オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
勝つも終末負けるも終末、なのか――『ささみさん@がんばらない 10』
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(前巻の記事)
世界中の全ての「神々」を食い尽くし統一するため「アラハバキ」首領の残した兵器・日留女(ひるめ)との決戦ムードが漂っている本作ですが、今巻は日留女への「対抗兵器」として生み出された鎖々美の妹・るるな(今回の表紙)がメインです。それと、邪神三姉妹の三女にして「次世代神」たま(外見は大人の美女、実年齢は小学生)とそのクラスメートの櫛名田希美(くしなだ のぞみ)(クシナダヒメの生まれ変わり)ですね。
そう言えば、1巻時点では高校1年生だった鎖々美が3年生になっているのに応じて、たま達も3年生から5年生に進級しています。この年齢の子供にしては変わり映えしない気もしますけれど。
「対抗兵器」として作られ当初は魂を持たない子供だったるるな、今でも無口で無表情なのは変わりませんが、甘やかされたせいかすっかり乱暴で嫌な子供に育っています。
そんな彼女が学校に行くと言い始めますが、さてそこで起こることとは……
そして今回の題材は北欧神話。キリスト教によって制圧され滅びた神話であるだけに、情報が欠けている部分も多いのですが、そこから「敗北を運命付けられた神話」というイメージを膨らませています。
トロル、と呼ばれる存在については北欧神話特有の資料の欠損などもあり、不明瞭な部分が多いのだが――。
どうも日本神話における『妖怪』などと同じような、零落した『神々』であるとするのが最もしっくりくる。
かつ崇拝を集めた『神々』が、基督教の到来によって神性を失い、堕落した成れの果て。
(日日日『ささみさん@がんばらない 10』、小学館、2012、pp.90-91)
まあ、そもそも妖怪を「零落した神々」とするのは柳田國男の説であり、それにも異論はあり得ますが、無論話としてはありです。しかも、どこまでが神話の基本設定で、どの辺が情報不足のところなのかもちゃんと書いていますし。
京極夏彦氏が『塗仏の宴』で「絶滅した妖怪」(名前と姿しか残っていない妖怪)を扱い、塗仏を中国・三星堆遺跡の縦目仮面にまで結び付けるなど、かなり自在な考察をしていたのを思い出します。
とまあ、ゲーム等の形で諸々の神話を解説しつつ、設定そのものに融通が利く設定でギャグもシリアスも可、そしてキャラクターも立っておりとライトノベルとしてはきわめて洗練された本作ですが、その各要素はありがちなものに見えるのも事実。
そんな中に独特の味と筋を与えているのは、いささか変則的な語り(この10巻もやはり、ほとんど前編その場にない鎖々美視点です)と、日日日氏の作品に特徴的な「家族」への渇望を含む、他者関係にまつわる感情という主題ですね。
「がんばらない=身の丈を超えた無理をしようとしない」というテーマは、当然「他者を頼ること」にも結び付くものです。
そして今回は、他の全ての「神々」を吸収して唯一人で戦うことを運命付けられたるるなの物語。
自分が悲劇的な出生を背負い、日留女との「食うか食われるか」の戦いはどちらが勝っても究極的には同じ、全てを食い尽くした孤独な勝者が残るのみという現実を知らされた彼女は何を思うか(この問題は、日留女との決着を待たねば回答の得られないものであり、この巻では未解決と見るべきでしょう)。
それに加えて、「次世代神」でありながら未熟さゆえか失敗続きで、この非常時に当たってはついに高天原からいわば「失格」の烙印を押されてその立場を「対抗兵器」るるなに奪われた形になるたまの感情も炸裂します。
それぞれの姉である鎖々美とつるぎは、甘やかして手を出すわけにはいかない、自分でやらなければいけないこともある、と見守るのみ。
「わたしじゃ、るるなちゃんを甘やかすことしかできないから。たまが、いろいろ教えてあげてくれて、助かっちゃった」
家族にしか、できないこともある。
でも、家族じゃできないこともあるはずだった。
(同書、p.320)
と、それなりに重いストーリーが続いていますが、他方で随所に挟まる小ネタも相変わらず。
「荒波のごとき困難と、それに見あった浪漫と宝こそが、海賊(ヴァイキング)の神話とも謳われる北欧神話の神髄です! 命懸けだぜ、欲しけりゃその手で摑め~、ですよ! ありったけの夢をかき集め、宝物を探しにいくんですよ!」
(同書、p.67)
「その滅びの運命を回避するためには、あなたがたは知恵と勇気をもって困難に立ち向かわねばなりません。古代の海賊(ヴァイキング)たちのように、荒波に立ち向かい新天地を目指すのです。北欧神話において――あらゆる存在者は、戦わなければ生き残れません!」
(同書、p.91)
むしろこの手のネタは最近ますます増えているような……
なお、日留女に吸収されていない世界各地の神話の「対抗兵器」はるるなを除くと、前巻でメインとなった印度神話のシヴァ、今巻の北欧神話のフェンリルの他、ユダヤ神話とゾロアスター神話があったとのことですが、今回で実は全員、一応は片付いていたことが判明します。
残る敵は下っ端を除けば日留女のみでいつでも最終決戦に入れそうな構え、そしてあとがきには、
次回はついにVS日留女ちゃん、つまり扱う神話は基督教(救世主神話)です。資料の海で溺れそうですが、最大限の『非』日常で読者の皆さまをお待ちしております~。
(同書、p.325)
と。
次で最終巻とは書いてありませんが、確かにトリに相応しい題材のような気もしますし、そろそろ(アニメに合わせて?)完結でしょうか。
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