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縁とは異なもの――『なにかのご縁』

今回取り上げる小説はこちら。野崎まど氏の新作です。

なにかのご縁―ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る (メディアワークス文庫)なにかのご縁―ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る (メディアワークス文庫)
(2013/04/25)
野崎 まど

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前作(短編集は除く)『2』では、まさにそれまでの5作全ての続編(2作目)にして集大成と言うに相応しいものを見せてくれた野崎氏だけに、新作ではある種の仕切り直しとなるのは予想されましたが、さてあらすじを見てみると……

 お人好しの青年・波多野ゆかりくんは、あるとき謎の白うさぎと出会いました。いきなり喋ったその「うさぎさん」は、なんとその自慢の長い耳で人の『縁』の紐を結んだり、ハサミのようにちょきんとやったり出来るのだそうです。さらにうさぎさんは、ゆかりくんにもその『縁』を見る力があると言います。そうして一人と一匹は、恋人や親友、家族などの『縁』をめぐるトラブルに巻き込まれ…?
 人と人との“こころのつながり”を描いた、ハートウォーミング・ストーリー。


同作者の過去作品を読んでいると、「ハートウォーミング・ストーリー」等と言われても疑いたくなりますが、実物を手に取ってみて、今まで毎回ネタになっていた著者紹介が珍しく真面目だった辺りでもしや、と思い始めます。
結論から言えば、実際、どんでん返しや不気味な展開はありません。
あらすじ詐欺じゃないかと思っても騙される、どう転んでも騙されるとも言えますが…

「うさぎさん」は表紙に描かれている通り、外見はまったく普通の動物のうさぎです。ただ、人間の言葉を喋り、人間と同じものを食べ、おまけにやたらとふてぶてしい性格ですが。
何しろ、最初の方でいきなり主人公の良縁を切ってしまいます。そして直前まで縁が大事だと言っていたのが、まあ気にするなと言い出す始末。この辺のユーモアは相変わらずです。
そんなうさぎが、「なにかのご縁」と言う時の「なにか」――まあ縁結びの神のようなもの、だと言うのですね。

ただ、縁というのが何かというと、曖昧なものです。
あらすじにもある通り、恋人の縁、親友の縁、家族の縁と色々出てきます。
また縁は本人たちの心とも別物だとうさぎは明言します(主人公は実例を見て、まったく無関係でもないと感じるのですが)。想っている相手と縁が結ばれるとは限りません。
異性との縁を結ぶ話もありますが、彼らのその後のことはあまり描かれません。縁が結ばれることと恋愛が成就することは同義ではないかも知れないのです。

また、全4話の内、縁を結んだり切ったりする話は第1話と第4話だけです。残りの2話はあくまで既存の縁を確認する話です。「確かに強固な縁があった」というのは良い話ですし、また主人公の「縁が見える」能力も役に立ちますが、縁に対してできることは少ない、ということでもあります。
実際、うさぎも兆しが見えねば縁は結べず、強固な縁を切るのは難しいと言っています。

そう考えると、主人公が縁のことで一喜一憂し、他人の縁のために奔走していたのは何だったのでしょうか。
しかし、この何だか分からなさこそが「なにかのご縁」という曖昧さに相応しくもあります。


以下は、本作および過去作のネタバレも踏まえて余談めいた話を。




今作の主人公は大学生ですが、舞台となるのはもっぱら自治会の活動であり、ヒロインの西院澄子(さい すみこ)は自治会の総務部長として腕を振るう、超が付くほど優秀で学内には敵う者のいない女性です。
『[映]アムリタ』~『2』までのシリーズには怪物的な能力を持つ女性が必ず登場していましたし、おまけに名前も「さい」は最原最早と共通しているだけにやはり疑いたくなりますが、彼女は決して最原最早のように人々を操り振り回す恐るべき存在ではありませんでした。

また、西院澄子はかつて付き合い始めたばかりの恋人を亡くしており、これが本作のクライマックスに関わってくるのですが、ここにおいても彼女はあくまで、死んだ恋人の影を引きずる普通の女性です。

これも(全体のストーリー共々)肩透かしと言えばそうですが、考えてみれば、『小説家の作り方』の紫も怪物的な能力を持ちながらそれを振るって災厄をもたらしたいわけではなく、むしろ人並みの悩みを抱えた存在でした。

さらに、『[映]アムリタ』における最原最早もやはり付き合い始めたばかりの恋人を亡くしていて、周囲の人には「魔女」最早がその死に関わっているのではないかと考える者達もいましたが、そうではありませんでした。
ただ、喪った恋人の代わりを作ることが出来てしまうのが最早の怪物たる所以であり、『[映]アムリタ』の描く恐怖だったのですが……

しかしこの符号は、やはり何かを感じさせます。
『なにかのご縁』を逆さにして読んでも、『[映]アムリタ』のような恐怖や意外な仕込を見つけ出すことはやはり難しいでしょう。
ただ、西院澄子が最原最早のように成り得たかも知れない存在だと考えると、主人公が彼女の死人との縁を切ることができたことは、世界の運命を変えたのかも知れません。

もっとも、縁が結ばれたり切れたりしたらどうなるのかはっきりしていない以上、そんなことは確かめようがありません。
縁とは、たとえ見えてもやはり漠然としたものですが、しかしどこに繋がっているやら分からない、数奇なものです。

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