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スイーツ、アイドルの将来、そして政治が動く時――『大日本サムライガール 5』

お急ぎ便で当日配送とは言うものの、夜9時を過ぎて届くとは宅配業者も大したもので……

 ~~~

昨日は研究室の新入生歓迎会でずっと飲んだりしていたため、更新できませんでした。
前の大学は家から1時間くらいかかったので、たいてい宴会の二次会までは参加できなかったのですが、今は大学の近くに住んでいて、終電の心配も必要ないため、ひとたび飲み会となると日付が変わるまで帰宅しないことがしばしばです。
ODの方ともたっぷり話したりしたので、有意義であったと思いますが。

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今回取り上げるライトノベルは『大日本サムライガール』の5巻です。

大日本サムライガール 5 (星海社FICTIONS)大日本サムライガール 5 (星海社FICTIONS)
(2013/04/16)
至道 流星、まごまご 他

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 (前巻のレビュー

400ページを超えるボリュームとなった今巻は6章構成で、第1章は左翼アイドル・槙野栞の加入でTV番組『ひまりんプロジェクト』が盛り返し、ますます上り調子のひまりプロダクションが描かれます。ついでに栞をインテリアイドルとして売り出す方針も。
2章から5章が新事業とそれにまつわるあれこれで、最後の6章はそこまでから少し切れてふたたび政治の話。知名度急上昇の日本大志会に各方面から政治勢力が接近、そして驚異の大物まで……というところで引きとなっています。主題である政治の話を適当なバランスで入れつつ引きをも考えた構成となっていますね。

で、今回の新事業はドーナツです。ドーナツ屋のチェーン店を展開するのです。
発端は、今やひまりプロダクションの副社長である由佳里が、友人がドーナツ屋を始めたのでメディアに取り上げさせたい、と言うところから。

「ドーナツって言えば……やっぱりテレビじゃないですか」
「そうか?」
「そうですよ。テレビって言えば女の子向けのスイーツなんです。『テレビ=スイーツ』と公式を作ってもいいくらい。テレビとは、まさにドーナツなんです」
「そりゃ、言わんとしてることはわかるぞ。テレビを使って最大級の効果を上げられる分野は、若い女性層を相手にしたものだ。特に、ケーキやお菓子なんかの甘い物や、最新のファッションな。この女性層の購買パワーには度肝を抜かれるよ。最もテレビの影響を受けやすい層のひとつだ、日本経済は、彼女たちがいなくちゃ成り立たん」
 (至道流星『大日本サムライガール 5』、星海社、2013、pp.87-88)


まあ、私どものような者は甘い物を食べはしても、TVのスイーツ特集など観ませんからね。
『仮面ライダーウィザード』に毎回のように登場するドーナツももしやそうした事情が…

例によって、ビジネス展開とマスコミの関わりに関する怪しい話もたっぷり。

「考えてみな。フランチャイズに加盟するために三〇〇〇万かかるんだぞ? 店舗作ったりして原価は一五〇〇万、とすれば半分の一五〇〇万円がフランチャイズ本部の利益になる。一〇〇〇人加盟者がいたら、それだけで利益一五〇億ってことだ。仮にメディアを総動員したら……一〇〇〇人なんてすぐだと思わないか?」
「せやけど、三〇〇〇万の現金をすんなり出せる人って、そないに仰山いないやろ。そのレベルを一〇〇〇人も集める作業っちゅーのは……テレビでも結構ハードル高いんやないの?」
「素人だなあ。別に持っていなくても構わない。金融機関や政策投資銀行から借金させればいいんだよ。夢さえ見てくれる人なら、その辺に普通にいる一〇〇〇人で十分なわけだ」
「そ、そういうもんなのか……」
 栞にはピンとこないようで、困惑した様子だった。
「もちろんそういうフランチャイズはあっという間に稼いで、一瞬で消滅したり、トラブルになったりしたけどな。ほら、最近だと、自然エネルギー――ソーラーパネル関連とかな。冷静に見れば『どんだけ発電コスト高いんだよ』ってツッコミ入れたいところだけど、すごい規模のビジネルにしやがったよな。あれなんて、『Kagura』がとても呼ばないレベルの仕事になってるよ」
「太陽光発電なぁ……。一時期はニュースで報道されまくっとったけど、そういう視点で見ると、世の中えろう適当なもんなんやな……」
 (同書、pp.69-70)


さて、ここで颯斗が、ちょっと宣伝するだけでなく本格的に手を入れれば事業として育つのではないか、と言い出したことから話は急転、諸事情あって、広告塔として業界トップアイドル・片桐杏奈(かたぎり あんな)を担ぎ出すことになります。
そんなわけでこの巻の表紙は杏奈です。1巻から登場していましたが、イラストになった覚えがないので分かりませんでした。

しかし杏奈自身の希望から、事態は杏奈の移籍騒動に発展。とは言え、杏奈を抱えている西プロダクションとしても、トップアイドルをそう簡単に手放すはずがありません。ことは株式市場を通した駆け引きにまでなります。
