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リスクをとる/避ける

(今回は力尽きたように引用メインで終わっています)

 いろいろな種類のリスクの正体とコストは、学会の運営に当たる人々よりも実業家の方がよく理解している。この点については、学界の人よりも実業界の人との方が、有益で率直な話をしやすい。かつて、実績のあるベンチャー資本家に、どれだけのリスクをとるかについて、どう判断しているのかと訊いたことがある。相手は、自分が出資する会社の一〇パーセント超が稼いでいるとしたら、自分はまだ十分にリスクをとっていないと思うと言っていた。こうした人々が理解し、経営を成り立たせているのは、新会社の九〇パーセントが失敗するときに、全体として最大のリターンを得られるということであり、その状態が、最大の速さで技術が進歩することに対応しているということである。
 (……)新しい技術を開発するときには、高いリスクと引き替えにしなければ、成功はおぼつかない。
 大学の運営当局にないのは、このような考え方である。(……)
 (リー・スモーリン『迷走する物理学』松浦俊輔訳、ランダムハウス講談社、2007、pp.422-423)


ここでスモーリンが問題にしているのは、真に新しい研究、人と違う研究をしているような人は大学に採用されないようなシステムになっており、それが学問――この場合は物理学――の進展を妨げているのではないか、ということです。

実際、どこからどんな成果が上がるか分からない先端の研究を進めることと、現段階で利益が上がることを見込んで「産学連携」等を進めることとは、必ずしも両立しないと思われるのですが、大学経営者はその辺をどう考えているのやら…

と同時に、アメリカの経営者はギャンブル的に、成果が出るかどうかわからない未知のところに投資する割合がかなり大きいことが分かります。
続いて、それに関する話を。

 ここで、賢い日本人と日本の会社は、大きく、決定的な、ふたつの思い違いをした。

 ひとつ目は、選択と集中とは、徹底的に安定し確実な成長が望める(そう思えるという意味で過去からの延長線上の実績のある)事業を選び、それにもてる資源のすべてを一心不乱に投下する、知らないことや不安定な(そう思えるという意味ではまだ確立していない)事業は捨てるべきだ、という思い違い。

 ふたつ目は、日本国全体で、みな他の会社がやっているのが正しいと信じ込んで同じように選択と集中をしたこと。選択と集中が、会社レベルだけでなく、世の中レベルや産業全体レベルで同質化して、同じパターンで実行されたことだ。
 これが、もうひとつの大きな、取り返しのつかない産業構造の閉塞をもたらした。

 (……)

 日本のメタボは男性の場合下腹部八十五センキ以上だ。体格の違いはあるものの米国では考えられないスリムなサイズである。同様に、そもそもビフォーにあたる多角化を極めた米国企業の過剰肥満状態は、やや肥満状態の日本企業の比ではなかったのだ。

 つまり、米国人のやり方は、かなりいい加減で、しかもバラバラ、そして結構な余力も残していた。
 ところが、大胆なリクトラクチャリングの事例ばかりが強調されるために、米国では、脂肪吸引を生命が危うくなるまでやり続けるというような、過度なリストラ旋風が吹き荒れているかのような妄想をいだいてしまった。
 これは、私たち日本人にとって、たいへん不幸であった。
 (古我 知史『もう終わっている会社』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2012、pp.61-62)


あまりにも多角化し肥大していた会社から適宜不要なものを切り捨て、しかも残すものとして何を「選択」するかはかなりギャンブル的で経営者によってもバラバラだったのがアメリカ、対して画一的に実績のある確実なものばかりに絞り込んで、結果として「イノベーションの枯渇」を招いたのが日本、というわけです。
かくして、そんな会社は「もう終わっている」と切り捨てる著者。

まあ、旧来通りで何とかやっていければいい、という考え方もあり得ますが、そもそも今まで通りの市場がいつまで維持されるのか、という疑問もあります。
今までの市場が続かない可能性まで考えるなら、そこに全ての資源を集中していた会社はどうなるか…と考えると、「余力」の残らないような極端な「コア事業への集中」は、リスクを避けることもできていないことになるでしょう。

そして少なくとも、先端の学問をする大学が「今まで通りのことをやっている人ばかり」では困るわけですが…

迷走する物理学迷走する物理学
(2007/12/13)
リー スモーリン

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もう終わっている会社 (ディスカヴァー・レボリューションズ)もう終わっている会社 (ディスカヴァー・レボリューションズ)
(2012/12/26)
古我 知史

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Author:T.Y.
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