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暴力と狂気のシステム的連鎖――『魔法少女育成計画 restart(後)』

今回取り上げるライトノベルは2ヶ月連続で前後編発売となった『魔法少女育成計画restart』の後編(無印『魔法少女育成計画』から数えてシリーズ3冊目)です。

魔法少女育成計画 restart(後) (このライトノベルがすごい!文庫)魔法少女育成計画 restart(後) (このライトノベルがすごい!文庫)
(2012/12/10)
遠藤 浅蜊

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(既刊レビュー:無印restart(前)

とは言え、ある意味ではそんなに語ることはない、とも言えます。
この息もつかせぬ展開の連続は、未読の方は余計な前情報なしで読むのが一番ではないかと思いますし。
しかしミステリのネタバレを避けるというのとは少々意味が違います。確かに今回は誰が犯人か分からないまま魔法少女達が殺害されていくというミステリ色の強い展開でしたが、この後編で明らかになった「犯人」は、犯行を可能にする能力や行動という点から予想できる範囲内でした。もちろん、だからと言って大々的にネタバレするのが良いとは思いませんが、既読の方を対象にあえてネタバレを含めてトリックや構成の話をする、といった類でもないように思います。

等と言いつつ結局語りますが、この『restart』におけるゲーム「魔法少女育成計画」、まずは協力プレイを求める仕様と見せておいて、徐々に不穏なものを見せていきました。まずクリア報酬は100億円、エリア開放というイベント達成でも100万円がリアルマネーで支払われるわけですから、報酬を巡っての争いはあり得ましたし、何人かの魔法少女は金に困っている描写や発言もありました。
この辺の世知辛い話もデビュー作『美少女を嫌いなこれだけの理由』から変わらないもので、魔法少女をやっているだけでは食ってはいけない、という現実があります。
中でも、かつてその活躍がアニメ化もされた有名な魔法少女・マジカルデイジー作中世界での「魔法少女アニメ」は実在する魔法少女をモデルに若干の脚色を加えて作られている、という設定です)も今ではボロアパート暮らしで金も友達もない大学生活という切なさです。

しかし、だからと言って多くの魔法少女は露骨に金に執着している、という様子ではありませんでした。
むしろ、苦労はあっても皆と協力し、生活苦の話も笑ってするような魔法少女が目立ちました。
さらに、欲はあっても、最終的にクリアに当たって誰の力が必要になるか分からない、ということまで計算していれば、無闇に潰し合う理由はないはずでした。
けれどもそんな中で、明らかに精神が壊れて計算抜きで暴走する魔法少女の存在は、他にも不穏な者がいることを思われるに十分でしたが……

さらに強制的に誰かを脱落させるイベントもありましたが、これも誰も犠牲を出さずに切り抜ける方法が実は用意されていました。しかし同時に、この機を利用して誰かを脱落させようとする者もいたようで……

それでもここまでは、争いが生じるのは争いたがる奴がいるからであり、争わずに切り抜けられるようになっているように見えました。
しかしこの後編では、いっそう残酷な、殺し合いを避けがたいものにする事態が明らかになります。徐々に追い詰められていくこの展開、相変わらず。
しかも、無印では序盤で人間としての素性が語られたキャラが結局最後まで生き残りましたが、『restart』ではそれを早い内に覆し、誰が生き残るかいっそう先の読めない展開を見せてくれます。

加えて、無印の生き残り・スノーホワイトがゲームマスターを倒すべく動いていますが、この「マスターサイド」も章間に数ページずつ挟まれる極限までコンパクトなものでありながら、非常に明晰できっちり決めています。やはり物語の圧縮具合に関しては見事な技の持ち主ですね。

そんなわけで以下ネタバレです。




無印からずっと、各巻の冒頭には「魔法少女育成計画とは?」という、作中のプレイヤーに向けたゲームの解説文がありました。もちろん無印と「restart」では別のゲームです。
後編でも引き続き同じ話で同じゲームを続けているのだから説明も同じだろう……と思いきや。

前編で説明されていたのは、16人の魔法少女たちが「魔王を倒せばゲームクリア」でした。

ところが後編での説明文は「あなたにはこのゲームで、魔王という役割を担ってもらいます」(p.4)と告げます。
魔王のクリア条件は他のプレイヤーの全滅

こうして読者には一足先に教えられ、作中人物も中盤で知ることになる真相――それは、この魔法少女立ちの誰かが「魔王」であり、殺し合いは避けられないということです。
では前編での殺しの犯人は魔王なのか? と二重の「犯人探し」が絡み合ってくるのが巧みなところでしょう。


テーマ的に見ると、「魔法少女はなぜ戦うのか?」という問題を扱う本作、この『restart』では作中人物の一人・プフレの口からよりはっきりと「戦う魔法少女と戦わない魔法少女」の区別が明言されます。
もちろん、すべての魔法少女は高い身体能力を持ちますが、一人一つの魔法が戦闘用か非戦闘用かははっきりと分かれているのです。

しかし、そもそも前編で仄めかされていたこととして、今回のゲーム参加者達は無印のゲームマスター・森の音楽家クラムベリーの主催する魔法少女選抜試験(=殺し合い)によって選ばれた魔法少女達であり、それは後編ではっきりします。
そんな魔法少女達が、弱いはずがあるでしょうか。
まあ無印のスノーホワイトのように、戦わずに守られて生き残ったケースもあり得ましたし、実際やはりありましたが……
まずメンタル面で弱くてモンスターを見ればすくみ上がるほどで、役に立たなかった者もいますが、そこまで弱いのはかえって怪しい。

