オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
孤独な怪物たちの寄り添い――『アリストクライシ I for Elise』
しかし、そもそも普段読んでいない人に「ライトノベルとはこういうものです」と紹介するなら、定番の人気作品を挙げればいいわけで、それはそうたくさんはあるまい……と言われると、このブログの内容にも見て取れる通り、私は人気作品を押さえているとも言い難いのでした。
こと、大学の先生として勤めている方に「可能なら授業で使おうかと」等と言われると、やはり皆に通じるネタでないと……と気遣ってしまいますからね。
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そんなことはあまりおかまいなく、今回取り上げるライトノベルはこちらです。話は手短になりますが…
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『B.A.D.』の綾里けいし氏の新作で、Web連載されていたものに修正・書き下ろしを加えた単行本化となります。
「穴蔵の悪魔(アリストクライシ)」とは、「領地」と呼ばれる異空間に潜む怪物です。ヒロインのエリーゼ・ベローは「穴蔵の悪魔」の少女ですが、同族である「穴蔵の悪魔」に家族を奪われ、「穴蔵の悪魔」を皆殺しにしようと復讐の旅を続けています。
主人公のグランは「名前のない化け物(グラウエン)」と呼ばれる、死体から作られた怪物です。墓の中に封じられていたのをエリーゼに掘り出され、旅に同行しています。
「穴蔵の悪魔」についてはそれほど明瞭ではありませんが、死体から作られた怪物で全身に縫い目があり、さらにその名前も制作者の名に由来するといった設定を見れば一目瞭然、「名前のない化け物」のモデルはフランケンシュタインの怪物です。
ただし、フランケンシュタイン博士の怪物は造り主に恐れられて捨てられ、博士を恨みます。そして、伴侶を作ってくれという願いも拒絶され、悲劇的な最期を迎えます。
他方、本作のグランも人々に恐れられ迫害されて、墓に埋められることになったわけですが、「感情を持たない」とのことで、人を恨むこともありません。
いや、彼に本当に感情がないのかも、読んでいけば実態の見えてくることですが……とかく、その点で彼は復讐の旅を続けるエリーゼとは対照的です。
けれども本作では、この世に同胞を持たない孤独な「名前のない化け物」は、同胞全てを敵に回した孤独な少女と出会い、お互いにこの世で唯一、寄り添える相手を見出すのです(フランケンシュタインの怪物との分かれ目)。
残酷で悲劇的でありながら、美しい物語です。
スタイルとしては、長く連ねた―(ダッシュ)の使用や擬音の使い方、各章の冒頭に来る詩といった文体、それに血腥い描写は、『ホラーアンソロジー』(“赤”と“黒”)収録の綾里氏の短編と比べても『B.A.D.』に近い感じです。主人公に感情がないということになっているため、直接的な感情描写は控え目で、淡々とした事実記述に近い箇所もありますが、それでも作風としては近い印象ですね。内的的には異能バトルの要素が強めですが。
それでも――人間の解体といった血腥い描写が多く、サブキャラクターに関しては救いのない展開も多々ありながら――『B.A.D.』よりも後味が良く醜悪なグロテスクさの印象が抑えられているのは、感情描写が生理的な不気味さに訴える部分ではなく、二人の美しい関係に集中しているがゆえでしょう。
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人間の弱さと強さに接する怪物――『アリストクライシII Dear Queen』
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