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これはゲームで彼らはプレイヤーなのか――『強くないままニューゲーム Stage1 -怪獣物語-』

今回取り上げるのライトノベルはこちら、本日発売の入間人間氏の新作です。

強くないままニューゲーム Stage1 -怪獣物語- (電撃文庫)強くないままニューゲーム Stage1 -怪獣物語- (電撃文庫)
(2013/05/10)
入間人間

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 昼休み前の平和な教室を、突然巨大怪獣が襲った。俺は、踏みぶされて死んだ。
 ――直後。
 謎のカウントダウン表示と、コンティニュー選択の画面が視界に現れた。
 「Yes」の表示を選ぶ。すると、昼休み前の、『死ぬ直前』の教室に戻った。
 つまり、生き返った。
 そして、俺と敷島さんの二人だけが気づく。
 この世界が『ゲーム』だということ。
 再びあの巨大怪獣が襲ってくるということに。謎のカウントダウンの数字がゼロになるまで。
 俺たちは、強くないままニューゲームを繰り返す。


このタイトルとあらすじを見れば、ゲーム系のタイムループが期待されます。

入間氏は結構な数の時間移動ものを書いていますが、どちらかというとゲーム的想像力の印象は希薄でした。
タイムループと言えばアンソロジー『19―ナインティーン―』収録の「19歳だった」がありましたが、この作品ではタイムループに閉じ込められた主人公が参考として、ループを描いた作品を参照するという自己言及的な場面があります。ここで出てくる作品が『タイムリープ』(高畑京一郎)に『リプレイ』、そして『七回死んだ男』というのも、古典的なSF寄りの傾向を感じさせます。他の作品では『バック・トゥー・ザ・フューチャー』やらウェルズの『タイムマシン』やらへの言及もありましたし。
まあ、ループの原因がある登場人物の心理的なものであるという点で、この「19歳だった」は『涼宮ハルヒ』の「エンドレスエイト」に近いものですが、そもそもの「エンドレスエイト」も必ずしもゲーム的ではありませんでした。語り手のキョンがループの記憶を持っていない、つまりプレイヤーの位置にいないわけで、原作小説では最後の一巡しか描かれなかったというのが大きいでしょう。

『昨日は彼女も恋してた』『明日も彼女は恋をする』や『アラタなるセカイ』等で描かれる、時間移動が必ずしも良い結果をもたらさない物語も、大それた技術に手を出してしっぺ返しを受ける人間というSFの古典的な題材だったのではないでしょうか。

もっとも、「ゲーム的なループ」と「非ゲーム的なループ」の区別がどこにあるのかと言えば、確実なものではありません。『All You Need Is Kill』等、当初は主人公が能動的に「リセット」しているわけではなくやはり「ループに閉じ込められる」というべき話ですし、さらにループの原因も(上記のような「登場人物の心理的なもの」ではない)きっちりしたSF的な設定が用意されていますが、やはりゲーム的ループの名作です。
『All You Need Is Kill』がいかにゲームの構造を反映しているかの分析は東浩紀氏が詳しく行っていますが、それらの条件をいくつか満たせば「ゲーム的」というわけでもなく、つまるところこれは読者の感覚で判断するより他ないことです。

さて、この『強くないままニューゲーム』はと言うと、あらすじの通り「世界が『ゲーム』だということ」を入念に強調しています。
カウントダウン(時間が経過するにつれて減るだけでなく、リプレイのたびに2時間ほど減っているので、残機数の役割をも果たしているのでしょう)やコンティニュー選択の表示(もっとも、実際には主人公の意志で選択することはできないのですが)が主人公たちの視界に表示されますし、彼ら自身この「クソゲー」(ただの人間が準備期間もないまま巨大怪獣と戦わされるのですから!)の攻略法について積極的に話し合います。
強大な敵と戦って死んではループする、というこの構造は『All You Need Is Kill』に近いものです。それに、ゲームクリアして「セーブ」されてしまえばもう取り返しがつかないといった「取り返し可能なこと」と「不可能なこと」の関係についての意識も共通しているものはあります。

ただし、同じループの経験者と出会っても、一度にループできるのは一人、つまり一方がプレイヤーならば他方はNPCであった『All You Need Is Kill』と違い、本作の「プレイヤー」は主人公のアリッサ・藤とヒロインの敷島弓子の二人です。
まあ、オンラインゲームのようなものと考えればこれはさほど不思議なことではないかも知れません。ただ、こうして二人でともに経験を重ねて攻略法を探ることができる、という状況は、まったくの孤独な戦いと比べるとだいぶ印象を変えます(それゆえ、『All You』の主題の一つであり入間氏も他の作品ではしばしば扱ってきた孤独の感情は、少なくともこの巻ではあまり問題になりません)。


ただし、ポイントはこの後です。
そもそも、このように「なぜかループに放り込まれた」という物語は、要するに「ゲームをやらされている」わけであり、主人公たちはプレイヤーというよりむしろゲームの駒として翻弄されているようにも見えます。
そして実際、後半では「プレイヤー」としての彼らの立場を相対化するような展開が訪れます。
あとがきでは「ゲームを開催した真の黒幕とか」が出てくる作品ではないと書いていますが、それを差し引いても、「世界がゲームである」ということはどういうことなのか、という点について巧みな捻りを加えている作品です。
タイトルに「Stage1」とある通り続きがある、というかこのStage1はゲームとしては「チュートリアル」扱いのようですが、なかなかに楽しみな作品です。



ひとまず作品紹介はここまで。続きでは少しネタバレに触れる話をします。

19―ナインティーン (メディアワークス文庫)19―ナインティーン (メディアワークス文庫)
(2010/12/25)
綾崎 隼、紅玉 いづき 他

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作中で起きた物理的な出来事も、周りの人物の記憶も「コンティニュー」すれば「リセット」されてしまい、藤と敷島の記憶とカウントダウンだけが引き継がれているというところが彼らの「プレイヤー」たる所以です。
しかし後半、一度「クリア」したところで、今度は二人の記憶とカウントダウンまでリセットされ、前にセーブされた箇所から別の展開が描かれます。
最終的に、これはルートの分岐だったことが分かります。
ここで彼らの地位は一気にプレイヤーからゲーム中のキャラクターに転じます。

2巻ではこの続きが描かれるとしたら、二つの物語が(そう言って良ければですが)平行して描かれることになります。
しかし物語として、別々のルートがただ独立して描かれるだけなのでしょうか。
藤と敷島が「別のルートの自分たち」が存在することを知るような展開もあるかも知れません。

さらに、主人公たちの記憶もリセットされ得るとしたら、これが「始まり」であったのかどうかについても疑問の余地が生じます。
何しろ、「Ver1.1に更新されました」の表示から始まって、途中で「Ver1.1.1に更新されました」の表示とともに二人の記憶とカウントダウンもリセットされているのですから、遡ってVer1があった可能性は――

ゲーム中のキャラクターは「他のルート」のことなど知りません。「他のルート」のことを知り得るのはプレイヤーだけです。
しかし、プレイヤーが一度作中キャラクターに落とされたこの物語にあっては、作中キャラクターからの再昇格もあり得るでしょう。そうなればゲーム的想像力に対する捻りとして、そもそもゲームはいかなる限りでゲームなのかという問いとして、興味深いものが見られるかも知れません。

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