スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

“黒いジャンヌ・ダルク”の戦記――『死神を食べた少女』

リンクフリーと銘打ってある以上、このブログの記事が知らぬ間にどこかで取り上げられていることはいくらでもあり得るのですが、本日のアクセスがやたら増えていると思ってアクセス解析を見ると、どうも百合会论坛(「论坛」=フォーラム)というところで先日の『安達としまむら』の記事がリンクさられていたのが主な原因のようで。 → これです
誰が読みに来ているのかは謎ですが。私の日本語は通じてるんでしょうか。

 ~~~

さて、今回取り上げる小説はこちらです。

死神を食べた少女 (上)死神を食べた少女 (上)
(2012/12/15)
七沢またり

商品詳細を見る

死神を食べた少女 (下)死神を食べた少女 (下)
(2012/12/15)
七沢またり

商品詳細を見る

これはWeb小説出身作品らしく、珍しいことに単行本化された今でもちゃんとWebで読むことができます。 → 死神を食べた少女
単行本にはイラストが付いていますが、その代わり最終話の後の「外伝」3話は収録されておりません。

本作の主人公シェラは貧しい村娘でしたが、タイトル通り「死神を食べた」ことをきっかけに凄まじい戦闘能力を手に入れ、兵士として戦争に身を投じることになります。
世界観としては死神や魔法も一部登場しますが、基本的には火薬も存在しない中世風です(死神は冒頭で食われて以降あまりストーリーに関わってきませんし、魔法の登場もやや唐突な感がありました)。
舞台となる地・ユーズ王国では圧政と収奪に耐えかねた人々が、敵対するキーランド帝国の支援を受け、現国王に追われた王族であるアルツーラ姫を担いで解放軍(王国からすれば「反乱軍」)を組織しているのですが、解放軍に故郷の村を略奪されたシェラは「自分から食料を奪った」「反乱軍の屑ども」を皆殺しにするため、王国軍の兵士となるのです。

そう、「人より少しだけ食欲の強い少女」(p.16)シェラの戦う動機は第一に食欲です。
欠食児童のような痩せて大食いの少女というのも、今や萌えのカテゴリーの一つと言っていいかも知れません。シェラはそれに加えて、死神の大鎌を武器に恐るべき強さと残虐さを発揮する戦う美少女でもあります。
ただ、本作の特徴は、シェラの活躍だけでなく軍隊の戦いをきっちり描いており、しかもトータルとしてはシェラの所属する王国軍は負けることにあります。
何しろ前半は負け続きですし、後世の視点から最終的に王国が負けることも早めに予告されています。

いわゆる「俺TUEE系」と言われる作品では、小物で薄っぺらい敵が主人公を引き立てるためだけに登場してやられていったりしますが(敵も強いものを「俺TUEE系」と呼ぶかどうかは議論の余地あり)、本作の前半はむしろ無能な味方上層部が主人公の引き立て役になっているかのようです。
権力闘争や出世競争に明け暮れて聞くべき意見を聞けず、人材を活かせず、士気はガタガタで脱走兵が相次ぐ、そんな状況では勝てるはずもないのですが、負け戦でもシェラだけは敵陣を突破し、敵将を討ち取ったりと功を上げていくのです。

その結果シェラは異例のスピード出世を果たし、騎兵隊を率いるようになります。
個人で強いだけの少女に指揮官が務まるのかと思いますし、シェラ自身指揮のことは副官に任せるなどと言うのですが、その勘と強さゆえのカリスマで、指揮官となってもシェラの活躍は止まりません。彼女に心酔する騎兵達が目印もなくても部隊に帰ってきたり、彼らまで死神の憑いたかのような戦いぶりを見せる様は、冷静な副官の視点も交えて、むしろシュールなものとして描かれている感があります。


さて、「戦争に正義はない」というのが、「相手を倒すこと」に正義はない、つまり正義と悪に分かれて戦っているわけではないという意味であるなら、それはあまり当然のことです。
しかし、「戦争のやり方」ということになると、ことはもう少し微妙です。戦時においても「白旗を掲げた相手には攻撃しない」といったルールはあるのです。ただし、ルールはつねに守られるわけでは無論ありません。

「非戦闘員を攻撃しない」というルールはどちらかというと近代的なもので、戦争においては敵地から略奪することで兵士の食料を確保していた時代もありました。ただ、この『死神を食べた少女』の世界ではある程度、「非戦闘員を手にかけるべきではない」という前提は存在しているようです。
そもそも、王国の重税に対して立ち上がった解放軍が民から略奪するわけには行きません。
それでも、兵士のための兵糧はどこかから用意しなければなりません。
そんな解放軍の隠れた略奪により村を襲われ食料を奪われたことが、「死神」シェラを生んだのでした。

解放軍のリーダーであるアルツーラ姫はそんな事情は知りません。解放軍の軍師ディーナーは、裏で汚いことをやりつつアルツーラ姫は綺麗なままにしておくことで、彼女を御輿として掲げているのですから。
しかしこれでは、暗愚な王クリストフを掲げて宰相ファルザームが実験を握り、民を貪っている現在の王国と、どこが違うのでしょうか。

実際、シェラの残虐な戦いを見て解放軍に寝返ったある登場人物は、結局どちらにいても汚いものは避けられないのだということをたっぷり思い知らされることになります。

一介の村娘が戦争において立ち上がり活躍するというシェラの設定はジャンヌ・ダルクを思わせますが、神の声を聞いたというジャンヌに対し、シェラは死神の力を得て、黒い鎧を纏い凶鳥の旗を掲げて戦い、敵が戦場に民間人を立てるなら、それも容赦なく殺す戦いぶりで恐れられます。
ですが、これはたんにジャンヌ・ダルクを反転したパロディなのではなく、一つ事態が違えば彼女こそがジャンヌのごとく英雄になっていたかも知れない、ということではないでしょうか。


さて、物語の後半では王国軍にもさすがに有能な将が残り、少しは勝利もしますし、前半あまりいいところのなかったヤルダーなども結構いいところを見せて散っていきますが、最終的な結末は決まっています。そこでシェラの運命はどうなるのか……というところについても、まずまず綺麗な落としどころを見せてくれます。
その上で、勝者側としても……暗愚王と奸臣の悪政を妥当し、立派な新生王国が築かれた――これは物語としては美しいものですが、解放軍もまた妥当された王国と等しく暗部を持っていたとすれば、それは単純に過ぎるでしょう。
そう簡単にめでたしめでたしでは終わってくれないというところまで「戦記」としても描ききってみせてくれた本作、見事であったと思います。

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

謳われざる勇者の凄絶な生き様――『勇者、或いは化け物と呼ばれた少女』

今回取り上げる小説はこちらです。 勇者、或いは化け物と呼ばれた少女(上)(2014/07/31)七沢またり商品詳細を見る 勇者、或いは化け物と呼ばれた少女(下)(2014/07/31)七沢またり商品詳細を見る なんと上下巻合わせて約1000ページのボリュームですが、圧巻の読み応えで、すらすら読めてしまいました。 作者は『死神を食べた少女』の七沢またり氏で、世界観や登場人物には『死...
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。