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虚飾の下の闘争――『デスニードラウンド ラウンド1』

今回取り上げるライトノベルは、新創刊のレーベル「オーバーラップ文庫」から『デスニードラウンド』です。

デスニードラウンド ラウンド1 (オーバーラップ文庫)デスニードラウンド ラウンド1 (オーバーラップ文庫)
(2013/04/24)
アサウラ

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作者のアサウラ氏は、スーパー閉店間際の半額弁当を取り合って戦う物語『ベン・トー』で人気になった作家ですが、デビュー作はガンアクション物でした。
本作はある意味で、そんな作者らしい作品です。そして、(『ベン・トー』と違い)命懸けでハードな戦いを描いており題材も重いのですが、設定は非常にシュールです。

主人公の(つづら)ユリは、親が借金を残して失踪したため、傭兵となった女子高生です。
ここまでは、現実にはないかも知れませんが不可能ではありません。ライトノベルとしても、女主人公で周りの男たちは成人というのはスタンダードからは外れています(ちなみに、「学は持てるだけ持っとけ」(p.67)という理由で学校には行かせてもらっていますが、学校生活の場面はあまりありません)が、銃と少女という組み合わせは理解できます。

そして、銃についての記述は細かく、食べ物の描写は実に美味そうです。

 ユリは信じられない物を見るような目で、ゴクリと唾を飲んだ。目の前に用意されていたのは、ここしばらくの食生活からでは考えられない代物である。
 かき揚げ丼だ。二センチを越える厚さのかき揚げが堂々と丼に載せられており、下の飯を隠しきっている。揚げ物特有のうまそうな匂いがヤバい。とにかく、ヤバい。そこに甘じょっぱいタレの匂いが混じるのだから、すぐにでも箸を差し込みたくなる。
 (アサウラ『デスニードラウンド ラウンド1』、オーバーラップ、2013、p.19)


 箸先でかき揚げを押し切ると、ザクッといい音。万感の思いで頬張れば、その快活な音が今度は口内で鳴り響いた。
 素人が作るとどうしてもべっちゃりとしてしまうかき揚げだが、これは見事だ。揚げ立てというせいもあるだろうが、分厚いかき揚げは全体が軽やかに仕上がっている。厚いが、衣は少なく、小エビ、細切りにしたニンジン、ゴボウ、玉ねぎの具材を繋ぎ止めるにとどめているが故に、かき揚げは格子状に形成されていて、見た目のインパクトほど重くはない。また、だからこそ全体に満遍なく油が回り、ザックリと見事に揚がっていた。
 また松倉の工夫もうまい。このかき揚げ、半分だけとろりと甘い天丼のタレを纏っているも、もう半分にはかかっていない。だからこそ、その至福の食感をたっぷりと楽しめる。
 タレを含み、柔らかになっていくかき揚げと共にご飯を食べるのもいいが、揚げ物の醍醐味である食感も失いたくはない。そんな要望を満たしてくれる。当然そうなると味が薄くなりそうなものだが、かき揚げを載せる前にタレをしっかりご飯にかけてくれている心遣いが嬉しい。
 (同書、p.24)


『ベン・トー』の場合、半額弁当を狙う理由としてまずは一人暮らしの高校生の金欠がありましたが、必ずしもそれだけではありません。戦いによる怪我の絆創膏代を差し引くと得にはなっていない、という記述もありました。
まあ、それは怪我をしないくらいに強くなれば解決することかも知れませんが、つまるところ、堂々と戦って得た飯が美味いというのが動機になっていくわけで、それが物語と主人公の熱さでもありました。

本作『デスニードラウンド』も同様で、必ずしも貧困は主題ではありません。ユリは(戦いで命を落とす危険あありますが、生きている間は)生活は保証されています。
そして、セクハラにも負けず、過酷な現実に打ちのめされそうになりながらも立ち向かっていく彼女は魅力的です。


が、本作をほとんど怪作とも言えるものにしている特徴はこれからです。
まず冒頭から、作中世界では数年前に沖縄でクーデター、そして「北海道独立戦争」「栃木群馬間紛争」があったことが語られています。
その影響で日本国内に大量の銃器が出回るようになっているという設定で、そのため傭兵であるユリ達が国内で仕事をすることができるのです。

さらに、作中でユリ達が実際に行う仕事は暗殺です。
傭兵の本来の仕事は戦争であり、軍事や戦争に関する法律に従って行うものですが、暗殺は完全に非合法です。その違いは作中でも踏まえられていて、主人公チームの持っている銃器にも正規ルートで入手したものと非合法なものの両方がある旨も語られています。暗殺のような「裏の仕事」では非正規ルートの武器も使うわけです。

しかもターゲットは有名なハンバーガーチェーン店のマスコットの道化師、その名もロナウダ・ワックマインドです。

デスニードラウンド ロナウダ
 (同書、カラー口絵)

モデルはやはり……敵の使う銃もMAC-10ですし。

しかもこのロナウダ、銃撃も効かず、「ロナウダ・マジック」という超常の能力を使う怪物です。
当初はこれがトリックなのか本気なのかよく分からないのですが、結論から言えば本物です。内容がSFガンアクションになっていました。
圧倒的に強く、恐ろしい敵で、ユリ達は何度も敗走することになります。
イラストも含め、「マッド・ピエロ」の描写は素晴らしいものです。

