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妙なもののごく自然にいる町で――『オコノギくんは人魚ですので』

だいぶ回復してきましたし、食べるつもりで買ったまま、食欲がなくなって余っていた食材があったので、そろそろ食べることにしました。

 ~~~

さて、読了後もどう語ったものか考えあぐねていた作品もあるのですが、ひとまず書けるだけのことを書いてみることにします。

オコノギくんは人魚ですので〈1〉 (メディアワークス文庫)オコノギくんは人魚ですので〈1〉 (メディアワークス文庫)
(2012/12/25)
柴村 仁

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この作品、いきなり冒頭から以下のように始まります。

 萩山奈津(はぎやま なつ)は、六月の席替えでオコノギくんの隣になった。
 オコノギくんは人魚である。
 (柴村仁『オコノギくんは人魚ですので 1』、アスキー・メディアワークス、2012、p.6)


この作品の舞台となる城兼町(しろかねちょう)では、ごく普通に人魚がいて、人間と同じ姿になって陸に上がって来てもいて、行政にもそれを受け入れるシステムがあります。
妙なものは人魚だけではありません。

 実際のところ、うじゃというのは、海からやってくる白い生き物である。長雨や降雪などで町全体がジメジメしだすと共に町なかを漂い始め、雲が遠ざかり空気が乾いてくると海へ還っていく。個体で行動することはほとんどなく、常にうじゃうじゃと群がっているので「うじゃ」と呼ばれるようになった。らしい。学術的に正式な名称があるはずだが、十河唯は知らない。
 (……)
 フォルムは、円やかだ。形は様々だが、瓜型であるにしろ扁平であるにしと、とにかく円やか。角も直線も存在しない。目?と思しきポッチがふたつ、ちょんちょんとついている以外は、出っ張りもヘコミもなく、全体的にツルンとしている。
 大きさにはかなり個体差がある。臼のような大きなものからピンポン玉くらいの小さいものまで、様々だ。
 触るとモチモチしている。ちょっとゆるい白玉くらいの固さである。
 シャボン玉のようにプカプカ浮き、風に乗ってどこへともなく飛んでいく。
 (同書、pp.70-71)


こういうものが至極当たり前のように、「ちょっと珍しい動物がいる町」くらいの感覚で描かれます。
実際、この町の海岸には――架空の生物ではなく――アザラシもいます。「独特の自然」からファンタジックな存在へとなだらかな移行が感じられます。

人魚の生態についての描写も、一方では水中で体温を保つため皮下脂肪を蓄えているから外見よりかなり重いとか、クリック音を発して反響定位で周囲の状況を探るとか、生物学的な説明がある一方で、「写真に写らない」といったファンタジー・オカルト的としか言いようのない部分もあります。

そんな世界観の中で、主人公の奈津は、中学時代は名の知れた水泳選手だったのですが、現在はある「症状」により泳げなくなってしまった少女です。
好きなことを諦めなければならなかった彼女の想い、それゆえの、もっと水中に適応した生物である人魚であるオコノギ君への独自の感情、それを含んだガール・ミーツ・ボーイ……と、思春期のドラマらしい道具立ては揃っています。
ただ、後半では彼女の「症状」もまたファンタジックなものであることと、それを踏まえての対処可能性についても語られます。

もちろん、架空の設定による事態も、現実にあり得る何か――要するに才能と思わぬ事情による挫折とか――のメタファーとして読むことができる場合もあります。しかし、そうして現実を持ち込む読み方自体に限界があることも多いのです。

しかも、奈津は人間離れした怪力の持ち主でもあることが、これまたさらっと描かれています。もし、これまたファンタジックな事情による才であり、水泳のスキルもそれによるものがあったとしたら、どうなのでしょう。
それは「程度の差はあれ現実にも存在する、授かったからには良いように使えばいい“才能”の一種」であるのか、それとも「元々ないはずのもの」と見るべきなのか……

本作は〈1〉と巻数表示があることからも分かる通り、続刊を前提した作りで、まだ部分的にしか説明されていない謎がいくつも残っていますし、まして登場人物の今後は分かりません。
ただし、上記の通り、ごく自然に不可思議な存在が日常に入り込んでくる光景は、「架空のもの」を現実のものから切り離して「ある方がおかしい」とする読みを支持するものではなかろう、とは思われます。
もっともそれゆえに、架空のものを現実の「メタファー」とすることも、時に素直に肯定しがたく思われることもありますが…。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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