M&Aというのは作者がデビュー作(こちらも『世界征服』と改題して同月発売)でも、『羽月莉音の帝国』でもたびたび描いてきた題材で、過去の作品の事例に比べれば、今回は決して巨大な相手を買収しようとする厳しい戦いというわけではありません。ただ、業界の大手と揉めるのはプラスにならないので、敵対的な買収を仕掛けるのではなく微妙な駆け引きが行われます。

と同時に、杏奈の心情も印象的です。
ファッションデザインに政治にと働いている日毬に憧れ、日毬のようになりたいと思っているという彼女。

「杏奈さんって意外とチャレンジャーなんだな。トップモデルで、アイドルとしても業界の頂点なのに、別の新しいことをやろうとしてるなんてさ。素直に感心したよ」
「私ね、社長になりたいの。自分の事業をしてみたい。昔は私、タレントを見極める目を持ってるから、スカウト事務所なんかもいいなー、なんて考えてたことがある。でもね、私も成長していろんな仕事を見るようになって、もっと大きな仕事やってみたいって思うようになったんだぁ」
 (同書、p.204)


アイドルとしての寿命は長くない、女優としてやっていくには演技が上手いわけでもない、そんな中で将来をどう考えるが…

「だから私、女優にはあんまり乗り気じゃなくて……西プロダクションがアレンジしてくれた仕事もね、私の素にあった訳だけを選んでくれたから、なんとかこなせたんだと思う。まったく性格の違う人を演じるのは無理。きっとそれは、演じる人生っていうのが、私に向いていないから。私はいつでも私であって、他の誰のものでもない。自分に正直に生きて、自分が楽しいと思える居場所を確保したいって思う。それが一番、みんなのためにもなることだと感じるんだよね」
 (同書、pp.205-206)


そこで言い出すのは、いささか――いやかなり、大それた夢かも知れません。けれど、確かな意志があり、挑戦する覚悟もあります。

かくして、業界の2トップを揃えてますます盛況のひまりプロダクションです。

そんな中、先の4巻で加入した栞は、政治の場面では左翼(マルクス主義者)として主張をする場面はあまり目立ちません。むしろ頭が良くて、TV等に出演するとなれば期待される役割をやれるというキャラのようです。

「佐々倉さんは右翼として、栞に対する抵抗感はないの?」
 興味を持って俺は訊いた。
「まったくありません。栞さんは、世の中を突き放して冷静に見ている印象がありますね。そういうタイプだと、思想が転向したりすることもないでしょう。いかに説得しようとも、栞さんが右翼や保守陣営に与することはない。しかし逆に、自分が寄って立つ思想にも入れ込んでいないということです。本人は左翼活動家と言い張っていますが、実のところ冷めすぎていて、まったく熱心には見えませんね」
「確かに指摘されてみれば……日毬は驚くほど熱烈だけど、栞は冷めきってる感じだな。メディアでも政治的発言をしてる二人だが、温度差があるってことか」
「栞ちゃん、左翼活動なんて何もしてませんよね。デモに参加するわけでもないし、誰かに政治議論を吹っかけることもない。せいぜい、紅旗新聞(あかはた)にときどき記事を寄稿したりするくらいですけど……それだって依頼があるやってるだけでしょうし」
 (同書、pp.46-47)


特に気にかかったのは以下の発言でした。

「国力と言いおるけど、すでに十分な水準になってるんとちゃうの? これ以上発展を求めるちゅーんか?」
 栞が問い質した。
 (同書、p.29)


というのも、生産力の成長に対して生産関係(雇用者―労働者の関係)は変化しにくいことから、そのズレにより革命が起こる、とすることは、高校世界史の教科書にも載っているマルクス主義の基本教義であり、それゆえ生産力の成長が続くことはマルクス主義の大前提です。それゆえ、ヨーロッパでも共産党は「脱成長」を受け入れていません。
そしてこの前提は、シモーヌ・ヴェイユ『自由と社会的抑圧』「生産力宗教」として批判したものでもあります(ヴェイユは社会運動の闘士でもあり、これはマルクス主義の鋭い内部批判であることは、とりわけ注目しておく価値があります)。

このようなマルクス主義に対する栞の距離感も、上で引用した説明である程度は納得した感です。


ちなみに、日毬が17歳の誕生日を迎えており、作中ではそろそろ1年が経っているようです。1巻が出たのが昨年の7月ですから、リアルタイムと比べて作中での時間経過の方が若干早いくらいでしょうか。
前の選挙で民政党が大敗を喫して自友党が政権に返り咲いたという記述もあり、ほぼ現実の情勢に即しているようです。


世界征服 (星海社文庫)世界征服 (星海社文庫)
(2013/04/11)
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本当の政治的方針の分かれ目――『大日本サムライガール 6』

まずは前回の続きから。 日本が戦後70年近くに渡り戦争に巻き込まれずに来たのは、何と言ってもまずはアメリカの核の傘のお陰です。 その分日本は、「国防」に関する多くをアメリ
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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