そもそも、道化師のメイクには独特の怖さがあります。

 狂ったようなロナウダの笑い声。いや、ピエロというのはそもそも、そんなものかもしれない。おかしな格好をして、おかしなことをして、それでずっと笑っている。それが、ピエロというものだろう。考えてみれば何と気味が悪く、恐ろしい存在か。
 きっと二度とピエロで笑うことはないだろう。ユリは誰かに引きずられながら、そんなことを考えていた。
 (同書、pp.107-108)


ただ、ロナウダは同時に哀しい事情を抱えた人でもあり、しかも別に悪事を働いているわけではありません。主人公チームは相手が何者であろうが、あくまで仕事として暗殺を引き受け、そのためにはえげつない手も使います。
ユリはそんな現実を前に折れそうになり、それでも立ち上がります。

そんな、普段は見えない重い現実というのが本作の一つのテーマであり、「ファンタジーは痛い程の現実が支える張りぼてだ」(同書、p.56)というフレーズが繰り返されます。
その「ファンタジー」を象徴するのが、マスコットキャラクターの作る世界です。

そもそもタイトルの「デスニードラウンド」は、作中に存在するテーマパークの名前です。
表紙等の英語表記では「Death Need Round」となっていて、そんな不吉な名前のテーマパークがあるか、と思いますが……

 またCMが替わる。『デスニードラウンド』と呼ばれるテーマパークのものだ。それは『研究のために飼われているモルモット(ネズミ)が飼育ケースの中で、カラカラ回る車輪(サイレントホイール)を走りながら見る夢の話』をベースにした大人気施設だ。
 逃れられぬ死から必死に逃れようとしてネズミは一生懸命走るけれど、車輪がただただ回るだけ。まるで迫り来る“死”が車輪を回せと強要しているかのように、ネズミはひたすらに走り、車輪を回し続ける……。
 その基本設定は恐ろしくもあるが、実際の中身は愉快なマスコットキャラクターのたくさんいて、アトラクションもたっぷりな世界的にも有名になったアメリカ資本の巨大テーマパークであり、子供たちの憧れの場所でもある。元々がモルモットの夢の話ということで、夢の国とも称されていた。
 (同書、pp.4-5)


何やら、『銀河鉄道の夢』のカンパネルラが現実では死んでいることを思い起こさせる話ですが、モデルは言うまでもなく日本だと千葉県浦安市にある――

この設定を「ちょっと怖いですよ」というユリに対し、ある人物はこんな言葉を返します。

「傍から見ると空しいかもしれないが、しかし、ネズミ自身はそうは思ってはいないだろう。だから、走り続けているし、夢を見ることが出来るんだ。どうせ死ぬのだと飼育ケースの隅で、全てを悟り、ただただ死を待つだけのネズミは楽しい夢を見ることなんて出来はしない。そいつはその瞬間に死んだんだ。自殺に等しい。……走るからこそ、無様でももがいているからこそ、夢を抱くことが出来る。生きることが出来る」
 (同書、p.119-120)


これはそのまま、過酷であっても足掻き、戦い続ける登場人物達についての言及です。


しかしさらに考えてみると、最大の「ファンタジー」とは何でしょうか。

そもそもなぜロナウダの暗殺なんて仕事をしているのかと言うと、依頼人が日本のハンバーガー会社であることは前半で触れられています。
だからといってマスコットを狙うというのは、無理がある等というレベルではないのですが、とにかく要はハンバーガー屋の商業闘争です。

外資系企業 vs 国内企業――ですが、そもそも独立戦争や内戦を経験した後では、「日本という一つの国」をどれだけ主張できるでしょうか。その考えこそファンタジーであり虚飾であることに思い至らざるを得ません。
作中の日本のハンバーガー業界も、別にナショナリズムを公然と主張するわけではありません。
ただ、日本の会社同士で組んでいるところに、「われわれ日本人は連中とは違うこだわり、違うやり方でやってみせる」という姿勢が窺えないでしょうか――実際にはひょっとすると、最大の関心事は利益なのかも知れないとしても。

そして、経済の前に国家が解体に向かうような「グローバル経済」下にあって、逆に(「グローバリスト」の戦略として)ナショナリズムが声高に叫ばれるというのが、現代の状況なのです。

ユリ達は夢を見るために過酷な現実を戦います。だからこそ、安易な夢をそうそう信じきってしまうことはできないでしょう。
現実を生きるというのは、単に現状を追認することではなく、そういうことではないでしょうか。


あとがきでは本作が即興の話から生まれた旨が述べられていて、舞台設定がぶっ飛んでいるのもそのためとのことですが、ある意味でブラックユーモアと、日本国内でガンアクションを可能にする設定とが上手く一つになっていると感じられました。


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(2008/02/22)
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被り物の正義――『デスニードラウンド ラウンド2』

今回取り上げるライトノベルは、マスコットキャラクターと戦うガンアクション小説『デスニードラウンド』の2巻です。 デスニードラウンド ラウンド2 (オーバーラップ文庫)(2013/08/22)
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

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