オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
三姉妹それぞれの恋愛模様――『好きと嫌いのあいだにシャンプーを置く』
読んでいる最中から語る言葉を考えている作品もありますが、他方で言葉の見付からないこともあります。
一応何か書く気になったからと言って、大したことを言っているとも限らないのですが、ひとまず取り上げてみましょう。今回はこの小説です。
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同作者の作品は『可愛くなんかないからねっ!』はある程度読んだ覚えがありましたが、その印象からしても意外な方向性の作品でした。まあ、世の中にはもっと多芸多才な作家もいるので、いちいち驚いてもいられませんが。
本作は神戸で同居生活をしている三姉妹の恋の物語です。
職業も生活も大いに異なりますが、三人とも社会人で、そして三者三様の恋をしてきました。
三章構成でそれぞれ長女、次女、三女の視点から描かれており、しかも各章の冒頭にそれぞれの恋愛に対する姿勢と経験が要約して描かれているので、登場人物についてはすんなり入ってきますね。
三章とも描いている期間はまったく同じで、姉妹同士が会話するシーンは同じ場面が章ごとに視点を変えて描かれることになります。しかしそんな中、姉の視点で描かれた出来事の裏にあった意外な事情が追って分ったりする巧みな構成となっています。
さて、何度か触れてきたことですが、なぜかライトノベルでは女主人公は流行らないものとされます。男性相手の恋愛が主題であればなおさらです。
しかも本作『好きと嫌いのあいだにシャンプーを置く』は、三姉妹の人物造形も若干女の生々しさを含んでおり、その辺が一般文芸寄りのメディアワークス文庫ならではだと思います。
たとえば、長女の紗子(さやこ)は、美容室で働いている青年・シュンちゃんが自分のことを好きなのを知っての上で、恋愛上の転機があれば彼にシャンプーをしてもらいに美容室に通っていますし、誰を好きになったという話をしながら彼とデートのようなこともしています。
次女が「キープしてるみたいにしか見えないんだけど」(p.22)と言うのもむべなるかな。
ついでに、帯のフレーズ「好きな人の車の助手席で、私は君を傷つけることを考える」も長女のモノローグです。
つれない男から逃れられない次女もなかなかに業が深い。
とは言え、物語の落としどころは非常に理想的で、綺麗なものです。三人ともが純真な「好き」に従ったとでも言いますか――そのお陰で、結局は三姉妹とも「いい子」であるという印象なのも事実。
それほどドロドロした方向には行かないわけで、この辺がまさしくライトノベルと一般文芸のボーダーであるメディアワークス文庫ならではなのか、と思ったりします。
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