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……――『セックス・バトルロイヤル!』

ここ最近はライトノベル紹介もマイナス評価にかなりの文面を割くようなものが目立ってしまっており、記事数稼ぎではないかと言われればそういう面もなきにしもあらず。

ただ、私は本来、ただ「悪い作品を切り捨てる」だけというやり方をしたいとは思っていません。
「悪いものを切り捨てる」ことで「良くなる」ためにはまず「良いものを生み出す」生産力が前提されていなければならないのですが、そうした生産力を無条件に信じて良い根拠は乏しいからです。
だから少しでも「持ち味」「見所」を見出しそれを活かしてほしいと願う――少なくとも基本はそう考えています(私が何か言ったところで作者側の生産活動にさほど影響があるとも思いませんが)。

……が、本当に何が見所なのか分からないという事例もあるもので、まあそれをわざわざ取り上げるのは手間暇の無駄と言えばその通りですが……

セックス・バトルロイヤル! (ガガガ文庫)セックス・バトルロイヤル! (ガガガ文庫)
(2012/11/20)
白都 くろの

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「皆さんがこの3日間でしなくてはならないことは、ただひとつ。彼の童貞を奪うこと。奪った者だけに願いごとを叶えてもらえる権利を与える!」楽しみにしていた移動教室が一変! 目覚めるとそこは…無人島!? うだつの上がらない高校生活を送る目崎濠(童貞)に突如として襲いかかってくるクラスメイトの女子たちのエッチな攻撃の数々。一方、濠の童貞を守ろうと女子たちと戦う幼なじみの戸石蘭。今ここに『セックス・バトルロイヤル』が開始された!! これってハーレム? はたまた地獄? 筆下ろしサバイバルエロコメディ開幕。
 (カバー裏あらすじ)


セックスと冠しても看板だけかと思いきや、本当に文字通りでした。……少なくとも体裁上は。

移動教室のバスの中で眠らされ連行される、という元ネタ『バトルロワイヤル』に忠実な展開で、幼馴染を含むクラスメートの15人が主人公の童貞を狙う……はずですが、主人公は「キモザキ」と言われ女子には嫌われており(しかしこの原因も、他人が彼を主人公にして書いていたポルノ小説が人目に触れたことであって本人のせいではないという薄味なもの)、女子たちも揃って処女で(不明なのもいますが、判明した限り)いざ男性器を前にすると怖気つくような面々ばかり。果ては最初から「主人公の童貞を奪って願いを叶えてもらう」ことに興味のない子までいて、「バトルロイヤル」の名にふさわしいような激しい争いや狙われる怖さはまったくと言っていいほど感じません。

たとえ現実的な範囲内(たとえば大金)という範囲内でも願いを叶えてくれるというのなら、セックス等簡単にする女性は世にたくさんいますし、そんな欲望前回の女性陣に狙われれば恐ろしいでしょう――とこんなことを言うのは、決してリアリズムを求めているのではなく、実際そうした要素を書こうとしているように見える箇所もあったからです。

「何だ? かかってこいよ。豚マン」
「あぁ? うるせーぞ、人妻もどきっ」
 壮絶を極める二人の争いを目前にし、俺はというと、若干引いていた。身体こそ大きいものの、クラスの中でも一番の引っ込み思案の十両さん、そして誰よりも面倒見のいい穏やかなおねぇさん。この二人が女のプライド剥き出しで争っている姿は……正直萎える!
 (白都くろの『セックス・バトルロイヤル!』、小学館、2012、p.106)


にもかかわらず、この戦いも数ページ後には両者が「もういい」とあっさり引き下がる形で終わってしまいます(ちなみにこの箇所は、「十両さん」こと内田聡美は「100kg超えの巨体」と書かれていながら、イラストでは普通の体型の美少女というのもよく分かりません)。
一事が万事、ほとんどのキャラがそんな感じであっさりとリタイヤしていきます。

15人という数は『魔法少女育成計画』の魔法少女の数(16人)に近いものですが、あっという間にリタイヤするキャラについてもひとまずキャラ像が分かるような圧縮した記述を見せていた『育成計画』と比べるとあまりにも明白なことに、この『セックス・バトルロイヤル!』は15人の少女たちのキャラも大して立てていません。それは序盤で「ギャル三人組」があまり差別化もされないまま揃ってリタイヤした(しかも三人の中で「誰が一番アホ」なのか本文と冒頭のキャラクター紹介で違っています)時点で大体分かることですが…

