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「景気のいい話」という末期症状

「愚民諸君は実に幸運だよ。なぜなら、春日恒太という英雄と同じ時代に生きることができたのだからな。ククク、そのままでいいのだ、そう、貴様らは愚かなままでいいのだよ。今までどおり幻想のなかを生きるがいい。すべては愚かな民草どもに代わって、革命部が血の犠牲によって成し遂げてやることなのだからな。愚民諸君、貴様らは資本主義も共産主義も社会主義も超えた、新しい時代の出現を見るだろう」
 なんというひどい演説だろうか。
 いくらなんでも生中継で、ここまで愚民を連呼すれば、大変な騒動に発展してしまう。
 (至道流星『羽月莉音の帝国 4』、小学館、2010、p.354)


「ふさわしくない言葉遣い? ふざけるな、愚民は愚民なのだ。事実から目を背けない力強い視点こそ、報道陣に真に必要なものだろう。もっとも今のマスコミ業界に、俺のように神懸かった報道陣はひとりもおらんがな。この俺が統治する革命部は、そんなまやかしを破壊するためにやってきた」
 (至道流星『羽月莉音の帝国 5』、小学館、2010、p.12)


いきなり小説の引用から始めましたが、かくしてこの作品において、春日恒太は過激な発言とクイズ番組で博識を見せ付けたこと等によって、急激に有名人になっていきます。
そして物語終盤、彼の率いる国際商業銀行は凄まじい金融バブルを発生させます。

「中銀の考えなど、しょせんは役人どもの短慮にすぎない。まさか諸君らは公務員の戯れ言を信じるのか? 俺が指導者として創り出す新しい世紀では、景気は永遠に上がり続けるのだ」
 (……)
 相変わらず先進諸国の中央銀行は強い懸念を表明し続け、景気を冷まそうと躍起になっていた。
 また、一部の学者は「異常な事態だ。冷静に状況を見守れば、目を背けたくなるほどの……恐怖で足すくみ上がるほどの過熱ぶりだ。いずれ景気は破綻し、大変な自体になる。この規模の反動になると、世界は大不況から三〇年は立ち直れないだろう」と警告を発していた。
 しかし、そんな警告にまともに耳を傾けるマスメディアはほとんどなかったし、大衆も聞く耳を持っていなかった。景気に注意を促すような放送がなされれば、視聴者はすぐにチャンネルを変えてしまうだろう。
 それに、恒太の言葉を指示しているエコノミストも多く、「春日恒太エコノミー理論」「超世紀エコノミー理論」なる奇抜な経済理論まで登場するに至っていた。書店に行けば投資を煽る本がかつてない売れ行きを示し、景気は未来永劫上がり続けるのだと激しく煽るエコノミストたちにも事欠かなかった。こういう状況では、煽る側に回った方が遥かにメリットを享受できる。祭りなら、乗っかった方が商売になるのだ。
 市場には金が溢れ返り、実需に関係なくあらゆるものが高騰し続けていた。
 (至道流星『羽月莉音の帝国 9』、小学館、2011、pp.93-95)


別に小説に「予言」を見て取りたいとは思いません。そういうことは後からならば何とでも解釈できることも多いですし。
しかし、

・攻撃的な言動を連発する
・目先の問題(財政危機、経済崩壊、災害復興etc.)よりもやたらと「景気のいい話」(さらなる儲け、経済成長、再軍備etc.)を吹聴する


為政者が見られ、一定の支持を得ているのは、確かに現実の事柄になっているようなのです。
リーマンショック(2008年)等で経済全体の危機だ、資本主義始まって以来の危機だと騒いでいたのはほんの数年前のことです。
もう危機は去ったのでしょうか。むしろ急に景気のいい話を始めることこそ、末期症状という可能性はないのでしょうか。

特に日本では、大震災があってからまだ2年経っていません。1年前には、被災地の状況を考えるととてもまた解散総選挙はできない、と言われていました。
震災の復興や、次の災害対策のことが選挙で話題にもならないのは、なぜでしょうか。
民主党政権時代にすっかり復興や災害対策は完了したということでしょうか。そんなに民主党政権が活躍していたとは知りませんでした。それとも、政権がどんなに無能でも2年弱もすれば大概の復興は済む、その程度の事態だったのでしょうか(実情は何よりも現地の方々がご存知でしょう…)。

日本の公共事業の多くは建築業界で行われていますが、そうして1日に数えるほどしか車が通らない道路を次々と作っている一方でトンネルが崩落するのは、なぜでしょうか。震災もあっただけになおさら、その辺のあり方を見直すという話は出てこないのでしょうか。

なるほど、もうそんな「大変な話」はしたくない、たくさんだ、ということでしょうか。
それよりももっと景気のいい話をしよう、と。

※ 景気が良くなれば復興にも金が回ってくるという論もありますが、しかし、上で挙げた公共事業のやり方の話からして、問題はその金の使い方です。そもそも近年、GDPと労働者の賃金の間に正の相関はほとんどありません。マクロな数値の上で景気が良くなればそれが回ってくる保証など、どこにもないのです。
そもそも経済効率を追求するなら、「東北の震災に見舞われたところに新しい家を建てるより、資材をもっと高く売れるところに回そう」という論理が成り立ってしまいます。景気の数値の上で言えば、それが一番いいのです。それではどんな復興もできません。
市場原理により自ずから被災地に回すのが一番高く売れるというのなら目出度いところですが、さてそう上手く行っていることでしょうか…?

賃金を取りすぎの奴からぶん取るとか、最低賃金を切り下げるとか廃止するとかいった話も、「そうやって剥ぎ取った分があなたに回ってきますよ」という隠れたメッセージをそこに読み込む限りでは、「景気のいい話」なのでしょう、きっと。


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これらの表紙を見ていると本当に誰が主人公だか分かりませんが…

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コメント

No title

まったくです。ここから作者氏はどうオトすんでしょうかね。

下手なことを書いたらラノベの売り上げ以前に非国民とかいわれかねない世の中になりつつありますからねえ……。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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