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ファンタジー世界における文明と食――『吼える魔竜の捕喰作法』

前回、通信や移動に関しても現代的な技術がない世界を舞台にする場合、ストーリー上の様々な問題が生じてくる可能性に触れました。
それを踏まえて今回のライトノベル『吠える魔竜の捕食作法(バルバクア)の話に入ります。

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さて、本作のヒーロー、ミキハラタクト肉屋であり、食用にするためドラゴンを狩っています。
そのため、彼の相棒の少女・リュカ冷蔵庫を背負っています。しかもこの冷蔵庫は4次元ポケットのような性能を持つ魔法の冷蔵庫で、人力で持ち運べる量を超えた巨大なドラゴンの肉はもちろん、様々な武器も収納できます。

他にも本作では主人公が汽車で出勤し、通話機で職場や家に連絡を入れているのですから(いずれも魔法の技術)、この世界の魔法文明はかなり近代的です。
まあ汽車が走っているのは王都の中心部の環状線+αといったところにとどまるようですし(巻頭に地図あり)、街路を走っているのも馬車ですが、馬車は少なくとも20世紀初頭まで主要交通手段であり続けたことを考えれば、これによって近代的な都市のイメージは揺るぎません。
主な舞台となる「肉屋フランシーヌ」の周辺は石造りの建物が並ぶ昔ながらのヨーロッパの街のイメージですが、こうした町並みもヨーロッパの下町では現在まで残っているものです(ついでに言うと、少し街を離れればもうほとんど人の住まない土地になっているのも)。

さらに言えば、セントウッドは「王都」でありながら、様々な人種や民族が行き交う通商都市の性格が強いところとして描かれており、宗教的にもリベラルです。ただし敵勢力となる「竜神信仰」はドラゴンを呼び出して人を襲わせるので取り締まりの対象になっていますが、これも実際に破壊活動を行っているためであれば当然でしょう(他の宗教についてそれほど細かく描かれているわけではありませんが、主要登場人物の中にも異種族がいることにより、彼らが独自の儀礼的習慣を持っているらしいことは描かれています)。
王立騎士団の男が肉屋を「卑しい職業」と呼ぶ場面がありますが、これも身分制度というよりはむしろ「人々を守って戦っている」騎士団の特権意識によるという記述でした。

多くの点において本作は「中世ヨーロッパ的」ファンタジーのイメージではありません。むしろ「魔法とドラゴンの存在する世界において、近代的な産業化が進んだ場合」を描いている印象です。

ただ、それでも本作において、ドラゴンと戦い人々を守る主戦力は剣と魔法で戦う「王立魔法騎士団」であり、中でも個人で強大な力を持つエリート「竜伐騎士」こそが最重要の戦力とされています。
これだけの魔法文明において、個人の力よりも強力な武器はないのか、という疑問は、ないではありません。
もちろん、戦闘用の魔法は究極的には優秀な個人が使った方が強い、という設定だ、と言われたら「おかしい」とは断言できないわけですが……
ドラゴンの血が錬成分解物質を含んでおり、武器に付与する魔法を絶えずかけ直しつつ戦わねばならないとか、聖遺物や魔装器と呼ばれる武器(神話の時代から伝えられるものなので、当然と言うべきか、剣や斧等)は選ばれた者でなければ力を発揮できないといった設定はありますが、このことが上記のような戦力事情にどれだけ関係しているのかは、(特殊な個人に頼らない戦闘用の魔法技術がどれほどの水準なのか、あまり描かれていないだけに)一見して明らかとは言えない面はあります。

とは言うものの、本作はなかなか面白いものです。
まず、食べるためにドラゴンを狩るという設定が秀逸で、しかも食の描写は入念です。
名前からして分かるように、タクトの郷土料理は和風ですが、そこにドラゴン肉のステーキを添えた結果――

 食卓に並べられた蒼脚竜(ササリカ)のモモステーキに、野菜サラダ。そして何故か異国風の椀に、白くてふっくらとした米が盛られている。隣には海藻と角切りの白いものが浮いた赤茶色いスープも添えられていた。
 (内堀優一『吼える魔竜の捕喰作法』、ホビージャパン、2012、p.71)


