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共にアウトサイダーなる怪物とヒーロー――『異端児たちの放課後』

あまり時間もないので単刀直入に、今回紹介するライトノベルはこちらです。
作者はこれが初の単行本公刊作品のようですが、来歴ははっきり書かれていません。

異端児たちの放課後 (電撃文庫)異端児たちの放課後 (電撃文庫)
(2012/12/08)
形代小祈

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まず本作の冒頭では、独特の自己紹介をする転校生の少女が登場します。

「わたしは魔を狩るもの」少女はいった。「この学び舎に隠れ棲む魔物を討ちにきた」
 (……)
「名前はヒヒイロ・ホノカ。化け物以外に興味はない。邪魔だからわたしにかかわるな。以上」
 (形代小祈『異端児たちの放課後』、アスキー・メディアワークス、2012、p.13)


『涼宮ハルヒ』の「ただの人間には興味ありません~」の亜流と思えば、パロディも含めるとすでに見慣れた物の域に入った場面です。
しかし、この自己紹介を聞いている本編の主人公、ヒナモリ・ヒナタ人間に擬態した怪物・ヒュドラーです。
何も知らない人から見れば「痛い人」あるいは「キャラ作り」でしかない発言が、自分が「狩られる」「化け物」であるという見に覚えのある者にとっては一変します。
そんなヒナタ自身、前のページでは窓際に落ちているセミの死骸を見て(……あれが、ぼくの未来かもしれない)などと考えています。これも普通ならば“中学生らしい痛い浸り具合”と言えるところ。しかし、仲間を知らず、迫害を受けて隠れ住んできた者の言葉となれば……

というわけで本作は、先行作品へのオタク分化内における自己言及的要素を取り入れながら、そのことによって「現実的なこと」と「アニメや漫画、ライトノベルでしかありえないこと」の境目を揺さぶってきます。
たとえば、ヒナタは人を攻撃したりすることなく、平和的に人間社会に溶け込もうとしていますけれど、同様に人間の中に潜む怪物で人を襲う者がいれば、それを退治する「正義のヒーロー」がいてもおかしくはありません。
けれども、それは本当に「正義のヒーロー」なのか? 現にヒナタが狙われているというのに…

さらに、戦いに明け暮れてきた「魔法少女」が現実世界の楽しいイベント――夏祭りやら修学旅行やら――までフィクションの中だけのことと思っているという、さらなる捻れに至っては……「ヒーロー」にそのような戦いを強いるものとは、一体何なのか――

正体が人外で迫害を受けてきた主人公というのも、今となってはそう珍しくない主題ですが、そんな主人公の生き方と、「正義の味方」として戦ってきたはずのヒロインの孤独で凄絶な人生が呼応しているのが、本作の軸でしょう。

あとがきも、ギリシア神話でヘラクレスとヒュドラーの戦いに割り込み、踏み潰されたの話をして、以下のように書いていますが、これもまさしくそうした作品の特徴を物語るものでしょう。

 世界各地の神話には、ほかにも多くの怪物が登場しますが、この蟹よりアホでマヌケで情けない倒され方をした怪物は寡聞にして知りません。いくら蟹みそで考えたって、自分が半神半人の大英雄に勝てないことくらい、わかっていたでしょうに。おとなしく泉の底で泡ふいてれば助かったものを。いったいどうして出ていっちゃったんでしょうか。
 たぶん、友だちだったんでしょう。おそらく、生涯でたったひとりの。
 おたがい天涯孤独の化け物どうし、人里離れた泉のそばで仲良く暮らしてたんでしょう。
 (……)
 本作『異端児たちの放課後』は怪物や英雄の物語ではございません。
“蟹”の物語です。
 (同書、pp.315-316)


さてストーリーですが、序盤でヒナタがホノカの殺されかけたところで妙な連中が登場し、彼らは新宿地下に広がる地下空間(ジオフロント)に連れて行かれます。そこにあるのは、異世界に繋がる「空港」――そこには様々な異種族が集い、異世界難民が故郷を探していたりもします。
色々な種族が登場するのはもちろんのこと、ナチスが勝利し宇宙にまで覇権を拡げた並行世界の「純人間共和国(ラインメンシュ・レプブリーク)が敵であったりと各種の神話・架空戦記的要素が登場しますが、その辺の風呂敷は広げても話の軸はきっちりしている印象です。
やや気になるのは、終盤の展開でどこが一番盛り上がる山場なのか、ピントがぼけて感じられたのと、新宿地下に来てから「異邦人学園(ゼノアカデミア)に通うという「学園」要素が実はそれほど必要でないように感じられた辺りでしょうか。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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