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共に笑える仲間――『剣刻の銀乙女 3』

今回取り上げるライトノベルは『剣刻の銀乙女』3巻です。

剣刻の銀乙女3 (一迅社文庫)剣刻の銀乙女3 (一迅社文庫)
(2013/05/18)
手島 史詞

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 (既刊についての記事:1巻 2巻

剣と魔法ファンタジーにバトルロワイヤルの要素が入り、その上舞台となる国の王はかなり頼りない人物であり、国が内乱状態に陥っているという厳しい設定の本作ですが、そうでありながらストーリーそのものはバトルロワイヤルどころか明るさを失わないというのが本作の味噌です。
主人公が順調にハーレムを築いているラブコメ要素ありの作品ながら(今巻の表紙はこの巻で新登場のヒロイン。1,2巻と続けて表紙がエステルだったので他のキャラとしては残念なところですが…)、ヒロイン同士実に仲が良いのも特徴。しかしそうでなければ、味方にすらいつ刺されるか分からない世界で背中を預けて戦う仲間にはなれないでしょう。

そこで重要なのがヒロインであるエステルの道化師という設定です。
戦うのではなく「みんなを笑わせる」ことをつねに考える彼女が皆を明るくし、今回、国の状況をよく理解していない新ヒロイン・シルヴィアが対立を引き起こしそうな言動や行動を取っても空気を緩めてくれます。
ただ、彼女はヒースとルチルに道化師をやるよう誘っています。しかしルチルは国を代表する騎士の一人(今は学生なので正規ではありませんが)、道化師になどなれるはずがない……と思いきや、今巻ではいつの間にか、「騎士でありかつ道化師であって構わない」というところまで意見が一致してしまっています。(常識的に騎士の威信といったことを考えれば、問題は大ありですが…)
他方で主人公のヒースは、今でも門番を自分の天職と信じています。RPGで言えば町の入り口で「ようこそ」と言っているだけの門番です。けれどもそれが、素朴で普段は冴えないけれど覚悟を決めて槍を持てばどこまでもカッコいい主人公としては実によく合っています。

ストーリー上は、この3巻はほとんど丸1冊、ふたたび「刻魔」が出現した(1巻以来)のでその討伐戦です。
ここでも、壊滅的な打撃を受けている兵士が剣刻を狙って救援に来た味方の命を狙うなど、剣刻が引き起こすモラルハザードは深刻です。もちろん、敵を倒すための力が欲しければ剣刻を持った味方を生かして一緒に戦った方がいいはずですが、このまま負けて終わるくらいなら……という思いが思考を狂わせます。
と同時に、エステルが前巻の最後で敵に力の大半を奪われているのも戦いを厳しくする要素の一つであり、今回の彼女はかつてないてほど傷付きもします。
力が戻らなければ俺が君を守る、と言うヒース。エステルが「門」という能力の使い手であることを考えれば、それは「門番」たる彼に相応しいのかも知れませんが――

「でも、守られるだけなんて、あたしは満足できない。あたしはあたしの手でヒトも罪禍も笑わせる。そのためには、あたしの魔力(アウラ)はあたしが取り戻さないと意味がない」
 (手島史詞『剣刻の銀乙女 3』、一迅社、2013、p.152)


力ある者が弱い者を恐れさせるばかりの関係を変え、笑いをもたらそうとするエステルですが、同時に守られるだけでは終われないという矜持もあります。


同時に、公式の神話には伝えられていない剣刻の真相についても、繰り返し話題になっています。まだ今巻では大きく前進するような情報が出たわけではありませんが、新キャラのシルヴィアが重要な情報をもたらしそうでもあり、次巻ではこの真相に迫るため動くらしき引きでもあり。
人から人の手に渡り国中に散らばった剣刻も、徐々に主人公たちのところに集まってきました。


気になるのは、細部の記述です。
そもそも剣刻から「刻魔」が生まれる条件自体、あまりきちんと説明を聞いた覚えがなくて、いつの間にか既成の知識となっていたものを今回説明された感がありますし。エリナが兄のエリオットの死を知らないと書かれていながら、「彼女は兄の死を嘆きはしない」(同書、p.72)という記述があったり(「死んだのではないかと勘付いてはいるが」という意味合いでしょうか?)。
そもそも、前巻ラストでエリナが剣刻を受け継いでいたことも、今巻になって説明が入りましたし(まあこれは、問題の剣刻が脚甲でエリナの技が蹴りである時点で予想されたことではありましたが)。

ただ、内容的には楽しめます。

 ―――

ちなみに今回、作者の手島氏は本作に加え、ガガガ文庫の『飛べない蝶と空の鯱』シリーズの新刊(シリーズ4巻目)と富士見ファンタジア文庫の新作『かくて滅びた幻想楽園』がほぼ同時発売という珍しい事態です。

かくて滅びた幻想楽園 (富士見ファンタジア文庫)かくて滅びた幻想楽園 (富士見ファンタジア文庫)
(2013/05/18)
手島 史詞

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飛べない蝶と空の鯱 〜たゆたう島の郵便箱〜 (ガガガ文庫)飛べない蝶と空の鯱 〜たゆたう島の郵便箱〜 (ガガガ文庫)
(2012/05/18)
手島 史詞

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飛べない蝶と空の鯱 ~蒼の彼方より、最果てへ~1 (ガガガ文庫)飛べない蝶と空の鯱 ~蒼の彼方より、最果てへ~1 (ガガガ文庫)
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