないことが冒頭で仄めかされ、それに関する桜子自身の悩みと保護者としてのタマの苦悩も後半で少し描かれます。
これに対し、桜子の友達である命は「見鬼」の才能を持ち、今巻でもタマによって便利に使われています。
彼女が桜子の欠点を補って二人で組んで陰陽師をやるという可能性が見えた気もしましたが――それだと、ハードボイルドなおやっさんと「半人前が二人で一人」の後継ぎ……これは『仮面ライダーW』ですね。
ただし、『W』においては「おやっさん」こと鳴海荘吉が死んで、助手だった翔太郎が急遽後を継ぐことになったのに対し、この『猫にはなれないご職業』において「ハードボイルド」は死んだ先代ではなく、未だ健在の先代助手です。
その辺が本作の性格をよく物語っているのであって、つまり当分、若い連中はハードボイルドなおっさん主人公に勝てそうにないな、と。

まあそもそも、結局この巻では状況に変化はないままで、未だに桜子は陰陽師への一歩を歩み始めてもいないままですが。

いや、前巻に続き、若い連中の意気が年寄りの諦めた希望を摑む、という展開もありますし、前巻より控え目な「奇跡」である分説得力もありました。

 だけどその糸が今日まで途切れずに残っていたのは、命の一年が呼び寄せた奇跡なのだと、吾輩は思いたい。まさに馬鹿の一念が、貫くどころか岩をたたき割ったのだと。
 (……)
 ……嫌なものだ、年をとるというのは。常からクレバーな考えなどクソ食らえと思っていても、打算ばかりがうまくなる。
 (同書、pp.234-235)


その上でタマが「吾輩にもな、汚名を返上する機会を与えてくれよ」(同書、p.242)と言って厳しい場面で意地を見せる展開もあり、そこも悪くない出来です。

しかしその上で、いやそれだからこそ、やはり若い連中のコメディ部分でのキャラ付けは生命が通っていないと判断させていただきます。
おっさん猫の方は良いからこそ申し上げたい。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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