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主人公とヒロイン、(文字通り)二人で一人――『ヴァルキリーワークス』

京都国立博物館で開催中の「狩野山楽・山雪」展を観てきました。
この博物館は、前の大学の古美術研究旅行で来て以来3年半ぶりくらいではないでしょうか(もう1年京都に住んでいるというのに…)。
この二人が――京狩野を取り上げた我執なら必ず掲載されるような代表作が、海外の美術館所蔵のものも含めて集まっているので、多少なりとも興味のある方は必見です。

狩野山楽・山雪図録

特にこの図録表紙の山雪《雪汀水禽図屏風》は、胡粉の盛り上げに銀泥を乗せた波は実際に盛り上がりがあるので、角度を変えると光の反射も変化し、波の立体感が感じられるのは、実物を見ると驚きます。

アイルランドのチェスター・ビーティー・ライブラリィ所蔵《長恨歌絵巻》↓なんてものも来ていました。

Chinese Romance from a Japanese Brush: Kano Sansetsu's Chogonka Scrolls in the Chester Beatty LibraryChinese Romance from a Japanese Brush: Kano Sansetsu's Chogonka Scrolls in the Chester Beatty Library
(2009/12/15)
Shane McCausland、Matthew P. McKelway 他

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 ~~~

展覧会の話はここまでで、今回もライトノベル紹介いきます。
今回は『這いよれ!ニャル子さん』の逢空万太氏の新作『ヴァルキリーワークス』です。『ニャル子さん』11巻と同時発売です(当然と言うべきか、店頭に並んでいる量はかなりの差がありましたが…)。

ヴァルキリーワークス (GA文庫)ヴァルキリーワークス (GA文庫)
(2013/04/16)
逢空 万太

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「それじゃ――キス、しましょうか」
「いきなりですか!?」
 驚愕に目を見開くフェルスズ。
「フェル子さん一人であのでかいのに勝てます?」「それは、その……か、勝てますとも! 」
「本当に?」「……多分」
「本当に?」「……」

 理樹が迷い込んだのは色彩を失った世界そこに一人、色を纏う少女の存在があった彼女の名はフェルスズ――「戦乙女」なのだという。
 彼女との出会いで、理樹の平穏な日常は崩壊し、知られざるこの世の真実に触れることとなる。

 ――そして。
 はじめての、がったい。

 残念系ヴァルキリーと少年が織り成すアクション×ラブコメディが開幕!


――と、このあらすじを見ても、戦うヒロインとの出会いで非日常に巻き込まれる少年、さらにヒロインの愛称が「○○子」であるところまで『ニャル子さん』を踏襲しているのが分かります。
が、他方で、強いけれどもやたら残虐であったニャル子と違い、今回のヒロインはかなり頼りないようで「駄ルキリー」とか仇名されてしまいます。
口絵を見るとその印象はいっそう強まります。

ヴァルキリーワークス口絵

真尋の入浴時に女性陣(いずれも邪神)が押し入ってくるのは『ニャル子さん』では何度見たか数え切れないパターンですが、今作では逆のようで。
フェル子さんことフェルスズが主人公・理樹(りき)の方から引っ張り込んでいます。
この、やたらと責めで、あの手この手でフェルスズをいじる主人公が何とも独特のいい味を出しています。

「何でもいいんで、それ早く貸してください」
「リキがあると、余計に被害が大きくなるじゃないですか!」
「えー。だってフェル子さん一人じゃ、ラスク? トースト? でしたっけ。あれを退治できないし、それなのにキスは嫌なんでしょ? だったら僕がやるしかないじゃないですか!」
「い、嫌なわけじゃ……でも、その、心の準備が」
「あ、リスの毛が逆立ってますよ。多分あれ、怒りモードって奴ですね。あー、これ壊滅だわー。この辺一体壊滅だわー。僕、俯瞰で物事を見られる人間だからこの先どうなるか分かるわー。というかあいつが出てくる前から分かってたわー」
「わ、分かりましたっ! すればいいんでしょう! しますよ、ええ!」
 可哀相なくらい顔を真っ赤に染め上げ、フェルスズは投げやり気味に叫んだ。
 わーい、計画通り。
 理樹は心の中で快哉を叫んだ。
 (逢空万太『ヴァルキリーワークス』、ソフトバンククリエイティブ、2013、pp.14-16)


そんなわけで、今作ではむしろ余計なことを言って漫才に持ち込むのも主人公の方です。

フェルスズを積極的に居候させるくらいですから、非日常の事態に対する姿勢も真尋とは対照的で、積極的です。ただ、『ハルヒ』のキョンのように日常に退屈して非日常を求めているというのとも違って、あるものをあるものとして受け入れ、特に楽しいことを楽しむという姿勢がまた面白いところでしょう。

ヴァルキリーの名ですでに分かる通り、世界観のモチーフは北欧神話で、フェルスズは地上にバラ撒かれた「神威(ケニング)を回収する任務を帯びており、当然バトルもあります。
しかし、『ニャル子さん』より主人公が弱い分ピンチでシリアスになるかと思いきや、味方がそこでからかわれるキャラであるせいか、むしろ戦闘シーンのコメディ色はこちらの方が強い気がします。
『ニャル子さん』の場合、ニャル子達が攻める時にその残虐さやらどこかの特撮から借用された決め技やら敵側のしょうもないオチで笑わせているのに対し、こちらではやられた味方がギャグ調の倒れ方をしていることをやけに丁寧に描写していたりしますし。この方が間が抜けて見えます。

さて、これまた王道というか、ただの人間のはずの主人公・理樹にはなぜか神威を使える能力があり、頼りないフェルスズと力を合わせて戦うことになります。それがあらすじの「合体」です。
主人公が女顔の美少年なのも、今までのところ氏の作品においては不動のことですが、今回はそれが「合体」で生きてきます。
主人公とヒロインが文字通り合体して戦うのは、少し珍しいかも知れませんが。

『ニャル子さん』の場合、1巻の時点で特に伏線を残すこともなかった代わり、「いつかニャル子が宇宙に帰る」という定番の終わりの可能性をも事実上消していたのと異なり、本作でフェルスズが地上に滞在しているのは神威集めという(おそらくは)終わりの見える目標のためですし、また理樹が神威を使える理由も明らかにならないままです。その辺、続刊を念頭に置いた「新作」ということなのかも知れません(あとがきには「そろそろ新しい作品を書いても怒られないのではないか」等と書いていますが、デビュー作『ニャル子さん』に続く「新しい作品」ということなら、『深山さんちのベルテイン』は…?)。

パロディネタ、特に特撮ネタの多用食へのこだわりは『ニャル子さん』と同様で、揺るぎません。主人公が弁当を作るシーンで栄養バランスにも配慮するなど、かなり凝っています。
そもそも「合体」からして、『仮面ライダーW』ネタですし(目次からして「Maximum Drive」とか「ふたりでひとり」といったネタが目立ち、あとがきを読むといっそうよく分かります)。

基本的には、前作の路線を踏襲した新作という感じです(『深山さんちのベルテイン』と比べても)。
月並みな言い方ですが前作のファンならばお奨め、上述のように独自の面白いモチーフもあり、というところです。

深山さんちのベルテイン (GA文庫)深山さんちのベルテイン (GA文庫)
(2010/12/16)
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深山さんちのベルテイン 2 (GA文庫)深山さんちのベルテイン 2 (GA文庫)
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