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愛国心ふたたび

前回の記事の補足を少し。
まず小説の内容についてですが、ユリの仲間入りした傭兵部隊が伝説的な舞台であるらしいことは前半から伏線が張られていましたが、結局それは最後に割とさらっと説明されただけでした。彼らが具体的に特殊なスキルを持っているという話でもなかったようです。少し拍子抜けした感あり。
それから「埋立地」については……これは続きがあれば今後描かれるということでしょうか。


そして私の考えの話です。
私は国家こそ「フィクション」であると言いましたけれど、もちろん国家否定論を唱えているわけではありません。
ただ、国家の分裂や地域の独立は実際あちこちで起こっていることであって(現実の日本は驚くほどに中央集権化の成功した国あので、可能性は低いでしょうが)、国家というのは自明のものでも不変のものでもないということ、そしてナショナリズムと「国家を解体すること」が共存していることがあり得るというのが、問題だったのです。

さて、『日本語の宿命』で薬師院仁志氏はフランス語の patriotisme「愛国心」と訳して(実際、標準的な訳語です)、それが「ナショナリズム(nationarisme)」対立するものとして扱われている用例を示していました。
これもまた、日本語だと違いが分からなくなるものの一つで、というのも patrie も nation も「国」であるから――というわけです。

もっとも、用法が多義的であるのは、決して日本語に特有の事情とは限りません。

さて、そんなわけで卒論以来久々にあるテクストに目を通してみました。

(……)征服者が支配下に置いた人々に見かけ上の独立を与えるとき、集合体〔=社会〕はもっと長く持続する。ローマ帝国が証言している。しかし原始的本能が存続しており、それが破壊的な作用を及ぼすことは疑いない。なすがままにすればよい、それで政治的構築物は崩壊する。かくして、様々な国で、様々な出来事の結果として、様々な条件下で封建制が生じる。共通していたのは社会が解体するのを妨げていた力の除去だけである。そのとき解体はおのずから生じた。現代においては巨大国家が堅固に構成され得たとしたら、それは制約――すなわち外から上から全体に対し行使される凝集力――が少しずつ、組み立てられた初歩的社会それぞれの底から、すなわちたえず抵抗せねばならない破壊的な力の領域そのものからこみ上がってくる統一原理に取って代わられたからである。この、崩壊する傾向を中和できる唯一の原理が愛国心である。古代人〔=ギリシア人〕たちもこの愛国心をよく知っていた。彼らは祖国を崇拝しており、祖国のために死ぬことは甘美であると言ったのは彼らの詩人の一人である。しかし、この都市国家への愛着、すなわちまだ戦いにおいて国家を見守る神の庇護下に置かれている団結と、戦争の力であるに劣らず平和の力でもある愛国心とのあいだには隔たりがある(……)
 (アンリ・ベルクソン『道徳と宗教の二源泉』第4章〔Henri Bergson, Œuvres, Paris, PUF, 1959, p.1210〕)


「愛国心」ははっきりと、(少なくとも)二種類あるものとして扱われています。
しかも同じ著作の序盤では、いかに大きくとも国家も「閉じた社会」であり外部に敵を前提していることが主張されており、その上でこの『道徳と宗教の二源泉』という著作はずっと、そうした「閉じた社会」を超えて「人類愛」に届く可能性を論じていたのでした。そして「戦争の力であるに劣らず平和の力でもある愛国心」は、「人類愛」に届く「開かれた社会」の側に置かれています。
つまり、国家間の対立を乗り越え国際平和を目指すということは、国家を廃止するということではありません。それもまた「愛国心」なのです。

ちなみにこの『道徳と宗教の二源泉』が発表されたのは第二次大戦前の1932年。
その前に著者ベルクソンは国際連盟の活動に従事してもいて、本書中でも引用箇所の少し後で国際連盟のような機関の意義を訴えています(その後の歴史を見ると、限界も明らかになりますが)。
第一次世界大戦というかつてない大規模な戦争を経験し、次なる戦争の危機が予感される中で書かれたテクストであるということは重要です。


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