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問題を孕んでいるのはいかなる人物か――『俺が生きる意味1 放課後のストラグル』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

俺が生きる意味 1 (ガガガ文庫)俺が生きる意味 1 (ガガガ文庫)
(2013/03/19)
赤月 カケヤ

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作者の赤月カケヤ氏は第5回小学館ライトノベル大賞でデビューした作家で、デビュー作以来2年ぶりの新作となります。
この年の新人は単巻完結作品が多く、その後しばらく音沙汰がなかったりで「ガガガ文庫の新人は影が薄いな…」という印象になっていたものですが、徐々に新作を出す作家が出てきた感じです。

ただ、赤月氏のデビュー作『君とは致命的なズレがある』はサイコホラー物――それも記憶の欠落や歪みを抱えた主人公が自分を探し事件の真相を求めるという、私の用語で言えば「精神臨床」系のストーリーであって、私の場合こういうものはどうしても『姑獲鳥の夏』を基準に読んでしまいますから、ハードルは高くなります。

自分が犯人なのではないかと恐れている主人公に、刑事の養父が「俺の勘ではそうじゃない」と言うとなれば、物語の文法から言っても実際に主人公が犯人ではないと想像が付くわけです。
だからと言ってただちに真相が分かるわけではありませんが、あるものが見えずあらぬものが見えている主人公の視点から、その目に見える現実が一転し容貌を変えてしまう様を描く物語でありながら、そこに「あるものが見えずあらぬものが見えている」歪みがあることが明瞭にすぎて、衝撃はいささか弱いという印象でした。

これはサイコ系の人物の造形にも関わってくるわけですが――狂気を描くには、なかなか繊細な感性が求められます。


さて、そんな作者の新作であるこの『俺が生きる意味』はパニックホラー物です。
学校が突然外界から隔絶され、そこにモンスターが出現して人が次々と殺される中、主人公達が逃げ回りながら生き延びを図る話です。

が、同時に本作は、作中世界で一般に認知されてはいないものの、超能力の類を持った人間がいる世界観でもあります。あとがきでも「パニックホラー」と「異能力モノ」の同居が悩んだポイントだと述べていますし。
序盤でかつて存在した「超日本都市」の話などが出て来て、また髪や目の色が赤や青など多様な人間のいる世界だと語られるので舞台は遠未来のようにも見えたのですが、「現代から見て遠未来の世界」と言うよりむしろ「現代日本に近いが、少し異なる歴史と現状を持った世界」という感じのようです。
この辺は『トカゲの王』を思い出すところもあります――あちらの場合、2700年前に一度滅びた世界でありながら禁書とかポケモンとか具体的なエンターテインメントまで現実の日本と共通しており、しかもこの世界の2700年前を描いたと思われる『アイで空が落ちてくる』も現実の日本準拠というのが不思議ではあるのですが…これも並行世界の可能性のなせる業なのか…?

それはそうと、パニックホラーの醍醐味の一つは、極限状態に追い込まれた人間の振る舞いです。本作『俺が生きる意味』でも、人間同士の争いになったり、主人公も人を天秤にかけて一方を見捨てることを強いられたりと、様々な事態が生じます。
おまけに主人公は二人の女子に同時に告白されかかったところで、それに返答する前に異変が発生しており、ここには三角関係の修羅場も絡んできます。

もっとも、怪物に襲われて生命の危機という状況下で痴情の縺れで争っている等というのは、普通に考えればきわめてロクでもないことです。
それを読ませるものにするためには、騒動を起こす人間たちが――最初からおかしかったにせよ、途中でおかしくなったにせよ――いかに“まともでないか”を描くことが要求されます。
たとえば『ハカイジュウ』の場合、ヤバい奴らは目付きからしてイカれた感じをよく出していますし、しかもそんな奴らがヤバい人格ゆえに頼りになり、主人公たちが助けられたりする場面もあることが、彼らの存在感を増しているのです。

実は本作、2ヶ月連続刊行で来月2巻が発売予定となっており、それゆえ1巻で区切りが付かないこと、怪物の正体や学校が隔離された理由などが説明されないことは予想の範囲内でした。動物学好きの主人公が冒頭で進化論の話をしているのも真相に関係がありそうではありますが、それも不明です。
しかしそれだけでなく、人物についても明かされていないことが多いのです。たとえば主人公が幼い頃から色々と教わってきたという「師匠」の正体は不明ですし、クールビューティーな女の先輩がデブのオタク男(一応、主人公の友人)のために命を懸けている事情(恋愛関係とも違うらしい)も未だ説明されていません。
そんなわけで、人物造形についても未だ判断を保留せねばならない状況です。上記のような前作への評価もあり、期待半分、不安半分という部分もないではありませんが……
ただ、ヒロインの一人が「まともでない」様子を見せているのはこの作者ならではですね。

それから、作中人物が口にしている「主人公トリック」云々がこの作品そのものへのメタ言及だとすると、まだ大仕掛けが隠されているのかも知れません。
そう思うとタイトルも妙です。生命の危機が迫って、とにかく生き延びることが問題になるところで「生きる意味」って何事でしょうか。これも真の意味は後で分かる仕掛けかも知れません。

そんなわけで、評価は来月の2巻次第、でしょうか。


キミとは致命的なズレがある (ガガガ文庫)キミとは致命的なズレがある (ガガガ文庫)
(2011/05/18)
赤月 カケヤ

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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