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何とでも意味の取れるもの――『つきたま ※ぷにぷにしています』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

つきたま ※ぷにぷにしています (ガガガ文庫)つきたま ※ぷにぷにしています (ガガガ文庫)
(2012/12/18)
森田 季節

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なんだかよく分からないだけに気になるタイトルですが、この「つきたま」とは表紙にも多数登場している、カラフルやゼリー塊あるいはスライム風のものです。
作中世界ではこの「つきたま」があちこちに出現するようになっており、また見たり触れたりできる人とどうでない人がいるのですが、本当にタイトル通り「ぷにぷにしている」だけで実害はなし、正体もまったく不明です。
また本作の仕様として、イラストのページだけでなく、文章のページでもつきたまがあちこちにいます。

つきたま1

つきたま2

主人公の鶴見満流(つるみ みつる)は埼玉県箕原市の「つきたま対策事務所」に勤める公務員です。
これでつきたまが人類に危害を加えるエイリアンか何かであればカッコいい話ですが、あいにくとそうはなっていないわけで、窓口で相談に応じたり、邪魔だからという通報を受けて駆除したりというのが仕事の実情です。窓口相談に応じる姿勢のタイプ分けとか、公務員の地味な仕事のあり方がそれらしく描かれています。

ただ、あとがきに、

 あと、公務員の説明で妙に具体的な箇所があるかもしれませんが、取材の成果です。深くは追及しないでください。あくまでもフィクションです。現実は、こんなに若くてかわいい子と出会えたり、一緒に仕事できたりはしません。
 (森田季節『つきたま ※ぷにぷにしています』「あとがき」、小学館、2012、p.262)


とある通り、キャラクターはライトノベル的な脚色が効いています。その結果として、「若くてかわいい」女の子たちは(クールビューティーは女上司である六条課長補佐を除くと)主人公にとって面倒の種となっている面が大きいのですが…
とりわけの問題児は同じ職場の臨時任用職員である「いるかん」こと初瀬射鹿(はつせ いるか)で、仕事で使えないだけでなく、頼まれていた仕事を「あっ、忘れてた~、てへっ」(p.55)というほどに図々しくて反省の態度が見られません。
ドジだったりマイペースだったりする女の子が「萌えキャラ」になることもありますが、しかしそれを現実な職場に持ち込まれれば不快なだけ……というのも、キャラが周辺環境との関係で成立しているものと考えれば別段驚くことではありません。

しかし、職場環境といったいわば外枠の部分にある種現実的な要素を持ち込むことで、本作は何を描かんとしているのでしょうか。

そもそも、本作は冒頭から少々馴染みにくい展開を含みます。何しろ、主人公・鶴見が廃屋で出会った自称・魔法少女はつきたまを光らせて見せます。その「ありえない」(らしい)現象を見た鶴見は相手が魔法で「記憶を消す」と言っているのも本当かもしれないと怯えます。
ですが、この段階ではつきたまそのものについてほとんど知らされていない読者としては、それが光ったところでどれほど驚くべきことなのか、どこまで鶴見に共感すべきなのか、よく分かりません。まあそうでなくても、光らないものが光ったからといって、そこから他の「魔法」効果が導かれるかどうかは大いに疑問ですが…

でもおそらく、この「よく分からなさ」が味噌なのでしょう。
つきたまに関しては邪魔だからと駆除したり、保護を訴えたり、パートナーだと主張したりと、割とどうとでも意味を読み込めることがポイントです。

 もしかすると、この子もかぶれちゃったクチなのか。
 つきたまが発見された当初、世界中のオカルトファンが踊り上がった。
 一部の人間にだけ見えて触れる、ゼリー状の何か。勝手に動く。
 未知の知的生命体だとか、科学的世界観を根本からゆるがすとか、無責任極まりない言説が飛び交いまくった。
 それぐらい、つきたまは謎で非常識な存在だった。
 そいつの力でつまらない世の中を楽しくすることができるんじゃないかと思った人間も一人や二人じゃなかった。
 しかも、はっきり見える人間は限られていたから、そういう奴は余計に選ばれた人間だと思いこむ節があった。この薬師寺エナもその一人なのかもしれない。
 ――もっとも、世界は何も変わらず、今も動いている。
 人間に対する害がなく、何の役にも立たないことがわかってきた時点で、人類はつきたまに対する興味を捨てた。いまや、たんなるぷにぷにしたものでしかない。
 (同書、pp.33-34)


もし、つきたまが人間に危害を加えるものであれば、それと戦うべきであり、それに与して人間が被害を蒙るよう推進する人間はお縄にかかるべき、というのが一般的な認識になるでしょう。つまり、ある程度普遍的な了解の方向性が絞られるのです。「たんなるぷにぷにしたもの」に関してはそれがありません。
実際、鶴見も、論理的には証明できず、たんなる偶然かも知れないと知りつつ、自分の「つきたまが見える」能力は祖母が死ぬ前に譲ってくれたものだと信じています。

 非科学的だろうとなんだろうと、それでいいじゃないか。どうせ、わからないんだし。
 (同書、p.147)


そして、つきたまから心の支えを得たり、刺激を受けて社会的に大成功してしまった人もいます。他方で、邪魔だとしか思わない人もいます。
「そう思うのがしっくりくる」という各自なりの意味があります。

目次の直後、本文に入る前に

 目の前にある真実は、我々人類がこれまでに手に入れた
 「知識」というレンズを通したものでしかない。


とあるのがそうした事態をよく物語っています。

そして、そんなあり方――決して「未知の敵」と戦う方向に人々の意志が収斂していったりはしていない――は、現代の街の平凡な役所という舞台設定によく合ったものなのでしょう。

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Author:T.Y.
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