 これが驚くほどうまい。牛肉のサーロインのような柔らかな歯ごたえに、染みでる油。しかし決してしつこい油ではない。筋肉質の部分に於いて、その筋繊維を守るように必要最低限に溜めこまれた油。これが噛むごとに肉汁となって染み出てくる。そしてその肉汁がタレと混ざり、旨みを増幅させる。鼻を通り抜ける柑橘系の香りがしつこさを感じさせない。それどころか風味を良くしながら、肉を軟らかくしている。
 (同書、p.73)


実は、文章メディアは存外、味覚や嗅覚や食感を伝えるのに適しています――場合によっては映像メディア以上に。
ライトノベルにおいては、たとえばスーパー閉店間際の半額弁当を巡って戦う『ベン・トー』も美味そうな弁当の描写が優れた作品でした。
『ベン・トー』と異なり本作はファンタジーで、食材もドラゴンという現実には存在しないものですが、『週刊少年ジャンプ』の漫画『トリコ』ほどに非実在食材の途方も無い味を追求する方には行きません(『トリコ』の場合、“美味そう”に感じさせるに当たっては主人公の豪快な食べ方も大きいのですが)。
しかも獲物はもっぱらドラゴンだけであって、ドラゴンの種類による肉の味を描き分けるのも限界があるのでは……と思っていましたが、そこは(ある程度)現実的な料理の多様性で魅せています。

 これがいつもの味噌汁とは全く違う香りだった。磯の風味が鼻の奥へと抜けていく。さっきタクトが入れた車エビの頭から出汁が出ているのだろう。これが堪らなく美味しい。
 おにぎりを口に運ぶとシンプルな塩にぎり。
 なのに味噌汁と一緒に口に含むだけで、とても相性がいい。
 そして生姜の土群竜(フーリカ)肉巻である。焦げ目がつく寸前で、皆が干潟生姜の茎を手で持ち、生姜の肉巻を口に運ぶ。
 (内堀優一『吼える魔竜の捕喰作法 3』、ホビージャパン、2012、p.121)



そして、本作は女主人公です。
主人公は誰でも魔法が使える世界観にあって、魔法の使えない(落ちこぼれ)騎士団員のシェッセ=リハエル。一人称はボク。

このシェッセ、箱入り娘であるせいか、恋愛に関しては自分の気持ちにも他人の気持ちにも鈍感で、どう見てもタクトのことが好きなのに自覚のないまま楽しそうにタクトのことを喋って、彼女に気のある男をすっかり落胆させたり…
他方でタクトの方は人並み以上にはその辺が分かるようで、その男がシェッセを争っているのを見て「あれか? 気になる女の子いじめちゃうタイプか?」(1巻、p.126)とからかったり。この取り合わせは男女逆だとだいぶ事情が変わってくるでしょうし、女主人公にした甲斐があります。

また、シェッセが魔法を使えない「呪い」も彼女の血筋という物語の核心に関わっているようで、それが山場で秘められた力を発揮する展開にも繋がっており、設定はきっちりとしたものです。


なお、結構近代化の進んだ世界観にも関わらず、タクトの故郷(当然、日本がモデル)との交流はほとんどないようですが、それはドラゴンのいる過酷な自然のため、街の外へは進出が進まないという事情によるようです。
その結果、面積の上では王国の片隅であるセントウッドの人口が700万(!)という現代日本の都市部並の一極集中。
こうした集中が神話の時代の歴史にある秘密に関わっていることが仄めかされていますから、ストーリー的にもまだまだ広がる余地がありそうです。

ところで、「誰でも魔法の使える世界で魔法の使えないヒロイン」「相手役の滅法強い男」「限られた土地の外には人間が進出できない(もしくはしにくい)世界」というと、漫画『聖戦記エルナサーガ』を思い出すのですが(『エルナサーガ』の場合、「魔境」に人間が進出できない理由はドラゴンそのものではないものの、魔境にドラゴンが棲息しているのも確かでしたし)……
『エルナサーガ』の場合、限られた土地に閉じ込められた人間の土地(資源)問題というのがかなり深刻な事柄として描かれていましたが、その話はまたの機会に。

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ファンタジーと資源問題――『吼える魔竜の捕喰作法 5』

今回取り上げるライトノベルはこちら、全5巻にて完結となった『吼える魔竜の捕喰作法』です。 吼える魔竜の捕喰作法5 (HJ文庫)(2013/02/28)内堀優一商品詳細を見る  (3巻までの時点で
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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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