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学園の意味――『剣刻の銀乙女 2』

2日ほどお休みしてしまいました。
風邪を引いていても、昨日は小規模ながら研究発表会があって、自分自身も発表者側だったので行かないわけにも行かず。
座って話しているくらいの体力はありましたし、今日になるともうかなり熱も下がって、関節痛も引いたので回復したつもりだったのですが、腹の具合が悪く今ひとつ食が進まないままです。
頭痛もしばしば発生するのであまり体力が続きません。

ちなみに研究発表会ですが、同期と比べると、私は前の先生譲りか引用などは常に細かいものの、話をやたらと広げる傾向が顕著で、それを圧縮すると説明不足になりがちです。次回はもう少し堅実に行こうと思った次第。

 ~~~

それでも、軽くライトノベルを取り上げましょう。『剣刻の銀乙女(ユングフラウ)』の2巻です。

剣刻の銀乙女2 (一迅社文庫)剣刻の銀乙女2 (一迅社文庫)
(2013/02/20)
手島 史詞

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1巻レビュー

前巻のラストでは主人公のヒースと妹のマナ、そしてヒロインのエステルが学園に入学させられています(ちなみにもう一人のヒロインである「騎士姫」ルチルは学生にして「剣刻」持ちの騎士となった人物で、学内では生徒会長でもあります)。
そんなわけで、この巻では本当に学園物になります。道化師として騒ぎを起こそうとするエステルと、無学であり学校の勉強に馴染めないヒースがルチルに説教される、という学園コメディらしいスタート。しかも今回のモチーフは学園の七不思議――というほど古いものでもない最近の事件という設定ですが、とにかく学内で起こる生徒の失踪事件です。

「剣刻戦争」と言われる内乱状態はなおも続いており、国の要人である騎士の暗殺が短期間に続いているような状況下で学園ばかり平和なようで(まあ実際にはその限りでないからこそ主人公達が戦うことになるのですが、一見したところ)奇妙に見えますが、ここにはおそらく、ある前提があります。
つまり、「学校とは独自の自治を持った世界であり、子供たちを外界から守る場所である」という前提です。

実際、学校とは、児童労働で酷使される子供たちを守り育て、市民として育てる場として成立しました。
「学校の勉強なんかしているから大人になれない、早く社会に出て働いた方がいい」という人がいますが、炭鉱で一日トロッコを押している方が大人に上で有効だと思うのなら、自分の子供をそうやって育ててみればいいのです。

もちろん、時代とともに社会状況も学校そのもののあり方も変化し、そんな中で生じてくる学校固有の問題もあります。
現代日本の場合、それは、そこらの社会よりも複雑で閉塞した人間関係を強いる教室空間やそこから生じる「いじめ」や、いじめどころか犯罪行為に及んでも警察沙汰にならない、といった事態に現れています。
もちろん、そうした事態が良いはずはなく、明確な犯罪に関しては警察の介入は必要でしょうが、しかし他方で、学校が警察の手も及びにくい自治の場となっていることの背景には、警察権力の方が危険だという考え方があるのであり、冤罪事件を考えるとそれは杞憂でないということも、忘れるべきではないでしょう。

このような学校というものの独自性とその良し悪しの両義性は、自覚されていないわけではありません。
ライトノベルというのは、青少年向けとされる分野の中でも――たとえば少年漫画と比べて――とりわけ主人公が学生である率の高い分野です。ファンタジーでもあっても、物語そのものはほとんど学校を舞台にして展開しなくても、です。
ここには確かに、差し当たりもっとも手近な、ひょっとすると唯一の社会的関係の場として「学校」が考えられている、ということがあるのかも知れません。社会的関係を取り結ぶ他者として、学校の同級生や先輩後輩しか考えられないのであれば、それが貧困だというのも事実でしょう。
しかし他方で、学校が人間関係の場として手軽なだけのものではなく、厄介さをも孕むものであることを描いているのが一連の「スクールカースト物」です。作家により作品によっては、学校の閉塞感もまた捉えられているのです。

話が逸れました。『剣刻の銀乙女』に戻りましょう。
実際この2巻では、ルチルがエステルを学園に「閉じ込めて」いる理由が語られます。

「あの子の出自も問題だけれど、エステルが《剣刻》所有者であることは、もう国中に広まっているわ」
 これには、ヒースも苦い表情を浮かべた。
 エステルは《剣刻》のひとつを所持しており、それをひと月前の事件で使用している。白銀の翼という形のそれは、隠しようもないものだ。
 今までも彼女は狙われていたが、それでも知らない者の方が多かったはずだ。それが、今や国内で知らない者はいないというほどに、噂が広まってしまった。
――救国の英雄でも、《剣刻》を持っていれば狙われる。
 ルチルがエステルを外に出したがらない理由は、そこにあるのだ。
 (手島史詞『剣刻の銀乙女 2』、一迅社、2013、pp.23-24)


ルチル自身も「剣刻」持ちの騎士であるがゆえに、学園を外出する時には護衛を付けている、といいます。
裏を返せば、学園内にいる限り狙われる可能性はかなり低くなる、ということです。学園の自治機構や防備について詳しく説明されているわけではありませんが、学園がいわば小都市のような独自の世界を築いているという前提なしにはこの話が成り立たないこと、明らかでしょう。

さて、この2巻ではルチル、ヒース、マナに新キャラのエリオットも加えて小隊を組み、エステルとともに南の都市に「外出」、海に入ったりもしますが(水着イラストはエステルのみですが…)、後半の山場は学園内でも失踪事件に関わるものです。そしてこの両者が「エステルも知らない罪禍」を通して関わってきます。
その分、学外の「剣刻戦争」に関してはあまり大きな動きのなかった2巻ですが、この巻の敵はやはり、内乱を引き起こした黒幕であるクラウンと関わりがあったようで、前巻で撃退されたもののおそらく死んではいないクラウンの正体と併せて、いくつかの示唆は出ました。

ラブコメとしては順当に、第2ヒロインであるルチルと主人公の仲が進展。エステルから「浮気」の許可も出ていますし、両手に花はほぼ確定でしょうか。

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愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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