分かりました。どうやら本作は「バトルロイヤル」のえげつない争いを描くつもりはないようです。
「メインヒロインは処女」がオタク文化の常識だとしても、15人もの女性キャラが揃ってそうである必要がないのは明らかでしょう。また同じものを引き合いに出しますが、『育成計画』の魔法少女には子持ちの中年女や男までいました。にもかかわらず、揃いも揃って手段としてのセックスを結局躊躇うか拒むかするような連中であるということは、彼女たちはハーレムラブコメ要員なのでしょうか。
現に、終盤には彼女たちが忌み嫌っていた主人公を見直している場面も見られます。しかし、主人公がそれに値する何をしたというのでしょうか。「危ないところを助けた」といったベタなものでも恋愛フラグが立つ「理由」に数えて良いとして、「童貞を守る姿」というのは理由になるのでしょうか。いや、なるとしても、大して真剣に戦っているように見えませんでしたし……
質の良し悪しはともかく幼馴染の蘭との関係は定番のラブコメ展開です。しかし他は疑問符です。

ふたたび方向性を変えて、何しろセックスを表題に掲げているくらいですから、「エロ」はどうでしょうか。
確かにそういうシーンはありますが、これも薄いのです。せいぜい下着姿を曝すくらいで、これも「バトル」の方とセットであっさり終わります。
中盤でなぜか、バトルロイヤルとも別に野球拳をやるシーンがありますが、これも限りなく脈絡を欠いたままいきなり強引に始まり、そして「脱ぐこと」に対する濃厚な葛藤などを見せる様子もなく、参加した女の子達が適宜肌や下着を曝したところで何事もなかったかのようにあっさり終わります。
開き直って強引に展開させるというのも一つの手ですが、その場合も「脈絡なく強引に事態を動かすキャラ」のような装置が存在感を持って描かれていてこそです。この野球拳では「え、そんなこと言い出すキャラだったの?」という印象しかありません。

これに比べれば、ストーリーなど無きに等しいままひたすら女子小学生が脱いだりするエロイベントを展開する『JSが俺を取り合って大変なことになっています』(既刊1~3巻)など、エロありきでそこに繋げるため周到に作られているように見えます。
何より『JSが~』の場合、幼女に妙なことを仕込んで主人公をロリコンの道に誘い、手人形を使って一人芝居で会話する変態メイド・深籠が圧倒的な存在感を発揮し、また場合によってはイベントが彼女によって仕組まれたことであることが示唆されて、強引な乱痴気騒ぎへと道を付けていますから。
そう、この面から言うと、『セックス・バトルロイヤル!』は「バトルロイヤル」のマスター役である女教師・霧雨も今ひとつ印象が弱く思われます。

みたび考え方を変えて、あとがきを見てみましょう。
あとがきは「かつて童貞だった、また、いま童貞の君へ」(同書、p.256)から始まり、大半を「童貞」について書くことに費やしています。

 褒め言葉ではなく、貶し言葉として使われがちですが、果たして『童貞』とはそんなに悪いことなのでしょうか。
 一度失ってしまった後は、もう二度と戻れない童貞。が、これが『状態』ではなく『人格』であるということならば話は別。
 (同書、pp.256-257)


なるほど、本作のテーマは「童貞」のようです。

主人公が最初に襲われた時の描写はまさしくそれを物語ります。

(いや、でも、恥ずかしいんだけど……ちょっとだけ、俺、期待してるような……)
 正直、ギャルっぽい女のコはあまり好みではないといっても、三人から漂う、むんとしたフェロモンに、背筋がゾクゾクしていることは確かだし、遊びなれているふうの三人に、一方的に童貞を奪われる、というのも考え方次第では悪くはない。
(そうだよ、もしも大好きな女のコ徒、そういうことになりそうになった時に……失敗して無様なところを見せるよりも……)
 そう、よくよく考えれば、別にそう困った状況ではない。
 (同書、pp.55-56)


と思ってしまった主人公ですが、事情を知り、結局童貞を守ることに決めます。そんな理由で手段として童貞を奪われるのはあんまりだし、相手の女の子にとってもよくないだろう、と。
それでもある時にはエロに流されそうになり、またある時には女の争いを前に萎え、と脱童貞を巡るアンビヴァレントな思いを描きたかったことが推察されます。
しかしそれを描くにも、上記のように「バトル」も「エロ」も中途半端な上、主人公が自分からはほとんど何もしないのでは、何かを描けたとは言えません。

単に書きたいことを好き勝手に書くのは同人誌でやることで、商業誌では人に読ませるべく体裁を整えねばならない、という一般論があります。
しかし私はもうそれは言いません。むしろまとめる以前に、ストーリーや設定などそっちのけになろうと「これが書きたい」というものを見せていただきたかった、と思います。そこで鮮烈なイメージの一つでもあれば評価が変わった可能性もあるのですが…


JSが俺を取り合って大変なことになっています (一迅社文庫)JSが俺を取り合って大変なことになっています (一迅社文庫)
(2012/03/17)
糸緒 思惟

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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