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長いタイムスパンの仕事――『路地裏のあやかしたち』

現在来ているスパムメールは強烈です。2時間で19本来たこともありました。

 ~~~

そんなことはさておき、今回取り上げる小説はこちらです。

路地裏のあやかしたち―綾櫛横丁加納表具店 (メディアワークス文庫)路地裏のあやかしたち―綾櫛横丁加納表具店 (メディアワークス文庫)
(2013/02/23)
行田 尚希

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最初に言っておくと、本作の主題は掛け軸の「表具」です。
そしてタイトル通り、登場人物の多くは妖怪です。

主人公の小幡洸之介(おばた こうのすけ)は人間の高校生ですが、亡き父の部屋から夜な夜な聞こえる怪音に悩まされており、ある路地裏に「困った幽霊とか妖怪をぶっ飛ばしてくれる」「大妖怪」(p.10)がいるとの噂を聞いて、藁にもすがる思いでそこを訪ねてみることにします。
するとそこで見たのは、妖怪たちのお祭り。そしてそこで、表具店を営む和装の美女・加納環(かのう たまき)と出会い、怪音に関しても相談に乗ってもらうことができます。
ただ、環も加納表具店に集うその他の面々の多くも、実は妖怪であり…。

ストーリーとしてはどのエピソードも絵に関わる怪事で、オチは「いい話」揃い、登場人物もいい人ばかりで、キャラの描き分けが弱い面子もいるので、単調に感じる向きはあるかも知れません。

本作の特徴はと言えば、「表具」という主題になるでしょう。
ただこれに関しても、洸之介が環に弟子入りすることになるのですが、まず悩むのは布選びだったりします。一朝一夕にならないのは何より技術の習得だと思うのですが…
「絵を長生きさせる」旨のことも言っていまして、表具が作品の保存に関わる仕事であることを作者も念頭に置いてはいると思われるのですが、前半で強調されるのはまず絵を「見栄えさせる」ことであって、物足りないかな、と感じていました。
が、中盤では麩糊作りの描写なども入り、保存のことに触れてくれたのは良かったかと思います。

「なかなか剥がせないようじゃ、将来表具を仕立て直すときに困るだろう? この糊なら水で溶かせばすぐに剥がれるからね」
「その将来って、一体いつですか?」
「さあ。その掛け軸の状態にもよるが……百年後かそれ以上かね」
 あまりにも途方もない数字に、俺は絶句した。眩暈がした。
 普通の人間ならば――勿論環さんたちは別だ――百年後なんか確実に生きていないだろう。そんな先のことなんて、普通の人間ならば考えない。今綺麗なら、今飾れるならそれでいいじゃん。それが普通じゃね?
 でも、表具師にとってそれが普通じゃないんだ。そうだよな。そうじゃないと、百年も二百年も、いやそれ以上前の絵なんか残らない。
 (行田尚希『路地裏のあやかしたち―綾櫛横丁加納表具店』、アスキー・メディアワークス、2013、p.155)


物はたまたまで残りはしません。先のことまで考えて、長持ちするべくして作られたものだけが長く残ります。

そしてここで、妖怪であるがゆえに長寿な環たちの時間間隔が、作品保存の長いスパンと重ねられています。もっとも、環たちはごく普通に現代社会に順応しており、割と普通の人格も持ち主なので、この辺の描写も弱いと言えば弱いのですが…。ただ、最終章のエピソードはそれなりに時間間隔のズレを感じさせるものです。
もちろん、人間であっても表具師は――というか保存に関わる者は――何百年先のことを考えねばなりません。ただ、何百年前の貴重品も「自分が生きていた間のこと」だけに「ついこの間のこと」という感覚で扱う環の描写は、そうしたタイムスケールへの一つの導入になっているでしょう。

ただし、それでも技術面の描写は少なめで、「ボロボロの絵」を修復する環の仕事そのものは描写されていません。珍しい分野を題材にするなら、もっと深入りしても良いようにも思うのですが、どうなのでしょう。
まあ、本作は新人賞受賞作で、編集主導の企画というわけでもないですし、このバランスがどこまで良いと判断されているのかは必ずしも定かでありませんが……


ところで、愛知県立芸術大学の文化財学関係の授業では、知識だけなら表具関係もある程度教わった覚えがありますが、先生が交代するとどうなるのでしょうね…
日本画専攻では、修士課程の修了作品として古典作品の模写をやっている学生が毎年一人二人いますし、保存修復に関してはそれなりの伝統があるはずですが。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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