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魔法世界に何があって何がないのか――『銀閃の戦乙女と封門の姫』

空気の水蒸気含有量が同じならば気温が上がるほど相対湿度は下がるわけで、暖房をかけると当然、空気は乾燥します(ガンガン暖房をかけているのに窓に結露もしないというのは疑問に思ってしかるべきです)。
昨日は風邪気味で鼻水が酷かったこともあり、小型の加湿器を買ってみましたが……いまいち。
半日駆動して、ようやく入れた水が少しは減り始めたのが分かるくらいで、性能はあまり高くないとしか思えず…。やはり霧を噴射するようなやつを買うべきだったのでしょうか。

 ~~~

さて、技術面で前近代的な世界観を舞台に物語を書く場合、今では常識のように思っていることが通用しないことに留意する必要があります。
たとえば、主人公のいる場所と敵の本拠が離れていれば、主人公が敵Aと交戦して倒したこともすぐには敵地に伝わりません。敵のボスが報告を聞いて「ほう、Aが敗れたか…」等と言うまでには結構なタイムラグがあるのです。
しかし、そこでだいぶ経ってからそういう場面を描くのも何やら間が抜けていますし、読者も混乱を来たしやすくなるでしょう。
だから、その辺は騙し騙しやることになるのが普通です。

これが魔法の類の存在するファンタジーなら話は簡単、遠隔通信の魔法なり何なりが存在することにしておけば良い…とおもいますが、あまり現代感覚で便利なものを出しすぎると「なぜこれができるのにあれはないのか」という疑問を向けられる恐れもあります。

――といったことを前置きとして、今回のライトノベルです。

銀閃の戦乙女と封門の姫 (一迅社文庫)銀閃の戦乙女と封門の姫 (一迅社文庫)
(2012/12/20)
瀬尾 つかさ

商品詳細を見る

なんだか似たようなタイトルをいくつか見たな……と思っていると、帯の裏表紙側に「一迅社文庫が贈る本格ファンタジー」として『千の魔剣と盾の乙女』(川口士)および『剣刻の銀乙女』(手島史詞)の宣伝が……わざと混乱を招いているのかと思うくらいの統一感です(同レーベルにはついでに『閃弾の天魔穹』というのもありました)。

それはそうと、本作は日本の高校生である主人公・花梨櫂砥はながき かいと 通称カイト)が魔法やモンスターの存在する異世界に招かれて戦うファタジー物ですが(※)、ただ、この世界「クァント=タン」と地球とはすでに一定の交流があり主人公もつい1年余り前までクァント=タンにいて、事情により今は日本に住んでいるのが今回また呼び戻される、というのが大きな特徴です。

※ しかし「RPGファンタジーの瀬尾つかさ最新作ついに登場!」という帯の煽りは……このような限定を冠されることは良いことなのか、どうか。

したがって、クァント=タンは「剣と魔法」風世界といえど、現代的技術がないわけではありません。
そしてこの世界のモンスターは最下級でも「重機関銃の直撃を受けて、ひるむ程度」(p.43)、魔法を付与した武器でなければ倒すことは困難な相手です。他にも、石油やガスといった地下資源は存在しないとか、送電線を引いてもモンスターに破壊されるとか、そもそも通商が制限されているとかいった理由で、地球と同様の技術はあまり使えない事情があります。
他方で、地球は魔法の源である「マナ」がないので魔法は使えないという設定。つまり、魔法文明が地球に流入することもほぼないわけです。
かくして、二つの世界が交流を持ちながら根本的に異質な文明であらざるを得ない事情が、それなりに設定されていますし、またクァント=タンの世界観は必ずしも「中世風」に制約されません。

とは言え、広く普及こそしていなくても、地球産の技術がクァント=タンに持ち込まれたものがないわけではありません。
その結果、赤いライダースーツにヘルメット姿のお姫様がバイクで走り去り、お供達は騎馬なので追いつけないという異様な光景が出現します。

「なんか、こう、シュールです」
 梨花が呟いた。
 (瀬尾つかさ『銀閃の戦乙女と封門の姫』、一迅社、2012、p.127)


主人公の妹(日本育ち)もこう言わざるを得ない有様。
「剣と魔法」ファンタジーをベースにしつつ、物語の都合で技術面に現代的な要素を取り込んでいくとどうなるか、というイメージを開拓しているようで興味深いことです。
まあ、この方向を追求していけば世界観の問題だけでもっと話が膨らませられそうなのですが、その点で見るとライトな扱いに留まっているのも事実です。

カイトはクァント=タンで戦っていた経験が長いので、最初のモンスターとの戦いにもスムーズに入り、しかも圧倒的な活躍。「主人公が戦い方を知るまで」という定番なら必要な描写はありません。
もっとも、設定を説明しながらの戦闘シーンは、必ずしも引き込むものとは感じませんでしたが。これは設定説明というより、そもそもあまりハードさを感じさせない戦闘描写そのものによるのかも知れません。

