オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
利益だけを考えるなら100年先などどうでもよいが…
天気はいいのに晴天の霹靂か、と思いましたが、振り返ると山の向こうから土煙が上がっていたので、どうやら土砂崩れだったようです。帰りに見てもその痕跡は見当たらなかったので、道に被る範囲ではなかったようですが、小規模な雪崩の痕跡などは他にも見ましたし、ねぇ……
道ではなく乗り物の窓から見た光景では、もっと大規模に斜面が崩れつつあるところもありました。
ただし、観光客が事故に遭うというレベルの話になると、必ずしも平地で交通事故に遭う確率と比べて危険が大きいとも限らず、たまたま事故があったからと言って客が減るのは、観光事業や山小屋の経営者としては不当な風評被害かも知れませんが……
それはそうと、土を保持するのに貢献しているのは森です。
森がきちんとしていないと、土砂崩れなどの危険も大きくなります。
この本↓は以前にも少し取り上げたことがありますが、そもそも森林保全などということを事業として行えるのは、サントリーが非上場企業なればこそでしょう。
![]() | 水を守りに、森へ: 地下水の持続可能性を求めて (筑摩選書) (2012/01/16) 山田 健 商品詳細を見る |
「株主利益」を言い出せば、短期間で――少なくとも現在の株主が健在の内に――利益を出し、会社を成長させ、株価を上げていかねばなりません。そうなったら、数十~100年先にしか成果の出ない森林保全など、やっていられません。
今ある資源を使い潰すのが一番「利益」になります。
多くのビール会社や清涼飲料水会社は、川の水や工業用水、水道水などを浄化して、製品の原料にしている。従って、それらの工場は、基本的に物流のよい場所に立地している。原料を運びこんだり、出来た製品を出荷するためには、高速道路に近いところとか、海辺の港のそばなどのほうが便利なのは、言うまでもないだろう。
ところが、サントリーの工場、しばしば、とんでもなく不便なところにあったりする。
要は、良質な地下水が豊富にある場所を第一条件にして工場立地を選んでいるからなのだ。
かつて日本で最初のウイスキー生産に乗り出した時、仕込み水に最適な地下水を探して、全国を調べ回った際の経験が、企業のDNAによほど深く刻み込まれてしまったのだろうと思われる。
(山田健『水を守りに、森へ 地下水の持続可能性を求めて』、筑摩書房、2012、p.12)
これも今となっては、地下水でなくても製品の質にそうそう違いはないかも知れません。むしろ、物流の良いところに工場を移した方がコストカッには良いのかも知れません。
しかし、こうして土地資源に密着し、数十年後のためにそれを守っているというのは、まさしく「日本の企業」と言うに相応しい姿勢ではないでしょうか。こうして土地に密着しているならば、簡単に生産拠点を海外に移すわけにも行きません。
もちろん、株式を公開して外国人株主を入れたらこうは行きません。
上記の本が企業の実践なのに対し、以下の本は植物生態学者という専門家として植林に関わってきた著者のものです。
![]() | 森の力 植物生態学者の理論と実践 (講談社現代新書) (2013/04/18) 宮脇 昭 商品詳細を見る |
著者の経歴に絡めた植物生態学という学問の紹介から、その「潜在自然植生」という考え方に基づいた森のあり方、そして植林活動の実践まで幅広く完結に述べられている好著です。
面白い話として、日本で人の手が入らずに自然の森が残っているのは「鎮守の森」だという話もあります。
例えば沖縄の御願所(うがんじょ)や御嶽(うたき)には、聖なる森や祠があります。名護哀願近くの宮里の御嶽をたびたび訪れていますが、そこには大きなハスノハギリなどの老大木で覆われた立派な森があります。しかし、いまや地元の人でも、なぜそこに森があるのは、その理由を知らないのです。本当に残念なことです。
沖縄の御願所や御嶽は、台風の直撃によって大きな被害を受けそうな集落や農耕地の近くにあります。おそらく、「この森を伐ったら罰が当たるぞ。台風でひどい目に遭うぞ」という宗教的な祟り意識をうまく使って、自分たちの「いのち」を守るために、遠い昔から先達らちが鎮守の森を残してきたのでしょう。
(宮脇昭『森の力 植物生態学者の理論と実践』、講談社、2013、pp.108-109)
やはり、人に100年先のことを視野に入れた行動をとらせるのは宗教的感情なのでしょう。
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