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トラとは何者か――『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』

映画『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』を観てきました。
さすがに平日なためか、数えるほどしか観客はいませんでしたね。しかも3Dだと値段高めですし…
まあ、トラが飛び出してくるところなどは思わず身をすくめるくらいの迫力がありましたが、例によって目が疲れるのも事実で、未だに頭痛が残っているのもそのせいかも知れません。

動物の映像は確かに本物と見分けがつかない精度でしたしね。

なお、インドの現地語など英語以外を話して、英語の字幕が入っている部分もあります(日本では公開されるバージョンは当然、その上に日本語字幕が入っていますが)。終盤で日本の保険会社の調査員が「それは確かか?」とか「水をあげて」と言っている場面で、字幕が存在するのを見てから一瞬遅れて日本語だったことに気付いたり。
もっとも、私はそもそも英語の台詞を十全に聞き取れるほどではありませんが。


ところでこの映画、ラストでどんでん返しがある……というよりは、揺さぶりがかかります。果たして少年は本当にトラと漂流したのか…?
確かに、単独漂流にしても227日は長すぎますし、ましてや救命ボートにトラと一緒にいて食われず生き延びるなんて荒唐無稽だとは思いましたが……
しかもトラの名前が「リチャード・パーカー」です。英語の人名としてはありふれていますが、動物の名前としては……リチャード・パーカーとは何者か? いや、本来は「サースティ」と名付けられたのが、動物園の書類のミスでこの名前になってしまった、と説明があり、そんな名前のトラが動物園にいたのは事実として描かれています。しかし……

映像として観ていると、最初ボートに乗り込んだのは少年パイの他にシマウマ、オランウータン、ハイエナ、そしてトラのリチャード・パーカーだったのですが、シマウマやオランウータン達が生きている間はトラがあまり姿を見せないのも妙な話で。ボートの覆いのすぐ下にずっと潜んでいたはずなのですが。

さらに、夜にクジラが飛び出した辺りから画面がいっそう幻想的になっていきます。
やたらと水が透明で、水中の生き物の姿がよく見え、それが宇宙的なヴィジョンにまで繋がっていきますし。無数のミーアキャットが棲むマングローブの浮島に辿り着いた辺りで、さすがに現実の光景とは思えなくなってきます。


で、結局この話のテーマは何なのかというと、「宗教」なのですね。
序盤で、パイはまずヒンドゥーの神々に親しみ、ついでキリスト教の教会に通うようになり、さらにはイスラームの礼拝をするようになり、さらに現在ではユダヤ教のカバラーについて講じている人物であることが語られます(ちなみに、船の名前「ツィムツーム」もカバラーの用語です)「。三つの宗教を同時に信じようと思ったら矛盾することがあるはずですし(まず一神教の「我の他に何者も神とすることなかれ」に反します)、父親も「三つの宗教を同時に信じるのは無理だ」と言いますが、このことについて、原作者のヤン・マーテルはこう語っています。

もしパイがひとつの宗教を信じているとしたら、何らかの形で彼は読者から敬遠されてしまうだろうと思ったからだ。もしパイがヒンドゥーだったら、西洋人や日本人は近寄りがたいと感じるだろう。クリスチャンだったとしてもこれまた極端な人と思われるかもしれないし、ムスリムには良くない印象を持っている人が多い。それに、僕が語りたかったのは、特定の宗教についてではなく、信じるということだった。それは、どの宗教にも共通すること。パイに3つの宗教を信じさせることで、読者を阻害することなく、彼の持つ信仰心を語ることができると思ったのさ。
 (パンフレットより)


おそらくは比較的馴染み深いであろうクリスチャンであっても「極端な人と思われるかもしれない」と言いつつ、3つの宗教を信じていればそれが回避できる、という考え方は一見すると分かりにくいものですが、考えてみると、正月には神社に詣で、寺で葬式をし、教会で結婚式をやっている日本人がこの程度で驚いてはいられません。そして、「日本人」まで幅広い読者に理解されるものを書こうというはっきりしたこだわりがここには見られます。

ただ、パイは嵐の中で「神よ何をお望みなのですか」と叫び、島に辿り着けば「神は見守っていてくださった」と言いますが、ただこの漂流譚の中で信仰のあり方を決定的に動かされたかというと、そうでもないのです。
これは「信じていたのに救われなかった」わけでも、「信じていたから救われた」話でもありません――少なくとも明示的には。

が、ラストで「トラ」の象徴的意味が明らかになると、「自己とその内なる悪に向き合い、それゆえにこそ生きる人間」という、それこそすぐれて宗教的な主題が見えてきます。
悪こそが人を生かしたのかも知れないのだから――

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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