実のところ、物語の展開においては、むしろ強い戦闘能力を持つ魔法少女はかなりの率で早くに脱落していきます。それは、ゲームのモンスターとの戦い、特に強力なボスモンスター戦において「死んだあいつの能力なら楽勝だったのでは」と思われる場面があることで際立ちます。
ある時にはその能力を工夫して用い、ある時には頭脳を使い、終盤に活躍を見せるのはむしろ「戦わない魔法少女」達でした。
(ペチカの「料理を作る」魔法が人間を料理にする凶悪なものかという期待もありましたが、やはり「5分かかる」という条件がネックだったようで、それはありませんでした。しかしそんなペチカも意地を見せます)

そんな本作を要約するような一文がエピローグにありました。

 魔法少女には「戦う魔法少女」と「戦わない魔法少女」がいる。だからといって「戦わない魔法少女」が弱いわけではない。
 (遠藤浅蜊『魔法少女育成計画 restart(後)』、宝島社、2012、p.264)


これは、戦闘能力などなくても魔法少女は強いのは、という魔法少女讃歌でもあり、また他方で魔法少女は「戦わない」でも恐るべき存在になり得るということ、すなわち「戦わない魔法少女」から「戦い」への近さを思わせる文章でもあります。


さらに本シリーズにおいて、そもそもファブとクラムベリーの暴走による殺し合いの選抜試験を可能にしたのは、事務処理を電子妖精に丸投げして、その電子妖精の暴走をチェックする機能も持たなかった魔法の国の体質でした。
面倒な書類作成を嫌う、というと単なる怠惰のように聞こえますが、現実を鑑みるにこうした仕事の委託はしばしば「合理化」といった美名の下に行われてはいないでしょうか(結局は「お役所(体質)」こそが敵であるというのも、『美少女を嫌いな~』から一貫しています)。

そして『restart』のマスターは、クラムベリーの試験によって選ばれた魔法少女――「(クラムベリーの)子供達」を危険視し、このゲームに導きました。このような状況下でも殺し合い等しない「正義の魔法少女」であることを「子供達」が自ら証明することを要求して――
ところが、今回の参加者達の中に一人、「子供達」の一人であった「先代」から名前を「襲名」しただけで本人は「子供達」ではない者がいました。彼女の参加は完全な手違いです。

「ラズリーヌという無辜の魔法少女を巻きこんで、それでも決まり事だからゲームがやめられないという。まるでお役所仕事じゃあないか。私達は本来中止にしてしかるべきゲームに参加させられているのだよ」
 (同書、p.222)


しかしそれを知ったマスターは何と言ったか――

(……)無関係つってもねー。まあこっちのミスでうっかり参加させちゃったのは否定しないけど? でも『子供達』に教えを受けた魔法少女だし? まあ参加者ってことでいーんじゃない? なんか途中でバカスカ戦って死んじゃったから問題ないってことで」
 (同書、p.253)


他方で、クラムベリーについては何と書かれていたでしょうか。

(……)クラムベリーは試験の中で参加者に殺し合いをさせ、さらに自分が参加することで激化させ、残った勝者は記憶を書き換えられて「通常の魔法少女選抜試験を突破した」という偽りの記憶を持って魔法少女となった。その殺し合いは酸鼻を極め、勝者無しで終わることも珍しくはなかったという。魔法の国の人々はそれが「クラムベリーの峻厳さからくる試験レベルの高さ」だとして、その精神性を讃えこそすれ、疑いはしなかった。
 (同書、p.161)


マスターもまた、自分のやり方を「子供達」だけでなくその弟子も許さないという厳しさだと信じています。しかしその実態は「まるでお役所仕事」です。
融通の利かないお役所仕事は存外、外見上は厳格さによく似ていて、しかもそれこそが暴力と狂気の元凶であるということ――

これは最終的にはマスター自身のルーツに関わっていて、彼女もまた殺し合いを求めていて、それを「殺し合いをする魔法少女を認めない」という美名の下に糊塗していたのでした。
その狂気は、「誰も犠牲を出さずに」攻略できる道を用意してあると言いつつ、最終的には「魔王」役を殺すことを要求する矛盾したゲームの仕様にはっきり現れています。
「魔王」役はクラムベリーの「子供達」ではなくクラムベリー派の協力者、つまり純然たる加害者だったから、ということかも知れませんし、「魔王」役の魔法少女は自らが「正義の魔法少女」たることを証明するなら自ら死ね、という解釈もあり得ますが、そこに残虐な狂気のあることは疑いようもありません。

戦うための能力を持とうが持つまいが、魔法少女は皆「強く」、必要とあれば戦わなければならない時もある。
歯止めの効かない暴力を生み出すのはむしろシステム構造であり、それを等閑に付して残酷な形で「愛と正義」を要求する者もまた、同じ邪悪なシステムの内にいます。
――そんな有り様を見せてくれた物語でした。


「子供達」やクラムベリーのシンパという火種はまだまだ存在しているという設定のようなので、さらなるシリーズ化も可能かも知れません。
魔法少女達を突き落とし衝撃を与える展開のためにはまた新しい趣向が必要でしょうし、大変な面もあるとは思いますが……

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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