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あなたの琴線に触れる年代はいつ――『アニソンの神様』

中世の大聖堂は何百年もかけて建築されたので、その過程で建築プランまで変化し、追加に追加を重ねることになりました。
当然、そこでは様式も異なるものが混じり合うことになります。
まして細部の彫刻など、異なる時代と様式が入り混じり、また修復されたりすれば別の時代の手が入ることになるので、年代鑑定もなかなか困難です。
これはある種のアナクロニズム(時代錯誤)と呼ばれ得るでしょう。ただし、たんに「時代を取り違える」という意味ではなく、またそれだからいけないということでもなく、必然的にそうなるような性格のものである、ということです。

さて、何百年という中世の時間に比べれば微々たるものですが、オタク文化にもある種のそうしたアナクロニズムがあります。
オタクネタ・パロディネタが多用されるジャンルであるライトノベルを読んでいると顕著なのですが、10年、20年前のネタから最近のネタまでが同一作品中に混用されていることが珍しくありません。
もちろん、古いネタを知らない若い読者もいるはずですし、また年期の入ったオタクと言えど最近のネタにつねにキャッチアップしているとは限らないでしょうが、そもそも「分からないネタは気にしなくて良い」作品ならば元より問題にならないのかも知れません。
(さらに、詳しいことは知らなくても聞き及んでいれば十分である場合もありますし、また20歳前後の学生の間でなおも『ドラゴンボール』の話題が盛んなのを耳にするようなケースもありますので、そもそも「ネタの通じる範囲」というもの自体が一概に言えないことなのですが)

もちろん他方で、流行り廃りが激しく、話題の大半は最近の作品であるのも事実ですが。

また、年代的に外れているわけではないけれどもキャッチアップしていなかったものについては、なおさら年代の感覚がなくなります。
実のところ、たとえば『魔法少女まどか☆マギカ』が2年前に放映されて、震災で放送が一時中止された作品であるといったことも、リアルタイムで観ていない人にとっては縁遠い話なのですね。

…と、前置きはこれくらいにして、今回のライトノベルです。

アニソンの神様 (このライトノベルがすごい! 文庫)アニソンの神様 (このライトノベルがすごい! 文庫)
(2012/09/10)
大泉 貴

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日本のアニメが大好きなドイツからの留学生、エヴァ・ワグナーが日本の高校でアニソンバンドを結成し、ライブをやる話……と言えばだいたいの説明が済んでしまいます。
クライマックスは当然ライブ本番で、そこまでの流れは比較的一本道に近く、大きな浮き沈みは少ないものです(「アニソンに対する理解のない者からの心無い言」といった定番の展開はありますが、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のように偏見と戦うことが主題になっているわけではありません)。

音楽家の両親をもって生まれ、音楽を生活の一部として育ちながら、「自分のやりたい音楽」を、つまりは緒無く経の情熱を見失っていた入谷弦人(いりや げんと)の、アニソンバンドとの関わりの中での「自分探し」的なテーマもありますが、そこもオーソドックスで、また「自分探し」が完了するところまで行かない辺りライトな扱いです。
ただ、登場人物たちのアニソンにかける青春の情熱は非常によく伝わります。

で、作中に登場するアニソンは『聖闘士星矢』や『ドラゴンボール』の主題歌といった古いものも最近のものもあります。そもそも輸入に伴うタイムラグを考えると、エヴァが馴染んでいた作品は少し古い方が妥当なのかも知れません。
ライブ本番の選曲はやはりここ数年のもの寄りで、今のオタク読者に訴えるようよく計算されていますが、最後が『デジモンアドベンチャー』(1999~2000)の『Butter-Fly』 というのが面白いところ。

 幼い頃からほとんどアニメを見ていなかった弦人だが、一つだけ記憶に残っていたアニメがあった。
 それがどこで見たものだったのかはよく覚えていない。
 弦人が覚えているのは異世界を旅する子供たちとパートナーのモンスターが冒険している場面と、この歌だけだった。
 あとになってそのアニメのタイトルが【デジモンアドベンチャー】であることを知った。
 (大泉貴『アニソンの神様』、宝島社、2012、pp.248-249)


多くの人に覚えのありそうなノスタルジーを引き出し、最近の作品のアクチュアリティと共存させている辺りが心憎いところです。

実在する曲の名前を数々、一部では歌詞まで出しているのがアニメ好き読者に訴えるところですが、その他にもアニソンのあり方を巡る話が色々出てくるのもこの作品の見所の一つ。実はアニソンであることを知らないまま享受している人の多くいる曲、そして……

「そうです。『もってけ!セーラーふく』、【らき☆すた】のオープニング曲です」
 エヴァはなぜか嬉しそうに解説を始める。
「この曲はもともと『どのジャンルにも当てはまらない、いままでに誰にも聴いたことのない曲』というオーダーから生み出されまして、放送当時も非常に話題になったんです。まぎれもなく二〇〇〇年代を代表するアニソンの一つですよ。どうですか、ゲント。聴いてみた感想は」
「……ムチャクチャな曲だな」
「そうです。ムチャクチャです。わたしも初めて聴いたときは衝撃を受けました。でも、ゲント。こんなムチャクチャな曲ですらも懐に入れるのがアニソンというジャンルなのです。アニソンの枠組みでなければ、きっとこの曲は生まれていなかったと思います」
 エヴァの言葉が、弦人はわかる気がした。
 大泉 貴
「アニソンは、すごく自由なジャンルです。ロックをやっても、ジャズをやっても、ラップをやっても、それこそ演歌をやっても怒られません。それだけアニソンの世界は広大です。(……)
 (同書、p.148)


まあ、そもそも「アニソン」というのは「ロック」や「ジャズ」と同列のジャンルではないのですから当然という面もありますが、しかしそこに既存のジャンルからは生まれないものを生み出すポテンシャルがあるならば――



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あの曲も実は…――『アニソンの神様 score.02』

最近寝てばかりいるのには、単純に目を開けているのが辛いという理由があることに気付きました。 目および下瞼の皮膚が乾いて荒れ気味なのです。 病院での診断はアレルギーで、薬
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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