さて、カラー口絵は4ページ中2ページがエロ系(裸とバニーガール)、というのは最近の一迅社文庫では珍しくもない事態ですが、内容も十分それに即しています。戦闘でヒロインの力を引き出すため胸に触ったり、酷使した武装が砕け散って裸になったり…
が、ここで気になるのは主人公のキャラクターです。
何しろ、最初のページから妹(両親の再婚による義妹なので、血の繋がりはありませんが)の胸を見ています。

「さすがだな。将来は美乳秘書として世界に名を轟かすことだろう」
「妹のわたしにまで、そんなことをいうんですか」
 梨花は慣れたもので、顔をあげず、ひたすらペンを動かす。
「自慢の妹だからな」
「念のため、どのあたりがご自慢ですか」
「おっぱ」
「もういいです」
 (同書、p.7)


ラブコメを引き伸ばすための鈍感ではなく、ある程度変態要素の入った主人公も最近のライトノベルではよくあるパターンですが、あまりにも胸にしか執着がないのはかえって疑問を抱かせます。
実際、メインヒロインであるフレイ(クァント=タンの機士団長)はいきなり(冗談で)カイトの婚約者を名乗り、「正妻はソーニャ姫(クァント=タン王女)様、私は妾で」と言ってのけており、それは可能でもある(かの地では一夫多妻も可)のですが、カイトはそれに関してはかわしているのがはっきりと窺えます。
たとえば、機士団長でありながらメイド服を着ていることを問われたフレイが何と答えたかというと――

「昔、カイトがこの格好を褒めてくれたもので。巨乳メイドをはべらせるのが夢なのだと、そう誇らしげに語っていました」
「……はあ」
 どこまでがジョークで、どこまでが本気なのか、さっぱりわからない。梨花は困惑した。
「嘘だと思っていますね。少なくとも、カイトの言葉は本当ですよ。いつか、まだ見ぬ妹にもメイド服を着せたいと、そうおっしゃっておりました」
「兄さんを殴ればいいことだけは理解しました」
「たいへん結構なご理解です。では、一緒にカイトのお部屋に参りましょう」
 (同書、pp.109-110)


フレイの方も少なからずジョークを交えているのでいっそうややこしくなっているけれど、カイトが韜晦していることは間違いありません。

そこには、より強い魔法の力を持った人間を生み出すべく、政略結婚で人間を「交配」しているクァント=タンの王族に対する反感があることが分かってきます。
しかも、幼少時から戦闘の訓練を行い、モンスターと戦うことにそれなりの喜びを感じていながら、その特殊なスキル故に国を追放された経験を持つ彼が、様々な面で屈折した想いを抱えていることは想像に難くないことです。
この辺は続刊においても引き続き、主人公の抱える問題であり続けることでしょう。

ただ、この点に関しても本作はライトな描写ではあります。それは本作の三人称文体を、一人称語りでありながら地の文が脱線ばかりして主人公の肝心な心情を覆い隠しす『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』や『耳刈ネルリ』といった作品と比べれば、よく分かることでしょう(後者2作のような濃い文章でなければならない、という意味ではもちろんありませんが)。

後は、多少の違和感を感じたのは、どこまでがこの1冊の中で解決する問題なのか、ということでしょうか。
本作が続刊を視野に入れた作品であることは想像がつきます。とは言え書き下ろしで刊行されるライトノベルの場合、1冊の中である程度話がまとまっていることも求められるわけで、結果、1巻中で解決される問題と、後に引く問題とが存在することになります。
感覚的に、1巻の後半になって表面化してくるような問題は2巻以降に引き摺るかとも思ったのですが、どうも、そうでもなかったようで。

ちなみにコメディ面に関しては、中盤で小人のアルルメルル(外見は身長100cmあるかないかの少女だが実際には100歳を超えている、らしい)が登場してからが本領でしょうか。周囲を掻き回すその独特の発言はどこまで彼女の人間とは違う常識に根差していて、どこまでわざとやっているのか分かりにくいのがいっそうの混乱を誘います。しかも発明品を爆発させるマッドサイエンティスト(錬金術師)でもあり。

「おとな、です! こづくりも、できます!」
「……はあ」
「ですから、カイトのこだねを、もらいます」
「ええと、わたし、なんていえばいいか……」
「いちおう聞きますが、メル。カイトの種をどんな用途に使うのです?」
 フレイがいった。
「れんきんじゅつで、カイトをふやします」
「やめなさい」
「カイトが、いっぱいいると、たのしいですよ?」
 不思議そうに首をかしげるメル。額を押さえて呻くフレイ。そんなふたりを見て、梨花はなんとなく、目の前の珍妙な生物のことが理解できた気がした。
 (同書、p.121)


全体には軽めながら、色々楽しめる要素は満載です。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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