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住まいとしての大学とそこでの事件――『ビューリフォー! 准教授久藤凪の芸術と事件』

美術系大学の入試は高倍率で、何より、然るべきところで専門の訓練を受けないと難しいものであることもあって合格者は浪人生が大半、多浪も珍しくないところです。
まあ芸術学に関してはそうでもないのですが、とにかく学内では年齢不詳の人が珍しくないためもあってか、しばしば年齢は聞かれました。
他校と交流のある四芸祭などで初対面の相手と出会う場合、学年と年齢が対応しないので「何浪ですか」と聞く習慣があるという噂も(まあこれは実際に耳にした覚えはありませんが)。

京都に来てから、年齢を聞かれた覚えはついぞありませんね。
そもそも昔から博士課程まで存在しているところで院生との関わりが多いので、長期在籍している方もあり、しかもシニア学生も結構な数いらしているので、聞く意味がないのかも知れません。

ついでに言うと、学部は他大学出身という方は結構多いようです。これを普段あまり気にされていないのは、先日のように普段会わない相手と会って自己紹介を受けたりする中で相手の経歴を初めて知ることがあって、ようやく気付いたりします。
今は拡張された大学院の定員を充足させるため、院試が甘いところも多いという話で、以前どこかの雑誌では“東大の大学院でも他大学出身者を「お客さん」扱いの迎えている”といった記事を目にした覚えもありますが(「学歴ロンダリング」というネタをセンセーショナルに書き立てるための誇張があった可能性は当然ありますが)、「内部出身/外部出身」といった違いはここでは関係ないのではないでしょうか。来てしまったからには、相応の研究が要求されます。

 ~~~

今回取り上げる小説は、そんなことと関係の少しはあるような作品です。

ビューリフォー!―准教授久藤凪の芸術と事件 (メディアワークス文庫)ビューリフォー!―准教授久藤凪の芸術と事件 (メディアワークス文庫)
(2012/07/25)
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『ビブリア古書店の事件手帖』の大ヒット以来、「何らかの専門分野の衒学的内容+死者の出ないライトミステリ」(※)という二番煎じ作品が増えた、というか当のメディアワークス文庫が率先してそれを出している感がありますが、本作もその系列とも言えます。

とは言え、いかにも二番煎じが増えたなという印象が強まったのは本作よりももう少し後、『珈琲店タレーランの事件簿』(宝島社)等が出た後かも知れません。
内容的にも、この『ビューリフォー! 准教授久藤凪の芸術と事件』の「探偵」役・久藤凪(くどう なぎ)は大学の准教授であり、「依頼人」がやって来るような職場ではありませんから、そこまで近くはありません。
そこで事件を持ち込むのが、久藤准教授の下で手伝いをさせられている主人公の女子学生・田之中花(たのなか はな)です。
あまり頭の良くない彼女は勘違いで重大事かと騒いでしまうこともありますし、対して久藤先生はイケメンで外面は良いけれども、本性は高慢で口の悪い人で花をこき使っているのですが、結局は彼の頭脳と計らいが事件を収めます。
と同時に、久藤は西洋美術史の先生であり、それぞれの事件に絵画の内容とそれに関する知識が関わってくるのが味を添えています。ピカソの『泣く女』が実際に恋愛関係で泣いている花の友人・結衣に重ねられ、ラファエロの『聖家族』が家族の問題に重ねられる、といった具合に。
とはいえ、絵画知識はごくライトなもの。絵画鑑賞入門本や、あるいは中野京子氏の『怖い絵』の方が詳しくドラマチックに書いているくらいです。

事件は人情ドラマ的なものが中心で。
また、花は家族との関係で問題を抱えて、仕送りもなしにアルバイトで学費から生活費まで稼いで生活しており、その彼女に自らのことをも考えさせる「家族」に関わる件がこの1冊のトリとなっています。
久藤先生もまた家族に縁がない人間である一方、舞台となる藤ヶ丘学院大学にはこの大学を気に入って10年学生をやっている変人や、親の代から縁のある学生もいたりで、皆に長く深く愛されている大学で、独自の暖かい空間が形成されているのだという雰囲気はよく分かります。
そんな、家族に縁遠い者にも受け入れ場となり得る繋がりの空間としての大学(性格の悪い先生もまたその愛すべき一員であるような)というのが本作の底にあるイメージであり、事件もまたそれを巡って起こっていると言えるでしょう。


※ 今年の『このライトノベルがすごい!』には以下のような紹介コラムがありましたが、この「日常の謎」だと少し広すぎるので、そこに「何らかの専門知識の話を加える」というのが一つのポイントになるのではないか、と。

 今年の春にアニメ化され、注目を集めた米澤穂信の小説『氷菓』。ヒロイン・千反田えるの「わたし、気になります」をきっかけに、古典部のメンバーが謎を解明する物語だ。こういう「殺人がからまないトリックや謎を解決する」物語ジャンルに名前があること、ご存知だろうか?
 それこそが『日常の謎』!
 特徴は、探偵じゃない一般人が、生活の中で目にした小さな疑問を「あれってああいうことか!」と納得する内容てこと。そして、主人公の多くが高校生や大学生で、謎解きが彼らの成長劇に繋がること。しかも、人が死なないし文章も読みやすくて気楽! 感情移入できる主人公がいて、ライトな読み口。まさにライトノベル要素満載名ジャンルなのだ。
 (『このライトノベルがすごい! 2013』、宝島社、p.113)


もっとも死人の出るライトノベルも少なからずある以上、これを「ライトノベル要素」と言えるのかどうかは必ずしも容易でない問題ですが…

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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