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怪物の作り方――『小説家の作り方』

今回の小説はこちらです。

小説家の作り方 (メディアワークス文庫)小説家の作り方 (メディアワークス文庫)
(2011/03/25)
野崎 まど

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デビュー作『[映]アムリタ』以来、作者の野﨑まど氏は「怪物」的な女性キャラクター(ポジション的に「ヒロイン」というと語弊のある場合もあるので)を描き続けています。
『[映]アムリタ』のヒロイン・最原最早(さいはら もはや)は作品を通して人の心を操る「技能」の持ち主であり、『舞面真面とお面の女』には生物としての怪物が登場します。そして第3作『死なない生徒殺人事件』では2種類の「怪物」の邂逅が描かれます。
そして、第4作となるこの『小説家の作り方』は、いわば怪物を“作る”話です。

駆け出しの小説家である物実(ものみ)のところに紫依代(むらさき いよ)と名乗る女性からファンレターが届いたことから物語は始まります。
しかも彼女は、「この世で一番面白い小説のアイディアを思い付いたので、小説の書き方を教えて欲しい」旨を依頼してくるのです。
そして物実は、彼女に小説創作法のレクチャーをすることになります。

「四角形と五角形の中間の図形」にしても何にしても、この作者はイメージの豊かさよりも、むしろイメージ不可能な概念でハッタリを効かせてきます。今回は「この世で一番面白い小説」がそれです。

「“この世で一番面白い小説”がまだこの世にはないでしょ?」
「え?」言われて少し考える。「いや、でも一応あるのでは? 今ある小説の中で一番面白い一冊が」
「私たちが言ってるのは、そういうのじゃないですよね?」
 それは。
 確かにそうかもしれない。
 僕がビジョンを持てずに悩んでいるのは。付白さんが人生を懸けて夢見ているのは、きっと今ある小説の中で一番面白い小説ではない。
 きっと、もっと、超越した何か。
 (野﨑まど『小説家の作り方』、メディアワークス、2011、p.106)


とは言え、この世で一番面白いとか何とかいう以前に、まだまったく書けていないし、書く能力もない段階で「アイディアを思い付いた」と言われても、それは錯覚であろうと考えるのが普通です。物実もそう思います。

 僕は昔の自分を思い出していた。高校生の時。初めて小説を書こうと思ったあの時。僕の頭の中には“この世で一番面白い小説”があった。今思えば、それはどこかで読んだ小説の焼き直しのような、焼き直しどころか単なる劣化コピーでしかないアイデアだったのでだけど。でもあの日の僕にだけは、間違いなく、世界最高のアイデアだった。
 そしてその世界最高のアイデアが設定になり、プロットになり、小説になっていくに連れて、色彩は段々と淡くなり、輝きはみるみる薄らいでいった。完成した小説はまさに高校生が初めて書いたような小説だった。僕がそれに気付くのは、書き上げてから二年以上経ってからである。二十歳を過ぎてから久し振りに読み返した自分の処女作は、余りの素晴らしさに破り捨てたくなる内容で、しかし紙束が厚くて破れず結局燃やした。
 きっと紫さんも僕と同じ道を辿ることになるのだろう。でもそれが必要なのだ。もし紫さんがこのまま一本の小説を完成させる事ができたなら、もう僕が教えるような事なんて何もないのだと思う。そうしたら小説教室もめでたく閉校だ。
 (同書、p.150)


とはいえ、野﨑氏の読者であれば、事態がこれだけに留まらないであろうことも予想できます。
何しろ、紫依代は今までに5万冊の小説を読んでおり、小説の書き方指南書の類も物実の知っているようなものはほとんど読んでいて、内容を暗誦できるほどでありながら、実際に文章を書いたことはほとんどないというのです。
たとえばプロットについても、それが何であるか、プロットを書く上での注意点といった事柄は悉く知っていながら、肝心の「プロットの書き方」は指南書には無かった、と言う(そして、それゆえに書いていない)のですから。
このような人物に「書き方」を教えていくことで、まさしく怪物を生み出しているのではないか――そう思うには十分でしょう。

しかし、物実の友人である茶水が序盤からその存在に触れていたスーパーハッカーが登場した辺りでさらに事態は急転、ハッカーと小説指南が結び付いて一気にSFになっていきます。その上でラストにはさらなるどんでん返し、相変わらず見事です。

とは言え、本作には『[映]アムリタ』や『死なない生徒殺人事件』のような恐ろしさや血腥さを感じさせる展開は希薄で、オチまで含めておおむねは平和な話です(さり気なく不穏な事件が起こっていることが示唆されていますが、少なくとも主人公は被害を被りません)。
またネタの性質と相まって、メタなユーモアが数多く見られるのも特徴で、たとえば応答に独特の間のある紫の話し方について――

 たとえば自分の小説に彼女のようなキャラを登場させて、この喋り方を再現するとしたら。多分セリフの間を一行空けるくらいの間を取るとちょうど良い感覚になるんじゃかいかなと思う。だが会話の間中ずっとそんな事をしていたら付白さんにも読者にもページの水増しとしか思われないだろう。なので“この人はずっとこういう喋り方ですが、ここからは省きますよ”と注釈して、以降は普通に行詰めして書くのが適切であろう。というかそもそもこんな面倒なキャラは出さないけれど。
 (同書、p.43)


実際にここまで紫の台詞の前は一行空いており、「この人はずっとこういう喋り方ですが、ここからは省きますよ」というのはこの箇所での『小説家の作り方』の読者に対する注釈にもなっていたりします。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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