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あくまで「風味」なのは構わないが――『ぜんぶ彼女に「視」られてる? 2』

今回のライトノベルは、先月末に発売された『ぜんぶ彼女に「視」られてる?』の2巻です。

ぜんぶ彼女に「視」られてる?2 (ファミ通文庫)ぜんぶ彼女に「視」られてる?2 (ファミ通文庫)
(2012/11/30)
淺沼広太

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1巻レビュー

(私としては疑問に付した)主人公の「自分探し」という要素は1巻で一段落したこともあって、今回は「超常能力研究部」の面々で学園の事件に挑むというストーリーがメイン+ラブコメ面でもやや動きあり。
方向性としては良いでしょう。持ち味であるヒロイン・八神花梨の可愛さは相変わらず。しかも、独特の言動をするキャラクターであって「〔智一の〕彼女です」と名乗ったりするので、つい「いつものズレた発言か」と思ってしまう――と、主人公がヒロインの気持ちに対し「鈍感」であるという定番のパターンも同時の理由付けを持って上手く描かれています。まあ、彼女がそれなりに嫉妬心を見せているのは、読者からすれば明らかなのですが。
(しかも、智一はサブヒロインの睦月との関係に少なからず罪悪感を抱いており、この2巻終盤では花梨との関係にも動きがあって、遠からず二人と向き合って選ばねばならなくなることがはっきり示唆されました。「鈍感」なままで引っ張るつもりではなさそうなのも好印象です)

さらに、今回の事件は、女生徒を攫って人形と入れ替えてしまうという噂の怪異「白い女」と学校の掲示板に張り出されていた心霊写真を巡るものですが、花梨は幽霊が苦手なのか「幽霊は見てはいけません」と主張。
しかもその理由は、通常見えないものが「視える」彼女の体質に基づくトラウマに関係しており、それでも後半で智一のため苦手を克服しようと頑張る彼女と、彼女の悩みを十分に思いやれなかったことを悔やむ智一の姿はそれなりの出来です。

問題は「事件」の部分です。
あとがきでは「学園ミステリー風味に加えて、ホラーテイストにも挑戦しました」(p.303)(※)とありますが、 当人も「慣れないこと」と認めるこれ、重要な情報や人物が後半に登場してミステリとしてフェアではないとかいう以前に、あまり事件として興味を惹きません。

※ 本文中に「世の中にある○○風味という食べ物や飲み物は、現実には○○……元をほとんどないがしろにしている」(p.15)という記述があるのと照らし合わせれば真意がよく分かります。

ミステリを書く際の基本則と言われるいわゆる「ヴァン・ダインの二十則」には「長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない」というのもありますが、無論これは絶対ではありません(そもそも「ヴァン・ダインの二十則」にはあまり重要でないものも多いですし、ヴァン・ダイン自身の作品を見れば、こんなルールは守っても良作が生まれるわけでないことも分かります)。
昨日の記事で触れた「日常の謎」(殺人のないミステリ風作品)はそもそも、謎解き自体が軽い味付け程度のものが大多数ですが、死体がなくても謎解きそのものが十分興味を惹くケースもあるにはあります。

ただ、この『ぜんぶ彼女に「視」られてる?』2巻の場合、捜査が行き詰まりかけた時、作中人物が諦めようかと考え始めます。
作中人物にとってもその程度の、大して重要でない事柄が、まして読者の興味を惹くとは思われません。
ただそこで、普段はお嬢様の七尾奈緒に引き回されて事件に関わっていた智一が少々のこだわりを見せます。

 俺だって本当は、こんな事にこだわりたくない。けど、何かが心の奥で今回の事件を手放すなと囁いていた。その何かとはきっと、十三枚目の写真だ。
 あの写真に写った白い顔の女が……怖い。その恐怖を俺はそのままにはできなかった。克服しなければならない……そんな気がした。
 (淺沼広太『ぜんぶ彼女に「視」られてる? 2』、エンターブレイン、2012、p.221)


しかし、この「怖さ」は読者には全くと言っていいほど伝わりません。
この怖さには一応理由があったわけですが、それがまさに1巻で疑問視した「臨床」的要素に関わっているのが全てを物語っています。
ここでも「怖さ」は決して身の危険を感じるような類の怖さではなかったのですが、それでも手腕のある作者なら、読者の感情を強制的に引きずり込むような手管を使うでしょう。本作にはそれが欠けています。

ミステリでもホラーでもないのは構わないとして、それが添え物としても不要に感じられるのはいかがなものか、と思うわけです。
ラブコメとしてはそこまで欠けているという印象ではないので、そちらを活かした方が良いと評させていただきます。
あとがきの最後に「次回はもう少し、ラブコメ要素をアップさせたい」(p.305)とあったのに期待するかどうか、でしょうか。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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